龍に変じ、地は変じ。

 地面から生え出てきた木たちは、まるで人間の手足のように枝と根を動かして襲い来る。


「グラが生み出す奴に似てるね。グラのよりもより木っぽくて大きいけど」


「ですが、そこまで脅威ではないですねぇ」


 そうだね。戦力にはなるだろうけど、正直僕の仲間たちに対抗できるようなものだとは思えない。


暗影斬ダークシャドウスラッシュ! 余裕ですね~!」


疾風拳シップウケン鉄鋼拳テッコウケン。エトナ、油断せずに」


 次々と木を葬っていくエトナ達。苦戦している様子は見られない。


「君の新たな力、どうやら大したことないみたいだね?」


「ダマレッ!」


 それでも木を生み出し、根や枝を振るう樹人。


「我も手を貸そう。刮目するがいいッ!」


 自分でも相手できそうなのが出てきたからか、威勢よく飛び出していく竜人。


「竜気解放。力を見せてやる」


 純粋な力の風が吹き荒れる。


「オラオラッ! 仲間を増やしたって関係ねェよなァ! あんな鈍間な木どもじゃ俺は追えねェ。お前は身を守れねェ!」


「クッ、鬱陶シイッ! ヤメロッ!」


「やめろって言われてやめる馬鹿がいるかァ? いるわけねェだろバーカッ!!」


「グッ、ギ、ザマァ……ッ!」


 根や枝を利用して上へ上へと逃げる樹人に、跳躍したエクスの拳が叩きつけられた。


「ぅ、もう、わたさ、な……ッ! 抗ウナッ! 貴様ハ最早、我ガ力ニ過ギンッ!」


 地面に叩き落され、また顔を出す少年。それを直ぐに覆い隠す木の皮。しかし、今はもう両目と片頬が露出している。


「新タナ力、新タナ力、新タナ力……ッ!」


 空洞の壁の一点から、無数に根が生え、絡まりあって巨大な一つの根となる。


「これは……」


 一体となった根の集合体。それは龍だった。木で作られた龍だ。巨大なそれは茶色一色で、完全に根だけで作られている。


「龍ヨ、我ガ敵ヲ喰ラエッ!!」


「また新たな力ね……よく魔力が切れないなぁ」


 僕がつぶやくと、影からネルクスが顔を出した。


「恐らく、エネルギーを吸収し続けているのでしょう。偶に体から生やした根を壁に繋げていますからねぇ」


「なるほどね。そういえば最初も身体中から生やした根を壁に繋げてたしね」


 現れた木造の龍。それは樹人に近づくと、樹人を呑み込んだ。


「流石に自分の創造物に裏切られたわけじゃないよね……だとしたら、自分の身を守るためかな?」


 龍の中に姿を隠したといったところだろうか。


『クケケケ、龍ト一体ニナッタ我ヲ殺――――』


「――――グォオオオオオオオッッ!!!」


 龍の中から得意げに語る樹人。燃え盛る大斧が振り下ろされる。


『クッ、動キガ制御デキン……ッ!』


 背に大きな損傷を負い、そこを中心に炎上する龍がバランスを崩し、地へ堕ちていく。


「落ちてきますよっ!」


「問題ありません。好都合です」


 落ちてくる龍を捕らえるように、地面がとらばさみのような形に変じていく。メトの力だ。


「良いじゃねえか、タコ殴りにしてやるぜェッ!」


 龍がすっぽりとメトの変形させた地面に捕まり、固定される。


『ヤメロッ! クソッ、多勢ニ無勢カッ!』


「今更だね。一対一ですら勝てない相手もいる上に、人数不利なんだ。君が僕たちに勝てる理由はどこにもないよ」


 龍に群がっていく仲間たち。龍はエクスの宣言通りタコ殴りにされ、遂に中に隠れていた樹人が現れる。


「たす、け……」


 助けを求める少年。メトはその前に立ち、拳を振りかざした。


不殺勒薩掌ふさつろくさつしょう


「うっ」


 メトの拳が樹人に刺さる。が、それは樹人を殺めることはなく、ただ木皮の再生だけを阻害した。


「今のうちに拘束してしまいましょう。再生と同時に攻撃を繰り返せば効率良く目標を達成できます」


「リスキルかな?」


 瞬く間にメトの力で拘束されていく樹人。


「それもいいですが……」


 と、ネルクスが僕に声をかける。


「我が主よ、私にお任せいただいても?」


「いいよ、ネルクス」


 影から現れ出たネルクスは、暗黒を帯びた手で樹人の体に触れた。


「これだけ拘束されていれば簡単ですねぇ」


 暗黒が、ネルクスから樹人へ流れていく。


「クフフフ……どちらがか、思い知らせてあげましょう」


「グ、ガ、ァアァァ、ヤ、メ……ァ、ゥ」


 暗黒が樹人の体内を侵食していき、遂には全体を覆い尽くした。


「……ふぅ、中々の美味でしたねぇ。しかし、色々と面白いことが分かってしまいましたねぇ? クフフフ」


 暗黒は直ぐにネルクスの中に引いていく。どうやら、樹の方の魂を食ったらしい。


「ぁ、り……が……」


 木皮が完全に剥がれ、バタリと倒れる少年。どうやら、話ができるのは少し後になりそうだ。


「……いや、凄かった。今日は本当に良いものが見れた。それじゃ、俺はそろそろ帰らせてもらう」


「あ、うん。じゃあね」


 ホトン・トファラック。結局、何事もなかったね。メトと目を合わせ、少しの安堵と共に頷きあった。


「あぁ、いつかまた会おう。機会があればな」


「またね」


 手を振り、背を向けるホトン。



「ホトンさん」



 突然、エトナがホトンに声をかけた。



「────敵ですよね?」



 ホトンの目が、僅かに揺れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る