竜に非ず、人にも非ず。
植物の覆う洞窟を進んだ先、やたら大きな空間でゴブリン達と戦闘を繰り広げていた相手を発見した。
「へぇ……これは予想外だね」
それは、頭から二本の曲がった角が生えた人間。しかし、僕はその正体がただの人間でないことを知っている。
「珍しいね、竜人」
「竜人だとッ!?」
付いてきた男が悲鳴をあげる。そう。その正体は竜人だ。読んで字の如く竜の人。それは竜に非ず、しかし人にも非ず。竜の因子を引き継いだ人のようなものと形容するのが最も適切だろう。当然、レンの見せた竜と人の融合とも別だ。
「魔物じゃなかったのは残念だけど、しょうがないね」
僕は溜息を吐き、ゴブリンと剣で斬り合う竜人に目を向けた。
「……貴様か」
と、竜人の方も僕に目線を合わせてきた。
「繋がっているな? 貴様が、この邪鬼らの主か」
「そうだよ。僕が彼らの主だ。でも、邪鬼なんて呼び名は心外だね」
乳白色の角。纏うは真っ赤な貴族服。
「そうか。滅してやる」
どうやら、話を聞く気はないらしいね。
「どうします? ネクロさん」
「マスター、このままではゴブリン達に甚大な被害が及びます」
そうだね。彼らの殆どは僕のゾンビや
「まぁ、そうだね……
瞬間、虚空から溢れ出る魔物達。それは、明日に向けて集合していたロアやネロ、エフィンなどの精鋭だ。アースやグランは大きさの問題で一応出していない。そもそも必要無さそうだしね。
「やはり魔物使いか……だが、人如きが魔の力を借りたところで偉大なる竜の力には敵わん」
言葉と同時に竜人の体が変化し、体の各所が鱗となっていく。爪は竜のように鋭く長く伸び、背中からは立派な翼が生えてきた。頭だけは完全に元の姿を保っている……いや、その眼球も爬虫類のように変化している。
「それが本気ってところかな? 」
「いいや、まだだ」
竜人の力が高まっていく。伝わるプレッシャーは肥大化していき、それはかつての強敵である赤竜ディアンを思わせる。
「────竜気解放」
瞬間、僕らを純粋な力の風が襲った。そこらの魔物であればこれだけで気を失うほどのオーラだ。
「じゃあ、それが本気かな?」
「……そうだ。今、叩き潰してやる」
竜人がその翼を使って飛び上がると、僕らの方に滑空してくる。
「じゃあ、ここは任せて行こうか。僕らもあんまり時間ないしね」
「んー、そうですね。ちゃちゃっと行きますかっ!」
それを無視し、歩き出す僕たち。
「本気かッ!? いや、囮ということか? 確かに、まともに戦って勝てる相手ではないが、オーガやその程度で止められるとは、思えな……ぇ」
迫る竜人の爪、それを受け止めたのはロアの重厚な斧だった。
「グォオオオオオオオッッ!!!」
「くッ!? 腐り果てたオーガ如きが……ッ!」
強大な敵を喰らい、戦い、喰らい、それを繰り返していたロアのステータスは悪食によって異常な領域まで達していた。
「クキャッ、鍔迫り合いなんてしてる暇か?」
「ぐぅぁァッ!? ば、馬鹿なッ!?」
嘲笑うハイゴブリンのネロが、爪と斧をぶつけ合う二人の横に突然現れ、竜人の腕をあっさりと斬り落とした。
「わ、我は……竜人ッ! 有象無象の雑魔に負ける、訳がハァッ!? ぐァ、ぼぇァッ、ぎゃッ、やッ、ぶぎゅッ!?」
「……愚か、ナ」
飛び退いた竜人に襲い掛かる骨の嵐。それを操るは浮遊する頭蓋骨、エフィンだ。空間魔術を纏った骨の嵐は竜の如き鱗を持ち、竜気を纏った竜人も容易く蜂の巣にした。
「が、グ……ゃ、め……」
片腕を無くし、穴だらけの体になった竜人は倒れ伏し、許しを請うた。
「んー、見てたら終わっちゃったね。折角だし、ちょっと聞かせてよ。竜人君」
「な、に……を……」
しかし、流石は竜の因子を持つ存在というべきか、その傷だらけの体は既に再生し始めている。
「君みたいなのがここに何しに来たのかな?」
「試練……だ……里から、試練を越えるために、来たのだ……」
へぇ、試練。
「その試練って?」
「この洞窟に、潜む……怪物を殺して、みせよと……」
なるほどね。この洞窟に潜む怪物、僕の目的としてる相手と同じかな。
「じゃあ、なんでゴブリン達を襲ってたのかな?」
「……怪物としか言われてない……から……取り敢えず、魔物は全部、殺せば良いかな……と、思ったのだ……」
思ったのだ、じゃないけど。
「じゃあ、なんで僕らを襲ったのかな?」
「……なんか……ノリで、戦った方が良さそうかな……と、思ったのだ……」
思ったのだ、じゃねえけど。
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