準備と烈血
あの後、イヴォルから準備時間を二日貰った僕はマザーウィスプのムーンに協力してもらって戦力を集めていた。
今はある程度やることを終えたのでサーディアの喫茶店で話していた。
「よし、取り敢えず既存の戦力はある程度集められたね」
精鋭だけを集めることにしたが、その中でも特にエクスやディアンは頼りになるだろう。
「そうですね〜、エクスさんとか私でも勝てないですし」
「そういえば、マグナさんは連れて行くのですか?」
僕は頷いた。
「うん。迷ったけど連れて行くことにしたよ。本人の希望もあったし、幼いだけで実力は確かだからね」
それに、幼いだけで言えばメトも一応0歳だ。
「取り敢えず明日は戦力探しに出かけようか」
「どこに行くんです?」
カフェオレをストローから啜りながらエトナが聞いた。
「んー、どうしようかな。なんかオススメの場所とかある?」
僕が尋ねると、エトナがカフェオレを机に置き、答える。
「メルメモ大繁茂洞窟って知ってます? そこに凄い化け物がいるらしいですよ」
「へぇ、ユニークモンスターかな」
続けて、メトがコーヒーカップを机に置いた。
「私も一つ、知っています。キエカの山には恐ろしい化け物が潜んでいると」
「どっちも抽象的だなぁ……ま、良いや」
調べればある程度分かるだろう。それに、その正体が何であれ恐ろしい化け物なのであれば僕にとってはそれで十分だ。
「うん。明日、どっちも行こう。今日はもう遅いし、調査だけ僕がしておくよ」
「おー、明日は大冒険ですねっ! 実はメルメモ洞窟行ってみたかったんですよ。植物に覆われた巨大な洞窟らしくて、洞窟の中なのに光る植物のお陰で明るいらしいですよ」
じゃあ、その化け物とやらも植物系なのかな。
「────どうもー、久し振りですね。俺ですよ」
声をかけられた。襤褸一歩手前の薄い茶色の服、ボサついた暗い青色の髪、腰には一本の剣。
「あれ、ベレット?」
「そうですよ。久し振りですね。改めて、闘技大会優勝おめでとう」
「あはは、ありがとね。また店にも行かせてもらうよ」
ベレットを名乗る男、ミラクルム・プローディギウム魔道具店の用心棒……その正体はヴェレッド・ヴェルエール、烈血の吸血鬼として大昔に幾つもの町を滅ぼした激ヤバな魔物だ。
「それで、どうしたの? 偶然この店に入ったって訳じゃないでしょ?」
「勿論ですよ。俺が来たのは礼の為ですよ。尻拭いの礼です」
あぁ、そういえばそうだったね。
「あはは、どうだった? 僕の贈り物、気に入ったかな?」
「気に入りはしましたけど、驚きましたよ。別にそっちで殺してても良かったんですよ」
「一応、使い道があるかもと思ってさ」
「廃人状態で送られてもどうせ殺すだけですよ。それに俺、拷問とかは趣味じゃないんで」
そっか。それは残念だね。
「ネクロさん、何の話してるんですか?」
「ん? あぁ……この前の魔の島の襲撃、一人だけ生け捕りにしたでしょ?」
頷くエトナ。
「あれ、ムーンに渡して情報とか色々抜き取ってもらった後、ベレットに渡したんだよね」
「え、ズカラをですか?」
「うん、ベレットが黒斑を潰すって言ってたんだけど一部の奴らは逃げ出したみたいでさ。逃げ出したその組織のトップであるズカラを僕が代わりに捕まえたんだ」
丁度自分から魔の島に来てくれたからね。
「それで、今日は礼をしに来たんですけど……なんか、困ってることあります?」
困ってること、か。
「ねぇ……奈落って、知ってる?」
ベレットの動きが止まった。
「……マジ?」
「マジだよ。明後日、奈落に行くんだ。囚われた女神を助けにね」
ベレットはヒクついた笑みを浮かべた。
「ハッ、ハハッ、アンタら本当に馬鹿ですね。そういうことならしょうがない……俺も付いて行ってあげますよ」
「あはは、本当? 良かった、君が来てくれるんなら百人力だよ。でも、知ってると思うけど奈落は危険だよ。ただ冥界に行くんじゃなくて、奈落に行くんだ。良いんだね?」
「勿論良いですよ。俺を舐めないで下さい。奈落くらいでビビるタマじゃないんで」
それは頼もしいね。
「ところで、他にどんな仲間が居るんですか? 大会の時はオーガや巨人が居ましたけど」
「そうだね。彼ら以外だと三回くらい復活する人狼、巨大化して分身する赤竜、虹の賢者……そこら辺かな?」
ベレットは眉を顰めた。
「ちょっと色々意味が分かんない単語が並んだんですけど……俺でも唯一分かる虹の賢者って単語、本物ですか?」
「本物だよ。古代の英雄、虹の賢者……イヴォル・イクレーム」
ベレットは乾いた笑いを零した。
「はは……本当、何があったらそうなるんですかね? ま、虹の賢者が味方なら頼もしいことこの上ないですけどね。それに、奈落に行きたがる理由も分かる。不死の女神を救いに行くんですよね?」
「そうだよ。不死と停滞の女神、ラヴ・マーシー。僕らは彼女を、奈落の底から救い出しに行く」
ベレットは今度こそ、純粋な笑みを浮かべた。
「良いですよ。面白いじゃないですか。寧ろ、こっちから頼みますよ。俺を連れてって下さい」
「勿論良いよ。一緒に地獄に落ちようか」
僕は予想外に頼もしい仲間を手に入れ、ラヴへの道をまた一歩進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます