聖なる招待
パルトネラを転移門で送った後、僕たちはサーディアに向かっていた。そこで色々と準備を済ませた後、ラヴに会いに行こうと思っている。
「エトナ、なんかこう……一瞬で帰れる手段って無いかな」
「んー、ネクロさんって転移魔術持ってませんでしたっけ?」
「持ってるけど、SLv.1だから長距離は転移できないんだよね。それに、街中に許可なく転移するのって禁止されてるでしょ?」
「そうですけど、街のちょっと外に転移すれば良くないですか?」
転移魔術は基本的に転移先に何もないと使えない。が、小さな埃程度ならば魔力に潰されるか、ズラされて転移が完了する。
それと同じように、強すぎる魔力の持ち主が転移をした場合に転移先に貧弱な魔力の持ち主が居ると、そのまま潰されてしまう危険性があるのだ。
因みに、空間魔術の転移は少し性質が違い、空間を入れ替えることで転移が完了する。こちらも転移先に何かがあると転移できないが、魔力の差や質量によっては勝手に入れ替えられてしまう。
とはいえ、魔力が無い物質相手でも大きすぎると潰すことは不可能だ。細かい条件も多いので、結局は何もない所に転移するのが簡単で賢い判断だと言えるだろう。
「うーん……そもそも、こっからサーディアまでって魔力足りるかなぁ?」
「それは……どうでしょう?」
足りなければ、ただ魔力を無駄にしてSPも消費されるだけだ。
「それと、ネクロさん。何か近付いて来ますよ?」
「ん、敵?」
「いや、凄い殺意とかは無いですけど……取り敢えず人間っぽいです」
「ふぅん?」
人間か。プレイヤーかNPCか、どっちだろうね。
「……おっと」
気にする必要も無いかと思考から消し去った僕の前に、一人の女が現れた。
「────よぉ、私はティグヌス聖国のアルジャバ・グナプーニャ。アージャでもグナプーでも好きに呼んで良いぜ」
アルジャバ・グナプーニャ、そう名乗った男勝りな女はいつかの敵を思い出す黒一色の修道服を身に纏っていた。
「やぁ、アージャって呼ばせてもらうよ。それで、何か用かな?」
「おぉ、話が早くて良いな。先ず最初に……お前ら、ここら辺で悪魔を見てないか?」
パルトネラのことかな。ネルクスは流石にバレて無いだろうし。
「先に言っとくが、嘘は分かるぜ?」
「じゃあ、正直に答えちゃおうかな。悪魔は僕が倒したよ」
「……嘘ではねぇな。だが、どう倒した? 魅了の悪魔、パルトネラ。そう簡単な相手じゃねえ筈だが?」
「あはは、悪いけど自分から手の内を晒すつもりは無いよ。冒険者相手に聞くことじゃないね」
「……ま、それもそうだな。すまんすまん、こっちも仕事だからよ」
「別に良いよ。ただ、一つだけ言っておくと僕自身は貧弱だよ。いっつも戦ってるのは僕の仲間さ」
そう言って僕は二人を見た。アルジャバは肩を竦める。
「らしいな。ま、テイマーなら魔物の一匹でも連れて見せとけとは思うけどよ」
「ん? 君、僕のこと知ってるの?」
アルジャバはニヤリと笑い、頷く。
「あぁ、当たり前だろ? そもそも、悪魔祓いはついでだ。私がここに来た理由は、お前だ」
「へぇ、何の用かな?」
そういえば、先ず最初に……とか言ってたね。本当の要件は別だった訳だ。
「聖国への招待だ」
端的に告げたアルジャバ。それは、幾つか予想していた答えの内の一つだった。
「ふーん、なんで僕に?」
「感謝と謝罪だ。先ずは、第三聖女救出の感謝。これについては私も感謝してるぜ。あの子は良い子だからな、あんなところで死んでたら吐いてた」
「あぁ、ニースって子ね。思い出したよ。それで、謝罪って言うのは?」
「金閃が襲いかかったことに対する謝罪だ。金閃ってのは、ペトラ・アウラディウスだ。黄金の十字架を使う奴、覚えてるか?」
僕は頷いた。確か、エトナに瞬殺された子だったはずだ。
「ま、あの子も任務だったから大目に見てやって欲しい。それより、どうやったんだ? あのクソイカれ科学者、想定の何倍も戦力を抱えてたらしいが」
「魔物を送り込んだだけだよ。まぁ、戦力に関してはそうだね。あのペトラって子だけじゃ絶対足りてなかったと思うよ」
あの科学者、レミック・ウォーデッグの戦力は量も質も凄かった。多分、金閃だけじゃ勝てない。ていうか、二人いても勝てないと思う。
「ほぉ、やべえな。ま、話はこんくらいで終わりだ。そろそろ答えを聞かせてもらうぜ、異界の魔王?」
ニヤリと笑って問いかけるアルジャバ。僕は彼女に微笑み返し、答えた。
「また今度、誘ってよ」
アルジャバは硬直し、笑みを引き攣らせた。
「……お前、分かってんのか? そんな遊びの約束みたいに断れる話じゃねえんだよ。これは国から直接お前に来てる話なんだぜ? もう一回言うぞ? 国が、直接、お前に、感謝と謝罪を伝えるって言ってんだよ。その上でもう一回聞いてやる。ティグヌス聖国からの招待を受けるか?」
「……また今度、誘って欲しいなぁ」
アルジャバは白目を剥いた。
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