光の軌跡
アロマは黒い修道服の上から光の羽衣を纏った。放たれるオーラは凄まじく、油断は一切できない状況だ。
「最終通告です」
アロマが手を掲げると、天が光り、天から右手へと眩い光が集まっていく。
「ランタラを解放し、黄金の首飾りを差し出しなさい」
右手に集まった光は僕を一瞬で吹き飛ばせそうなエネルギーを感じさせる。圧倒的な力の塊だ。
「悪いけど、無理だね」
僕が答えると、右手の輝きは一層輝きを増す。
「……そうですか」
アロマが右手を振り下ろす。放たれた光の塊は高速で僕らの頭上を通り過ぎていき、森の奥で着弾した。
「ッ、眩し、ぃ……ッ!」
振り向かずとも視界が潰れるような凄まじい光が溢れる。暫くして正常に戻った目で振り返ると、僕らの後方で森の一部が焦土と化していた。
最初に巨大な魔法陣を使って放たれたアレと遜色ない威力を誇る攻撃。それをアロマは今、たった数秒で作れるということだ。
「もう一度、聞いてあげましょう」
再び掲げられる右手。
「ランタラを解放し、首飾りを渡しなさい」
再び集まっていく光。
「あはは……嫌だね」
僕はそれでも、断ることにした。ただ、犠牲を許容する訳じゃない。
「
あの攻撃、アンデッドが殆どの僕の従魔達は余波だけで吹き飛びそうだ。それは、避ける。戦場に残すのはたった一部だ。
「そうですか……それは、残念です」
まぁ、とはいえそれは保険だ。本当に相手がぶっ放してくる場合を想定した、保険だ。
「それと、さ」
「なんですか?」
チラリと見ると、アルジャバは止まっている。いや、もう殆ど動けないと言った方が正しいだろう。時間が尽きてしまったらしく、金閃のオーラも、銀色の目も無い。
「そんな攻撃使ったら、僕は吹き飛んで終わりだよね?」
「……それが?」
白々しいね。
「アルジャバの封印は確かに、次元の旅人の僕にも効くだろうね。だけど、君のその光の玉は……僕を消し飛ばすだけだ。僕は死ぬけど、それだけだよね? ランタラは回収できるかも知れないけど、首飾りは回収できない。一度死んだ僕は、復活した後君たちに見つからないように姿を眩ますだけだ。でも、それじゃダメなんでしょ? さっき君は言ってたよね。任務の達成が最優先だって。君たちの任務は? ランタラの救出じゃない。首飾りの回収、若しくは僕の誘拐でしょ?」
アロマの顔は見えない。右手の光が眩しいからだ。
「……」
言葉はない。
「分は、悪い……ですが」
アロマは右手の光を天に放った。天が煌めき、僕らの視界を潰す。
「私の身体能力自体も、上がっていますッ!」
視界が正常に戻る瞬間、目の前にアロマが迫っていた。アロマの体は光を放ち、彼女が通った後には光の軌跡が残されている。
「無駄です……って、やっぱり光とは相性悪いですね。ジュワッと行きました」
強い光を纏うアロマの右手を、エトナが弾く。弾いた部分が溶けて眉を顰めるエトナだが、致命傷ではない。
「ハァッ!」
「ですから、無駄です……また、じゅわって」
光の手に溶かされる闇の腕。しかし、それは直ぐに再生してアロマを迎え撃つ。
「いくら強化されても、私の方が速くて強いです。相性悪くても、関係ありませんっ!」
ヒットアンドアウェイを繰り返し、あらゆる角度から攻めてくるアロマ。衝突の度に光が迸り、エトナの腕が溶ける。また、残される光の軌跡は未だ消えず、少し鬱陶しい。
「ぐッ!?」
と、背後で上がる悲鳴。
「死角はありません。油断も」
「クソ……頼むぜ、アロマ……」
そこには、構えていた銃をはたき落とされ、変形する地面に拘束されるアルジャバの姿があった。アロマの攻撃に紛れて僕を狙ってたんだね。全然気付かなかったよ。
「これで、最後ッッ!!!」
「最後はそっちですっ!」
意気込んで右手を振り下ろすアロマ。それを迎え撃つエトナ。もはや意味の無いように見える攻防。しかし、アロマの目は死んでいない。
「ふぅ、はぁ……かかりましたね、魔王」
「……僕が?」
アロマが僕を睨む。そこで僕は、残されていた光の軌跡が強まっていることに気付いた。
「……まさか」
僕は、嫌な予感を感じた。
「ね、ネクロさんッ! これッ、動けませんッ!」
「くッ……ッ!」
強まる光。逃れようとするが、体が自由に動かない。光が僕らを捕らえているということか。メトが地面を変形させてアロマを襲うが、光の防御で防がれる。
「これは光の魔法陣……私の軌跡で描いた、魔法陣です。気付きませんでしたか?」
全く気付かなかったよ。クソ、やられた。油断してたんだ。未知で溢れたこの世界、全てを疑って然るべきだって言うのに。
「僕は、焦らない……
幸い、体は動かなくとも力は使える。それはメトが証明している。僕はさっき戻した大量の魔物達を解放する。
「物量作戦だよ。戻してた甲斐があったね……」
光の魔法陣の中に召喚され、出たそばから動けなくなる従魔達。だけど、次の魔物が呼び出されることで押し出され、少しずつ従魔達が拘束の外側にズレていく。
「ほう……上手く考えましたね。ですが、無駄です」
アロマが右手を掲げると、軌跡で描かれた魔法陣の外枠を強い光が覆い尽くした。
「出しません。封印を使えるのがアルジャバだけかと思いましたか? 私も使えるんですよ。非常に限定的で、使いづらいですから……正直、ひやひやしていましたよ」
「……そっか」
余裕が出てきたからか、語り出すアロマ。僕は魔物で埋め尽くされた空間の中、短い答えを返した。
「だったら、やっぱり……あはは」
乾いた笑いが溢れる。こんな状況でも焦り切れず、確証のない自信を未だに捨てていない自分。そして、避けていた未来を結局呼び寄せる滑稽さに笑った。
「あはは、はは……こうなったらもう、しょうがない」
僕は笑い、一体を除いて全員を
「……何を笑っているのですか」
「だって、笑うしかないでしょ。こんなに頑張ったのに、結局これなんだ」
瞬間、光の軌跡が弾け……闇がその場を覆い尽くす。
「────クフフフ」
悪魔が、嗤った。
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