精霊溶けし歪王樹

 解析スキャンが発動し、僕の目の前にステータスが表示され……無かった。


「ん……あ、そっか。まだ従魔じゃないから見えないんだったね」


 僕は少し迷ったが、少年を起こすことに決めた。


「うん。じゃあ、そろそろ起きて欲しいな」


 僕は少年の体を軽く揺すった。


「ぅ……ぁ……だれ……?」


「やぁ、僕はネクロ。魔物使いモンスターテイマーだよ。今日は、君に仲間になって欲しくて来たんだ」


 少年は少しの間ポカンとした後、首を振った。


「ダメッ! 危ないから、ダメ……今は、大丈夫みたいだけど……僕の体には、悪い奴が居るから」


 悪い奴……アレのことかな?


「多分だけど、もうその悪い奴はいないよ。僕の仲間が魂を吸い取ったからね」


「ぇ……ほ、ホントだっ! やった、やった……ッ! ありがとう、お兄さんっ!」


 僕は微笑み、頷いた。


「さて、それじゃあ……どうする?」


「お兄さんの仲間だよね、勿論良いよ? だって僕ら、もう友達だもん……そう、だよね?」


 最後になって不安そうに聞いてきた少年に、僕は微笑んだ。


「勿論。だから、僕の契約を受けてくれるかな?」


「うん。じゃあ、なる。でも、契約って、もんすたーていまーさんは、精霊使いさんとは違うの?」


 僕は首を傾げた。


「多分、違うけど……どういうことかな?」


「精霊使いさんじゃないと、僕たち精霊は本当の力を貸せないんだよ? だから、お兄さんは大丈夫なのかなって……」


 僕は悩んだが、首を振った。


「多分大丈夫だと思う。見たところ、今は完全な精霊の状態じゃないからね」


 精霊というのは基本的に環境に縛られる。だが、精霊使いならばある程度その縛りを無視して精霊の力を借りられるという訳だ。魔力という代償は必要だけどね。


「ん……確かに、今の僕なら、大丈夫……かも?」


「きっと大丈夫だよ。それに、もしダメだったとしても君に悪いことは起きないし、僕も大して損はしないから大丈夫だよ」


 安心させるように言葉をかけながら、僕は契約の言葉を思い出していく。


「じゃあ、良いかな?」


「うん。契約だよね? 僕、ちゃんと知ってるよ。魔力さえ貰える契約なら、大丈夫」


 精霊は生まれながらにそういうのを知っているのだろうか。まだ、彼は精霊の中では幼そうに見える。


「そっか、良かったよ。じゃあ、契約事項を確認しようか」


 僕は少年に契約事項を確認すると、つらつらと一応存在した精霊用の契約の呪文を唱え出した。




 契約が完了すると、少年は驚いたように自分の体をペタペタと触った。


「凄い……凄いよ、お兄さん。力が、溢れてくるよ……それに、契約の時の魔力、すっごい美味しくて、濃厚だったよ。もしかして、お兄さん……魔法が物凄く上手?」


「んー、どうだろうね。まぁ、INTは高いからそうなのかな?」


 魔力の美味しさとか濃厚さとか、よく分からないけどINT依存なのかも知れない。


「まぁ、美味しいなら良かったよ。取り敢えず、今度こそ……解析スキャン


 今度こそ、僕の目の前にステータスが表示された。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 Race:精霊溶けし歪王樹ミックスト・デンドロン Lv.12

 Job: ──

 Nameless

 HP:283

 MP:832

 STR:302

 VIT:289

 INT:521

 MND:543

 AGI:258

 SP:660


 ■スキル

 □パッシブ

【HP自動回復:SLv.8】

【MP自動回復:SLv.7】

【光合成:SLv.6】

【高速再生:SLv.4】

【毒液生成:SLv.3】

【魔力視認:SLv.3】


 □アクティブ

【土魔術:SLv.3】

【調合:SLv.2】


 □特殊スキル

【森の精霊】

歪みし王の樹エビルキングデンドロン


 ■状態

【従魔:ネクロ】

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 特殊スキルが二つあるけど、これは混ざる前の二体の種族スキルってことかな。光合成とか高速再生とか、回復系のスキルがけっこうレベル高いね。でも、ステータスで言うと耐久力はそこまで高くないかな。


 あ、因みに今表示されているステータスは僕の力で強化されていない状態のものだ。一応、ステータスは装備やバフの補正の表示を弄れるから、結構便利だ。


「よし、いいね……先ずは名前を付けよう」


 どうしようかな……そうだ。


「エトナ、メト、偶には君たちが名付けをやってみてよ」


「え、私ですか?」


 完全に関係ないモードに入っていたエトナが意外そうにこっちを見る。


「うん。君たちの付けた名前のどっちか、この子に選んでもらおうかなって」


 エトナ曰く、僕のネーミングセンスは雑で良くないらしいので偶には任せてみることにする。


「ふふふ、しょうがないですね……じゃあ、私から行きますね?」


 僕は頷く。


「グリメラ・ペルパガンド……グリメラは精霊使いの英雄で、ペルパガンドはその親友の重戦士ですっ! どうです? カッコいいでしょう?」


 結構ゴツい名前だね……メト、行こうか。


「私ですか……名付けという作業は初めてなのでどうすべきか分かりませんが……そうですね、見たところ森や自然の精霊のように見えるので、とある古い言葉で森を表す、シルワ。で、どうでしょうか」


 うーん、精霊っぽい名前で良いかもね。でも、ちょっとだけ女の子っぽいかな?


「どうする? どっちが良い? それとも、どっちもいやかな?」


 僕が尋ねると、少年は嬉しそうに微笑んだ。


「どっちもが良いっ! 友達に付けてもらえた名前なら、なんでも嬉しいよ?」


「嬉しいこと言ってくれますね……! でも、私だけにしましょう! 折角なので!」


 君は素直な良い子だね。それに比べてエトナは……うん。


「じゃあ、合わせてシルワ・グリメラで良いかな?」


「ネクロさん! ペルパガンドさんが抜けてますよ?」


 要らないでしょ。精霊使いのグリメラだけならまだ分かるけど、その親友ってなんだよ。もはや精霊無関係じゃん。


「うん、それで良いよ! ありがとう、みんな」


 僕は少年の……シルワの頭を撫でながら、スキル構成について考え始めた。

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