天聖一如
僕は自分の影に視線を落とし、ネルクスを呼び出すか考えた。
「……まだ、だね」
取り敢えず、まだやれることは沢山ある。ネルクスに頼るのは簡単だが、まだだ。
「
この状況でも役立ちそうな子には、魔力消費の大きいこのバフをかける。一応、自分にもかけておく。
「
アルジャバとアロマ、両者に停滞のデバフをかける。
「効かねえなァッ! この黄金の前には無意味だぜェッ!」
「残念ですが、私はその手の耐性は殆ど備えています」
しかし、飛び込んできた二人には効果はなかった。アルジャバは借り物のペトラの力で弾き、アロマは耐性のある装備を付けているらしい。
「させませんッ!」
「無駄です」
アルジャバの前にはエトナが、アロマの前にはメトが、そして周りを囲む天聖騎士団には他の魔物達が、それぞれ行く手を阻んだ。
「ふぅ、なんとかなりそうだね。良かったよ」
これでも、僕の仲間たちは普通の魔物じゃない。SPの割り振りによる強化は当然として、僕の職業スキルや称号によるバフを受けているからだ。色々な恩恵が重なったそのステータスは、元の倍なんてものじゃ済まない。
「ッ!? 速すぎるだろうがッ!」
「当たり前ですッ! 私はA級冒険者ですよッ!」
「馬鹿かッ! 聖国の直属の救済執行官がただのA級程度にあっさり負けてたまるかよッ!」
その中でもエトナはやばい。元から800あるAGIが、優に五倍以上になっている。恐らくだが、今も本気の動きではないだろう。というか、本気で動いたらエトナ自身も制御できないと思われる。
「クソッ、相性悪いなァッ! 当たんねえんだよッ!」
「そっちこそ、その金ピカはいつになったらはげるんですかッ!」
アルジャバの弾丸は当たらない。見てから避けられているので当たるはずもない。しかし、エトナの攻撃もあまり効いていない。天醒弾と金閃の力で防御力、再生力ともに異常な域まで上がっている。頭をぐちゃぐちゃに砕けば流石に死ぬかも知れないが、流石に致命的な攻撃は避けられている。
「エトナには、高速思考とかが必要かもね」
速度と動体視力、どちらも超高水準で備わっているが、それに思考が追いついているかと言えば別だ。唯一足りないそれを補えば、エトナは更に最強に近付くはずだ。
「さぁさぁ、時間は大丈夫ですかっ! 私はまだまだ余裕ですよっ!」
「チッ、鬱陶しいなァ!」
ペトラの力を借りたアルジャバだが、そもそもペトラはエトナに負けている。既に負けた力で挑んだところで勝てないのは、ある意味当然の話だったのかも知れない。
「さて……」
僕はメトの方へ視線を向けた。
「硬い、そして強く、応用力が高い……隙が有りませんね」
「騎士に阻まれ、一歩届きません。しかし、その力は無限では無いはずです」
当たれば即死レベルの黒い拳を振るうメト。それを天聖騎士達を作り出し、盾にして防ぐアロマ。メトは地面を武器に変え、地形を動かして隙を生み出して何とか攻撃を狙っているが、アロマも聖なる力と魔術でそれを防いでいる。
「えぇ、それはその通りです。私の魔力にも限りがありますし、その限界は遠くないでしょう……ですから、一息に行きましょう」
アロマが杖を掲げると、アロマを守るように戦場の全ての天聖騎士団が一斉に集まってくる。流石に危機を感じたメトは一歩下がる。しかし、このまま行けばフリーになった魔物達が集まってきて結局同じことだ。
「『我こそ神の代弁者、来たる破滅を退けし奇跡の体現者』」
そう考えていると、詠唱が始まった。騎士達がアロマを囲み、姿が隠れてしまう。騎士を盾に時間を稼ぐつもりらしい。
「『今、再起せよ。集合せよ。融合せよ』」
騎士に覆われても、その祈りのような詠唱は戦場に響く。
「『
そこで、漸く僕は気付いた。騎士達の中心にいるアロマに、どんどんと騎士達が吸い込まれていることに。騎士を集めたのは、ただの時間稼ぎではなかった。
「『
あれだけいた天聖騎士団は、凄まじい勢いで吸い込まれて消え失せ、代わりに……アロマの体を覆う、黄金の光の羽衣を作り出した。
「例の如く時間制限付きですが……終わらせてあげましょう」
アロマが手を掲げると、天が光った。
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