古より集え

 翌日、諸々の準備を終わらせた僕は必要な戦力を全て従魔空間テイムド・ハウスにぶち込み、イヴォルと合流した。


「では、行くぞ……と言いたいところだが、先に集めてきた戦力について聞こうか。何、少しでも構わない」


「んー、そうだね。一回出しちゃおうか」


 まだ朝方の墓地を、黒い何かが埋め尽くした。


「ッ、おぉ……これは、ヒュドラ……だが、通常種ではないな。スライム……?」


「ギャァゥ!」


 黒い何か、それはインセイン・ヒュドラのセインだ。我ながら安直すぎる名前だ。


「彼はインセイン・ヒュドラっていう種族なんだけど……まぁ、同じ種が居るかは不明だね。何かのスライムとヒュドラが融合した感じっぽいね」


「ふむ、なるほど……感じられる力は凄まじい。ただのヒュドラのそれではないな」


 頷くイヴォルの横に緑光黄樹熊スリヴィング・ベアーのゾンビ、グマが現れる。


「ほう、緑光黄樹熊スリヴィング・ベアーか。これも、通常通りの強さでは無いのだろう?」


「まぁね。魔改造済みだよ。一対多が得意だけど、一対一も結構強いよ」


 答えながら、僕は新たな魔物を呼び出す。薄萌葱の髪、白緑の肌、若竹色の瞳、シルワだ。


「これは……何だ。精霊か? いや、半精霊……?」


「近いね。この子は精霊溶けし歪王樹ミックスト・デンドロンのシルワ・グリメラ。簡単に言えば、トレントとかエントとかそういう系っぽい魔物と森の精霊が溶け混じった存在だね」


「なるほど。後天的な半精霊……いや、完全な精霊の力を持っている時点で半精霊と呼ぶのは適切ではないか。ふむ、実に稀有な存在だ……ヒュドラと言い、よく数日で見つけられたものだな」


「あはは、本当にそうだね。自分でもそう思うよ」


 ぶっちゃけ、今回は運が良かったところはある。いや、今回もかな? 正直、僕は結構運には恵まれてると思ってる。


「それじゃ、この子が最後だよ」


 僕は黒い炭化したような骸骨の侍、ススを呼び出した。


『……参上致した』


 膝を突くスス。彼の体には黒い布が巻かれ、腰には鞘を差している。元々彼は刀とその身一つだったので、僕が装備させた。流石に常に手に刀を持っておくのは疲れるだろうからね。まぁ、彼らのステータスじゃ屁でもないかも知れないけど。


「ほう……ッ! 君は、雷鳴か」


『今その名で呼ばれようと恥があるだけだ。勘弁してもらいたい、賢者よ』


「クカカカッ! 私が分かるか、この骨のみになった私が!」


『それはお互い様だろう』


 どうやら知った顔らしい二人は談笑し始めた。


「昔話に花を咲かせるのも良いけど……そろそろ、来るよ」


「ほう、誰がだ?」


「んー、協力者」


 噂をすれば影が差す。墓場の奥に男の姿が見えた。


「どうもー、疑ってはいませんでしたけど、本当に本気っぽいですね……」


 襤褸一歩手前の薄い茶色の服、ボサついた暗い青色の髪、腰には一本の剣。


「やぁ、ベレット。僕も疑っては無かったけど、本当に来てくれたんだね」


「はは、約束は違えませんよ。言ったでしょ? 俺、奈落くらいでビビるタマじゃないんで」


 そういえばそんなこと言ってたかな。


「ふむ、君は……」


 眼窩の光が、ベレットを睨む。


「こんにちは、虹の賢者。俺は吸血鬼のヴェレッド・ヴェルエールです。一応、烈血だなんて渾名も貰ってます。まぁ、アンタは知らないと思いますけど」


「いいや、知っているとも。そうか。君が烈血か……噂に聞いていたよりも温和そうだな」


 イヴォルが言うと、ベレットは驚いたような顔をした。


「なんだ、知ってるんですか? 俺は一応、アンタの生きてる時代には居なかったはずですけど」


「それはそうだが、私がこの体になったのは最近の話じゃないのでな。生前には居なかったが、死後は居た。それだけだ」


「なるほど、そういうことで」


 と、そこでイヴォルが僕に向き直った。


「正直、ここまでの戦力を集めてくるとは思っていなかった。精々、低級の竜を一匹連れてくれば上出来かと思っていたくらいだ。だが、これは遥かに予想以上だった」


「あはは、それは良かった。まぁ、運の部分もあっただろうけどね」


 八割くらい。


「いや、運だとしても見事なものだ。しかし、これだけの戦力が集まれば……本当に、いよいよ奈落に挑むのに相応しいな」


 確かにそうだね。伝説級の存在も居るしね。ベレットとか、君とか。


「そうだね、僕もなんだか自信が湧いて来たよ」


「あぁ。では、行こうか」


 僕は頷いた。世にも恐ろしい奈落。しかし、僕達ならば踏破出来るかもしれない。

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