救済、求ム。

 僕の現在のINTは1010。そして今、110SPを消費して時魔術のスキルレベルを上げた。こうして習得したスキルは、これだ。



「────停滞スロウ



 エトナと斬り合うランタラの動きが、急激に鈍くなった。


「ッ!? 動きがッ、遅いッ! 何をしたッ!? 並大抵の妨害効果ならば、無効化できるはず、だ……ッ!」


「時魔術だよ」


 ランタラが驚愕の目でこっちを見た。


「有り得ん……いや、そうか。有り得る……次元の旅人ならば」


「何を言ってるか知らないけど、君たちも取ればいいじゃん。100SPくらいだよ? 高めだけど、買えない程じゃない」


 特に、王族とかであるなら簡単にAPもSPも手に入るはずだ。


「何を馬鹿なことを……時魔術を知る優秀な神官などほんの一握りに決まっている。忌々しい旅人め」


「ん? 神官に頼んでスキルを取得してもらうのって、全部のスキルが出るわけじゃないの?」


 当たり前だ、とランタラは頷いた。


「へぇ……加速クイック。エトナ、もうやっていいよ」


「はいっ!」


 話に飽きた僕はエトナに時魔術の加速を与え、逆に減速を食らっているランタラを襲わせた。


「くッ、馬鹿なッ! 速いッ!」


「一応生け捕りにも出来ますけど?」


 優に三倍は超える速度になったエトナは、三分の一以下の速度になっているランタラを容易く翻弄し、黒い縄に変えた腕でランタラを縛った。


「あー、うん。じゃあ生け捕りで。転移門が復活したらムーンに引き渡そうか」


 ディネルフと言い、ランタラと言い、処理に困る奴を片っ端からムーンの所に送り込んでいるのは申し訳ないね。まぁ、向こうにも使い道があるらしいから喜んではいるみたいだけど。


「さて……先ず、一人だね」


 僕は残る二人を標的に、戦場を見回した。






 ♦︎




 森の中、ライフルを片手に天使のような翼をはためかせて飛び回るのはアルジャバだ。


「ハハハハハハハハハハッッ!!! 分かるかよッ!? これが『天醒弾てんせいだん』の力だッ! 最ッッ高だぁああああああああハハハハハハハハハハッ!」


 そう言う彼女の目は白目も黒目も眼球の全てが銀色に染まりギラギラと輝いている。


「オラッ、さっきまでの威勢はどうしたッ!? オレはよォッ、結局暴れられればどうだって良いんだよッ! 正義も悪もッ! ハハハハハッ!! 自分が嫌になるなァッ!? ギャハハハッ!!!」


 ライフルから放たれる弾丸、森の木々に紛れながらアルジャバを狙う魔物達を盾となる木の幹ごと貫いて砕き、纏めて破壊する。


「チッ、なんだテメェッ!! 邪魔なんだよッ!!」


「黙、れ……潰れ、ろ……」


 そんなアルジャバに立ちはだかるのは何故か頭の無いスケルトン。頭蓋骨を砕かぬ限り死なないスケルトンの頭が無いというのは中々に理不尽だが、ネクロの使役するスケルトンはほぼ全てがそれだ。


「クソッ、空間魔術だなァそれェッ!? 気分悪いぜクソスカルッ!」


「うる、さい……死ね……歪みの、中で……消えろ……ッ!」


 そして、聖属性を操るアルジャバと対等に斬り合っているゴブリンアサシン・スケルトン。彼の名はエフィン。ネクロから更なる不死性と殺傷力を与えられた彼は元々の技量の高さでアルジャバと渡り合っていた。


「隙を見せろォォォッ! 所詮はアンデッドッ、聖属性をぶち込めば終わりだろうがァッ!」


 空間魔術を操り、自由自在に体を分離させて飛翔するエフィンはアルジャバの弾丸も短剣も全て回避していた。だが、それがたった一度でも崩れれば浄化されてしまう。そうなれば、頭蓋骨を砕かれずとも関係なくこの世から消えてしまう。


「お前、は……勘違い、している……俺、は……」


「アァッ!? なんだァッ! ボソボソ喋ってんじゃ聞こえねえなァッ!?」


 破壊力はあるが取り回しの悪いライフルでは勝てないと判断したアルジャバはライフルを分解変形させ、二丁拳銃へと作り変えた。

 しかし、エフィンはその様子を冷静に眺めると、分解していた体を一つに纏め、空間魔術を刃に纏う短剣を構えた。


「自分から的を大きくしてくれるなんてなァッ! クソ間抜けがァッ!」


 隙を見せたエフィンに、アルジャバは嬉々として銃口を向けて引き金を引く。



「────俺、は……一人、じゃない」



 瞬間、アルジャバの背後から黒い布切れを纏った黒い霧の亡霊剣士が木の上から飛び出してきた。


「なァッ!?」


 振り抜かれた剣はアルジャバの背中を斜めに切り裂き、刃に纏わりついていた紫色の粘体が傷口から体内に染み込んでいく。その正体はヴェノムスライムのエノムだ。

 また、弾丸はエフィンに届く直前で歪曲した空間に阻まれ、見当外れの方向に飛び散った。


「俺、は……俺たち、だ……」


『……然り』


「く、そ……背中が、熱い……まだ、終わらね、ぇ……ッ!」


 アルジャバは二丁拳銃を融合させ、一つの銃に戻すと、懐から一つの黄金に光る弾丸を取り出してそれを銃に込め、銃口を自身の胸に当てた。


「『それは、栄光の象徴……回帰する、絢爛の石……』」


 限界を迎えた翼ははためくのをやめ、アルジャバは地面へと真っ逆さまに落ちていく。


「『ぅ……黄、金よ……来たれ……』」


 重力に従い叩きつけられるアルジャバ。しかし、銃を握る手は決して離されず、紡がれる言葉も終わらない。


「『救済再現弾サルベージョン・バレット黄金解放アウルム・リベルタス』」


 瞬間、黄金の閃きがコシュの森を駆け巡った。

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