天の意思も、人の意志も。
天に花開く巨大な光の魔法陣、それを為したのは『天聖』のアロマ・テスタラント。
「……大きいね」
ネクロの言葉には、言葉以上の思索が籠っていた。あれだけ大きいということはそれだけ威力も絶大であり、魔力の消費も激しく、詠唱も長めのものだったということだ。
「アロマかな?」
これを為せるだけの余裕があるのは、彼女だけだ。そうでなければ、他にもまだ救済執行官がいるということになる。
「さて、効果は何かな」
ネクロはそう言うと防御系のバフを追加でばら撒いていく。効果時間が短いので開幕で使用することはないが、こういう場面では役に立つ。
相手も備えるように逃げていく。天聖騎士団の翼は、あの魔法陣よりも上へと逃れることができる。
「……ッ!」
巨大な光の魔法陣、その輝きが増していく。直視すれば目を潰すほどの光は目を逸らして目を瞑っても眼球を刺激する。ネクロは嫌な予感を感じた。
「メト、防御しろッ!」
「マスターッ!」
ネクロはメトの側まで近付き、申し訳程度の土魔術の壁を展開する。すると、メトの力によってその壁と地面がぐわりと動き、ドーム状にネクロ達を包んで違う素材へと変質した。
「
轟音が響き始めると同時に、この戦場にいる全ての仲間を格納する。メトもエトナもだ。
「……終わった、かな」
轟音が終わる。どこか煌めきを放つ銀色の防御壁は揺るぐことなくネクロを守り切った。
「
「ただいま帰りましたーっ!」
「怪我はありませんか、マスター」
ネクロは急いでエトナとメトを戻す。続いてネロや他の従魔達も出していく。
「んー……一応、判断は正解だったかな?」
「かもしれないですね。私やメトなら凌げたと思いますけど、他の仲間はちょっと死んでてもおかしくないです」
メトの意思によって銀の壁が崩れ、現れた世界は荒れ果てていた。さっきまでは普通の森であったはずのこの場所だが、ここら一帯の木はほぼ全て倒れ、無残な姿になっている。
「だけど……狙いは殲滅じゃなかったみたいだね」
「転移門を狙ったようです。マスター」
威力は高めだが、それだけだ。木は軒並み倒れているが、倒れているだけではある。木が消滅し、完全に焦土と化しているのは転移門があった辺りだけだ。地面が深くまで抉れ、木は灰になり、焦げたお椀状の穴だけが残っているその部分だけはかなり高威力だったようだが、周りの被害はほぼ余波と言っていいだろう。余波だけならネクロが生身で受けても死なないレベルだろう。
「全員戻すのは過剰だったかな。まぁ、あの時点では判断できなかったけど」
そう呟いていると、天聖騎士に両脇を抱えられたアルジャバが空から降りてきた。
「おいおい、今ので無傷ってのはちょっとズルくねぇかよ?」
「いやいや、無傷じゃないよ。こっちは転移門を消されてるんだ。これ以上の増援は見込めないってことだね。困ったよ」
ネクロが手をひらひらと振りながら言うと、アルジャバはギロリと睨んだ。
「ムカつく野郎だな、本当に。よく今まで殺されずに居たもんだ」
「あはは、強いからね。僕以外が」
「自信満々に言わないで下さい。まぁ、確かに私は強くて頼りになる完璧な仲間ですけどねっ!」
「戯言を」
「え?」
ネクロが短く返すと、エトナは目を丸くする。その光景を見て更にアルジャバは怒りを強めたようだった。
「お前ら……いい加減にしとけよ。プッツンしそうだぜ、マジで。言っとくが、さっきの時間で私の準備は全部完了してんだよ。正義の執行は、直ぐそこだ」
「あはは、やってみなよ。だけど、僕に辿り着くにはまだ遠いかな」
「さぁ、もう一度。仕切り直しだよ」
「チィッ、纏めて倒してお前もぶっ飛ばしてやるから、そこで見てろよ木偶の坊ッ!」
最初は殺す気も無かったアルジャバだが、今は敵意の目線を向けている、ネクロは困ったように笑った。
♦︎……ネクロ視点
僕は溜息を吐き、戦闘が再開された戦場を俯瞰する。
「とはいえ、あれを何回も撃たれると困るね。流石に面倒だし、あれに合わせて孤立した僕を何らかの手段で狙われると不味い」
「大丈夫ですよ、ネクロさん。さっきのでタイミングは分かったので、
久し振りにその技を聞いたね。でも、確かに理論上は出来そうだ。光と闇を全て吸収し、自分の攻撃にして返すこの技なら逆に倒せるかも知れない。
「まぁ、失敗した時が怖いし撃たれないならそれに越したことはないけどね」
「失敗しませんよ! 全く、失礼しちゃいますね」
エトナはそう言うと、瞬時に振り向きながら飛び出した。
「じゃあ、これが終わったらカフェでも行きましょうねっ!」
「フラグやめなよ」
「余所見をするなッ!」
背後に居たのはランタラ。懲りずに不意打ちを狙っていたらしい。
「アロマの姿は見えないし……早いうちに、一人倒しておこうか」
因みに言っておくと、僕のSPとAPはかなりの量が余っている。
「APは、半分くらい使っとこうかな」
僕は
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