時間と空間
さて、どうしようかな。耐久戦を狙いたいところだけど、そう簡単に耐え切れる相手とも思えない。
「イヴォル、魔物使いとの戦闘は主から殺すのがセオリーだよ」
「ほぅ、やってみても良いが……」
イヴォルが杖を掲げる。すると、黒い魔法陣が無数に浮かび、大量の
「それが通じないのが、君だろう?」
「まぁね。僕というか、僕の仲間だけど」
しかし、その大量の
「実際のところ、ネルクスを警戒してるのかな?」
「まぁ、一番はそうだ……っと、危ないな。一瞬も気を抜けない」
死角から迫るエトナにギリギリで反応するイヴォル。僕は顎に手を当て考える。
「どうせこっちで誰も死なないなら出し惜しむ必要もなさそうだね」
僕は
「転移門は……流石に無理か」
ウィスプに転移門を張ってもらうように頼んだが、精神世界では流石に無意味らしい。これ以上の増援は無いということだ。
「ほぅ、およそ百体か。良くもそんなに隠していたな」
「このぐらいなら余裕だよ。向こう側にはこの何倍も仲間が居るよ」
何倍とかじゃ済まないけどね。
「それはそれは……面白い」
感心するイヴォルの両脇から迫るエトナとメト。
「余所見してる暇なんてありますかッ!?」
「おっと、危ないな。しかし、同時に来るのは良くないな。意味が無い」
が、ギリギリでイヴォルは転移して避ける。エトナはイヴォルを睨み、短剣をグッと握る。
「……エトナ、作戦があります」
「あれ、今まで呼び捨てでしたっけ?」
「会話の効率化の為です。他意はありません」
プイッと顔を背けるメトに、エトナは興味深そうに近付く。
「ほぅ、作戦会議か? そんな暇があると思って……ッ!」
「暇が無いなら作ればいい。メト、信じるよ」
百を超える僕の従魔達が一斉にイヴォルの方へと向かっていく。僕を含めた一部は二人の横に護衛として残る。
「ッ! 鬱陶しいな。有象無象に用は無い……疾く消えよッ!」
イヴォルの体が浮き上がっていき、大量の魔法陣が展開されていく。大小様々で、色もバラバラ。歯車が並べられているようにも見えるその光景は一瞬のもので、次の瞬間にはその魔法陣から凶悪な魔術が一斉に放たれた。
「ッ、この規模は予想外だね……ネルクスッ!」
「お呼びとあれば、是非も無し」
巨大な炎の槍が、雨粒のように小さい水の針の群れが、緑色に煌めく風の刃が……七色に輝く強力な魔術が一斉に僕らに向かってくる。
「
僕らを守る漆黒の障壁と、インクのように空間に滲み出す黒いナニカ。壁は壊れるまで僕らを守り切り、黒いナニカは罅のように空間に広がって僕らを恐ろしい魔術から隔てた。
「二人とも。作戦会議は終わったかな?」
全ての暴威から僕らを守りきった黒色が消えていくのを眺めながら僕は尋ねる。
「はい、マスター。ですが……その、一つだけお頼みしたいことがあります」
「何かな?」
メトは言いづらそうに言葉を詰まらせつつ、小さくなった声を紡ぐ。
「マスター、少しの間私は動けなくなります。……護衛を、頼めますか?」
なんだ、そんなことか。
「勿論だよ。このネルクスが責任を持って君を守るよ」
「クフフフ、我が主ながら情けないですねぇ。ですが、お任せ下さいメト様」
流石、ネルクスは頼り甲斐があるなぁ。
「……では、お願いします」
そう言うと、草原が騒めき、メトを土の中に取り込んでいく。腰の上辺りまで埋まったところで止まり、メトは腕も土の中へと突っ込んで目を瞑った。
「こういう感じになるとは流石に予想外だったね……そうだ、エトナは何か頼むことない?」
「んー、そうですねっ! 応援をお願いしますっ!」
そう言うと、エトナは片手に短剣を持ち、片手を漆黒の刃に変えてイヴォルへと突撃していった。
「さて、僕もやれることをやろうかな」
「では、私も僅かながら手助けを」
イヴォルに
「
「
奇しくも、僕らが考えていたのは全く同じことだった。僕の影が独りでに動き出し、ネルクスの姿が歪んで四つに引き裂かれる。そう、どちらも分身だ。
「それと、応援だったね」
僕は音魔術で頑張れ〜とエトナの耳元で声を再生しておいた。
「……さて、どんな作戦かを聞く暇も無かったけど、期待してるよ」
それに、ダメならダメで構わない。当初の予定通り時間切れを狙うまでだ。
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