たるたろす

 消えていくアンデッドの群れ。あと一息と言ったところだが、流石に一筋縄ではいかない。


「ッ! 流石ですね! でも、折角なら得意の弦楽器の方を聞きたかったですッ!」


「ォォォ……ッ!」


 エトナを囲うのは二体のアンデッド。暗い青色のマントを纏い、鈍い金色の剣を持った燻んだ肌色の骸骨。真っ赤な鎧に身を包んだ、大剣まで真っ赤な大柄な骸骨。どちらも元英雄のアンデッドであり、名をアーフェースとグラギアスだ。


暗影斬ダークシャドウスラッシュッ……よりは、銀聖閃刃フラッシュエッジッ! こっちの方が効きますよねッ!」


 暗黒の斬撃が鈍い金色の刃を弾き返し、背後から迫る紅蓮の大剣をヒラリと避けながらグラギアスに聖なる刃を叩き込む。


「アーフェースさんッ、生前は精霊とも仲が良かったみたいですけど……今は闇の精霊しか使えないみたいですねっ!」


「ォォォ……」


 暗い青色のマントをはためかせるアーフェースの後ろから暗黒の球体が幾つか浮かび、エトナに殺到する。


影像斬舞シャドウ・ダンス


 が、エトナは残像のような影を残しながら高速でそれらを回避する。


「ォォォォォッ!!」


 グラギアスが吼える。彼の足元がドロドロと溶けてマグマのようになり、そこから豪炎が溢れ始める。


「おっ、漸く本気って感じですか? でも、それって仲間を巻き込んだりしませんか?」


「ォォォッ!」


 そんなことは知らんとばかりに突っ込むグラギアス。彼の周囲からは凄まじい熱量と勢いの炎が噴き上がり、濁流のようにエトナへと襲いかかる。


「うわっ、これは……」


「……ォォォ」


 炎の濁流は近くにいたアーフェースすらも巻き込んでエトナを呑み込んでいく。エトナの声が途切れ、グラギアスの呻き声だけが響く。


「ォォォ……ォォ?」


 完全に仕留めたと判断したのか、収まっていく炎。しかし、揺らめく陽炎かげろうの奥に一つの影が見える。


「態々明るくしてくれたので……影が生まれましたよ」


 影の中から起き上がったのは、エトナだ。慌ててまた炎を呼び出そうとするグラギアスだが、もう遅い。


「クリティカルヒット、です」


 高速で背後に回り込んだエトナを捉えることも出来ないまま、グラギアスの頭蓋は砕かれた。


「さて、次です次ですっ!」


 短剣と黒い刃の腕を振り上げ、エトナは次の獲物へ飛び込んでいった。



 視線を移す。メトだ。相対するのは例の如く骸骨だが、その骸の頭蓋には燻んだ金色の王冠が乗せられている。解析スキャンの結果は古びた王の骸オールドキングスケルトン、名はゼルガダン。


「ドウシタ、コムスメッ! ワレコソッ、コノグンゼイノオウッ! エイユウヲタバネシオウッ! キサマゴトキガカナウソンザイデハナイッ!」


「……38」


 王を名乗る骸は赤いマントを羽織り、十字架のような形の大剣を振り回す。その動きはそこまで俊敏とは言い難いが、何故かメトが頭蓋骨を殴りつけても足の骨が代わりに折れて、しかも直ぐに治ってしまう。


「オウノケンヲクラエッ! 王霊瘴剣オウレイショウケンッ!」


「ッ……47」


 黒い瘴気を纏って振り下ろされる直剣にメトは少し怯むも、なんとか回避する。


「アタラナケレバイイトデモオモッテイルノカ? アマイ。フカヒノコウゲキヲクラエ」


「……55」


 ゼルガダンが剣を掲げる。すると、彼の周囲に黒い靄の塊……瘴気の球体が幾つも生み出されていく。


「ククク……キエロ、ザコガ」


「……62」


 瘴気の球体達はふよふよとメトに近付いていく。その速さは多分リアルの僕が投げるバスケットボールくらいの速さしかないが、球体の数はどんどんと増えていく。このままではいつか追い詰められてしまうかも知れない。


「ドウシタッ! ニゲルバカリダナ? ワレヲコロスノハアキラメタノカッ!」


「……78」


 十、二十、三十。迫る球体を避け続けるメト。


「ツマランナ。オワラセテヤロウ」


「……89」


 球体と共にゼルガダンがメトを追いかける。振り下ろされる剣は面白いようにメトには当たらない。見事に最小限の動きだけで回避している。


「キサマッ、ワレヲグロウシテイルナッ! オウノツルギゾッ! アタランカッ!」


「……95」


 すれ違いざま、メトが確かめるようにゼルガダンの頭蓋を殴りつける。結果、折れたのは左足の小指だ。まるで衝撃がそこに移し替えられているようだった。


「ククク、キカントイッテオロウ? オロカナコム────」


「────100。解析終了」


 百。メトの動きが止まった。追いかける球体は後一秒もすれば追い付き、振り下ろされる剣はもう頭に触れる寸前だ。


「覇拳勒流、混節六覇。全拳接理無勒之万象ゼンケンセツリムロクノバンショウ


 揺れた華奢な体。紙一重で避けられた剣。それを認識した一瞬。その一息。


「グッ、ゴオッ、ォオオオオオオオッ!?」


 拳が、叩き込まれた。息つく暇もない拳の連撃がゼルガダンの身体中に一瞬にして叩き込まれる。



「────弐零陸、無勒崩衝拳ムロクホウショウケン



 瞬間、ゼルガダンの頭蓋骨以外の全ての骨が一度に砕け散った。


覇王拳ハオウケン


 自由落下するゼルガダンの頭蓋骨を、油断ないメトの本気の拳が叩き砕いた。


「お疲れ、メト。今の相手、なんだったの?」


「王を名乗っていました。この作戦の指揮官であると」


 あれがかぁ……信じ難いね。


「恐らく真実です。尤も、まともな指揮は下していなかったようですが」


「そっか……因みに、こいつの能力ってなんだったの? 頭蓋骨が全然壊せてなかったみたいだけど」


 最後も、頭蓋骨だけ残っていた。


「一種の生贄術のようなものです。頭蓋は足の指に、足の指は肋骨に、全てがあべこべに繋がっています。しかし、頭蓋骨に繋がるものがない……そう思っていましたが、頭蓋以外の全ての骨の破壊が鍵でした。しかし、順番に破壊しなければ再生するまで一部の骨が破壊不可になってしまいます。少し厄介な相手でした」


 少しかぁ……相手が相手なら詰みそうなレベルだけど。


「……なんか、普通に滅茶苦茶厄介そうだけど」


「いえ、殆ど物理攻撃しか使えない私だったので苦戦しただけです。聖職者であれば簡単にとはいかないかも知れませんが、普通に浄化が可能です。エトナさんの滅光蝕闇シュット・オプスキュリテやマスターの黄金の炎などであれば簡単に倒せるかと」


 なるほどね。飽くまで物理攻撃に対してだけなんだね。


「倒したか」


 背後から声がかかる。イヴォルだ。


「恐らくそれが指揮官だった。あまり能力が高いようには見えなかったが……まぁ、この作戦に優秀な人材を使いたくなかったのだろう」


 なるほどね。


「さて、こっちも大方終わった。奈落へと向かうぞ」


 おっと……遂に来たね、この時が。

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