Go to Abyss

 ぽっかりと空いた穴。僕らは、先の見えない真っ暗なそれを前に集まっていた。


「ここから落ちれば奈落だ。当然、そのまま落ちればぐちゃぐちゃに潰れて死ぬが、ここは私に任せて欲しい」


 イヴォルが杖の先で地面を叩くと、僕の体を浮遊感が包み込んだ。体から白い靄のようなものが見える。


「これで落下死は防げるのかな?」


「あぁ、そうとも」


 頷くイヴォル。彼が知る魔術の数は百や千では聞かないのだろう。


「では、私から行くぞ」


 骨の賢者は、先の見えない穴へと飛び込んだ。


「じゃあ……私たちも行きます?」


「そうだね。ちょっと怖いけど」


 言いながら、僕は穴に一歩近付く。


「マスター、私が先に行きます」


 が、その横からすり抜けるようにメトが落ちていった。


「じゃ、次は私ですね」


 ひょい、とエトナが続いて落ちる。


「……恐怖心とか無いのかな」


 残された僕は、溜息を吐きながら深淵へと落ちた。




 ♢




 そこは、暗闇だった。


「……凄いね」


 上の冥界は、ただ光が無い故の暗さだった。しかし、ここは違う。闇に満ちているから暗いのだ。そう確信できる。


「暗視、もしかして必須スキルなんじゃないかな」


 未だに取ってない人も多いと聞く暗視だけど、本気で便利だ。多分、冥界や奈落に関しては暗視がないとほぼ詰んでる。


「ネクロさん……ここ、寒いですね」


「動きづらいよ、エトナ」


 腕に寄ってくるエトナを押しのけて、僕は周囲を確認する。


「上と違うところと言えば……地面が真っ黒だね」


「マスター、この地面は異質です。既存のどの石類や土とも類似性がありません。というか、物質的ではないです」


 ちょっとよく分かんないね。


「無事落ちられたようで何よりだ。さて、穴はもう閉じたな」


 上を見上げると、僕が通って来たはずの穴が閉じている。おっかないね。


「ていうか……聞いてたよりも命の危機にはならないね」


「ここは牢では無いからな。刑務所で言うならば、ただの廊下のようなものだ」


 うん。まぁ、分からなくはないけど。


「檻に近付くと不味いってことだよね?」


「そうだ。それと、少し移動するぞ」


 瞬間、僕の体を一瞬だけ浮遊感が包み込んだ。景色は変わらない。が、恐らく移動したのだろう。


「今のでどのくらい移動したの?」


「気が遠くなるほどだ」


 それだけ答えると、イヴォルは地面に座り込んで目を瞑った。




 数十分後、漸くイヴォルの気配が変化した。


「…………来い、ネクロ君」


 言われるがまま隣に座ると、腕を取られた。


「……ぅ、ぉっと」


 繋がった。強制的に。現世から、冥界から、奈落へと、パスが繋がった。


「門を開くぞ」


 星々が無機質に浮かぶ宇宙空間のような場所から遮断される。暗黒へと引き戻される。そんな僕の前には渦を巻く漆黒のゲートが開いていた。


「さて、漸くここまで漕ぎ着けたか……前回は腰を落ち着ける暇も無かったからな」


 しみじみと言うイヴォル。


「君たち、良いか……ここからが本番だ」


 イヴォルの言葉、彼が向く先からは嫌な気配がビンビンしている。


「そうみたいだね。でも、今日のところはここまでだ。明日から本気出す」


「あぁ、そうだったな。良いだろう。君の本気……楽しみにしておこう」


 僕は現世へと繋がっているであろうゲートへと近付いた。


「私はここらを少し整備しておく。君たちは先に帰ってくれていて良い」


「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて」


 言葉通り、僕らはゲートへと吸い込まれた。

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