繁茂する暗き穴
結局、そのまま僕たちに合流することになった竜人のイノグァロド・ベルクレルクと、冒険者の男。そういえば、名前を聞いてなかったね。
「着くまで暇だし、自己紹介でもしようか」
僕は五人で並んで歩きながら話しかけた。
「僕はネクロ。魔物使いの次元の旅人だよ」
「エトナです! A級冒険者です! 二つ名は……影刃」
「メトです。ネクロ様の忠実なる配下です」
キリッとカッコつけて言うエトナに、それを白い目で見ながら言うメト。
「A級か! それは凄いな……俺はB級冒険者のホトン・トファラックだ。得物は主に剣だが、何でも使う」
「我は偉大なる竜人、イノグァロド・ベルクレルクなり。我を畏れ、跪き、奉るが良い」
飽くまでも尊大な態度で言い放つ竜人のベルクレルク。イノグァロド呼びはちょっと、発音が難しすぎて諦めた。
「凄いね。さっきあそこまでボコボコにされといてその感じを出せるのはもはや才能だよ」
「ぼ、ボコボコにはされておらんッ! 全く、礼のなっていない奴だな……不遜なり」
そういう君は傲慢だけどね。
「それで、ベルクレルクは試練をこなしに来たらしいけど……君は? 何をしにここに来たのかな?」
「俺か? 俺は依頼をこなしに来たんだ」
その内容を聞きたいんだけど、と思ったが深くまで聞くのは冒険者のマナーに反していると思ったのでやめておいた。
(……マスター)
くいっと、僕の裾が引っ張っられた。
(ホトンの言葉、私の観察が正しければ嘘だと思われます。私たちに不利益がある嘘かは分かりませんが、警戒はしておいた方が良いかもしれません)
(そっか。分かったよ)
メトのことだ。外れていることは無いだろう。しかし、何のための嘘だ?
「……いや」
冷静に考えれば、B級の冒険者がゴブリンの群れ程度であそこまで焦るだろうか? だったら、何故僕たちに助けを求めた?
(エトナにも共有しといてね)
(……いえ、エトナに共有すればほぼ確実に態度に出てしまうかと)
確かに。一瞬で僕たちが気付いてることがバレそうだね。
「どうしたんだ? 急に黙り込んで」
「んー、従魔と交信してたんだ。先の方に進んでる仲間とね」
そのまま、僕は言葉を続ける。
「どうやら、見つけたらしいよ」
それは、僕らのお目当てだ。
「緑の穴に潜む怪物を」
正真正銘のユニークエネミー。竜人の試練になり得る怪物を。
♢
道中、エリアボスであった
「ここだね」
「……穴、ですね」
そこは、ボス熊の居た空間の更に奥。大きく深い縦穴があった。
「じゃあ、行こうか」
「私から行きます」
飛び込んだメト。釣られて飛び込んでいくエトナ。僕はミュウを呼び出し、完全に包み込んでもらい、クッション代わりにして飛び降りた。因みに、蔦を掴んでいけば飛び降りる必要はない。
「……聞いてた通りだね」
それは、樹だった。その体は明らかに樹で作られていた。
「
それは、人だった。その体の形状は明らかに人だった。
「ユニークボス。その力を見せてもらうよ」
しかし、まるで少年のようなそれの身体中から両手を広げた程に太い大量の根が伸びていた。先端が細い大量の根は全て空洞の壁に繋がっている。
『ァア、ゥウゥ……ア、ァア……ィ』
苦しむような声。それは、この広い地下空洞の中心で根を張る樹人のものだった。
『ァゥゥ……ァアァァアアアアアアァァァッッ!!!』
根が全て人樹から外れ、樹人は咆哮をあげる。
「ッ! 凄いな、これは……これが、例の怪物か」
「これが我の試練……だが、樹に火ならば相性は悪くないな」
漸く降りてきたらしい二人。しかし、戦闘の火蓋はもう切られている。
『ァゥゥ……ッ!』
「クキャッ!」
樹人が指を向けると、自身の体から外れた、壁から伸びる大量の太い根が、ネロに集中した。しかし、ネロは転移によってそれを簡単に回避する。
『ゥゥゥッ!』
「グォオオオオオオオッ!!」
ならば今度はとロアに殺到する根たち。しかし、ロアは大斧を振り回して根を断ち切り、防ぎ、そして時には根から根へと跳躍して凌いだ。
「ピキィッ! ピキィピキィッ!」
『ァッ! ァゥァアゥゥッ!』
そして、数の差がある以上防戦一方にはならないのがこの戦い。皆が樹人本体を狙うなか、機動力に欠けるミュウはまったりと根を溶かし、食らっていた。普段は圧縮されているその肉体は根を食らうためにどんどんと広がっていき、樹人も対処しきれずにただ慌てている。
「ぎゃぉおおおおおおおおッッッ!!!」
『ァァゥッ!?』
中心が黄金に輝く黒紫色のブレスを吐くのは、マグナ。その炎は空洞中に伸びる根たちを燃やし、蝕んでいく。
「……簡単、ダ」
『ァァゥォゥォゥァァアァアアァァッッ!?』
今度は逆に、エフィンの骨の嵐が殺到する。一つ一つが空間魔術を纏った必殺の刃であるそれは、いとも容易く樹人の体を穴だらけにした。
「……凄いな」
「我の試練なのに……我、何もしなくて良さそうなのだが」
余りにも順調な滑り出し。しかし、彼らは完全に傍観者と化していた。
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