黒泥と黒煤

 SPの割り振りが終わると、本体を除く八つのヒュドラの首が蠢き、朧げな瞳に生気が宿る。


「ギャゥ……ギャォ(あぁ……懐かしいなぁ)」


「あはは、調子は良さそうかな?」


 九つの頭はお互いを確かめ合うように動き、暫くそうした後にこちらを向いた。


「ギャォゥ、ギャゥギャォ(ありがとな、本当に助かった)」


「気にしないで良いよ。約束だったしね」


 良かった良かった。約束は完全に果たせたみたいだね。


「それじゃ、ちょっと色々スキルを使ってみてくれるかな?」


「ギャゥ? ギャァ、ギャァゥ……(ん? あぁ、分かった……)」


 ヒュドラの黒紫色の体が蠢き、そこからにゅるりと新たな首が伸びては切り離される。


「おぉ、中々凄いね……」


 無数に生み出されていくヒュドラの首。それは頭だけがヒュドラの蛇のようで、にょろにょろと大地を這っている。


「分離した肉体を使い魔スキルでそのまま変換してるって感じかな?」


 混ざり合ったスライムとしての性質によって体を自由に分離、変質させられるようで、それによって無数に首だけの分体を生み出せるようだ。


「ギャゥ、ギャァゥ(あぁ、そんな感じだな)」


 良いね。集団戦でも強そうだ。


「ギャァ、ギャァゥ……(後は、そうだな……)」


 ヒュドラの体が蠢き、肥大化していく。


「ギャゥギャァ、ギャァゥギャァ(正気に戻れたお陰で、完全に今の肉体を操作できるようになった)」


 肥大化した肉体からはヒュドラの首や、黒い粘体の触手が無数に生えて伸びていく。


「へぇ、良いことだね」


 狂っていた時はヒュドラの首だけが攻撃手段になっていたが、正気を取り戻したことで却ってスライムの体を受け入れられるようになったらしい。


「さて、じゃあ最後に……名前だね」


 僕は顎に手を当て、考えた。


「うん……セインで」


「ギャァ、ギャゥ(おぉ、良いな)」


 インセインから取ってセインだ。自他共に認める雑ネクロだが、彼自身は喜んでくれているので良いだろう。そもそも、彼は自分の種族名を知っているのだろうか。


『そろそろ、よろしいか?』


 背後から声がかかる。炭のような黒い骨の体、穴の底に居た骸骨だ。


「あぁ、黒骨君」


『拙の名は黒骨などではないが……今は名も無き身、それも受け入れよう』


 取り合えず、黒骨君って呼び方は気に入らないらしいね。


『竜との契約は終わったようだが、拙との契約はまだ為されていない』


「あぁ、そうだね。なんかもう、契約した気でいたよ」


 共闘したし、もうほぼ仲間みたいなものだったからね。


「じゃあ、契約しようか」


 僕は手を伸ばした。


 ♢


 契約が完了し、僕は黒い炭化したような骨の手と握手を交わした。


「元人間だしSPは残ってなさそうだけど、一応見ておこうか」


 僕は解析スキャンを発動した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 Race:黒骸 Lv.76

 Job:侍

 Nameless

 HP:356

 MP:378

 STR:501

 VIT:387

 INT:339

 MND:440

 AGI:572

 SP:280


 ■スキル

 □パッシブ

【HP自動回復:SLv.6】

【MP自動回復:SLv.5】

【魔力干渉:SLv.3】

【斬撃耐性:SLv.2】

【心眼:SLv.2】

【打撃耐性:SLv.1】


 □アクティブ

【刀術:SLv.12】

【上級刀術:SLv.7】

【体術:SLv.5】

【剣術:SLv.4】

【瞬歩:SLv.3】

【瞑想:SLv.3】

【鎌術:SLv.2】


 □特殊スキル

【黒骸】

【侍】

【神代流】


 ■称号

『二つ名:雷鳴』


 ■状態

【従魔:ネクロ】

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 黒骸、見たことない種族だね。見た目通りアンデッド系なのは確定だろうけど……デフォルトで太陽光は効かないみたいだね。突っ込みどころは多いけど、先ずSPが280も余ってるのは嬉しいね。多分、骸骨になってから稼いだ分なんだろう。

 それと、神代流って、武道の流派が特殊スキルになってるのは初めて見たね。刀術も異常にレベルが高いしそれだけ熟達した技術を持っているってことだろうね。


「雷鳴、格好いいね」


『……そう呼ばれるのは久し振りだな。この身には不相応な名だが』


 そういえば名は捨てたって言ってたけど、何て呼ぼうかな。


「名と言えばさ、君を呼ぶ為の名前が無いと困るんだけど」


『……名か。何でもいい、其方が好きに決めてくれ』


 どうしようかな。見た目だと炭とかだけど……流石にスミだと直球すぎるね。


「スス、とかで良いかな?」


『構わない』


 まぁ、煤でも大して変わらないけど、漢字にしたら格好いいし、セーフだろう。


「さて、それじゃ君のステータスも弄らせてもらおうか」


 僕は表示される彼のステータスウィンドウに手を伸ばした。

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