※禿山の支配者
ボルド山には沢山のゴブリンが住んでおり、そのゴブリン達は大きく三つの氏族に分かれていた。ギィ・ゲルドを王とするギィ氏族、ガァ・ゴレバを王とするガァ氏族、グゥ・ザロビを王とするグゥ氏族の三つだ。他にも、小さい氏族や集団が幾つも乱立していた。
……そう、乱立して
今、この禿山を支配しているのはギィ・ゲルドを王とするギィ氏族だけだ。他は全て統合されるか、滅ぼされた。この山に巣食う恐ろしい魔物たちも同じである。
ギィ氏族は、この巨大な山とその地下に広がる広大な空間の全てを完全に支配したのだ。
「……ギィ・ゲルド、ボルド山の支配は完全に終わりました。良くやりました」
だが、このボルド山の真の支配者はギィ・ゲルドではない。
「ふん、俺は殆ど何もしておらぬ。やったことと言えば、ゴブリンの王として内政をしただけだ。他の氏族への侵攻作戦を考えたのもこれからの道筋を立てるのもお前だろう」
「えぇ。ですが、支配下に置き統合した他氏族を反乱させることなく統治できているのは貴方の手腕あってのことでしょう?」
「違うな。誰もがお前の力を恐れているだけだ」
「ふふ、そう寂しいことを言わないで下さい」
そう、この山の支配者は、ギィ・ゲルドの目の前に浮かぶ巨大な青白い火の玉。マザーウィスプのムーンだ。主から死霊術を取得させてもらった彼女の勢いはもはや留まるところを知らず、ギィ・ゲルドを傀儡として一瞬でこの山の主となった。
「ここからはガンドラ山脈全域に支配を広げて行きますが、目先の目標としてはアデント雪原まで支配を届かせることですね。転移門無しであそことのパスが出来れば色々と便利ですから。その次はエウルブ樹海まで届かせたいですね。あの樹海はまだその広大さ故に完全な支配は出来ていないということですから」
「そうか。アデント雪原は環境的に難航しているが、エウルブ樹海からは順調に裏侵攻が出来ている。転移門というのは便利な力だな」
その支配域を順調に広げているムーンだが、ギィ・ゲルドも何もしていない訳ではない。転移門を活用することで他のネクロの配下が治める支配域にゴブリン達を大量に送り、逆からも支配を広げている。
「……ねぇ、アンタ。その戦力でどこを滅ぼすつもりなの?」
問いかけたのはさっきネクロから送られてきたばかりのパルトネラだ。
「今のところどこかを滅ぼすつもりはありませんよ。ただ、私達は偉大なる我が主が何かをしたい時に不自由しないように支配力を広げ、戦力を増やしているだけです」
「……それが、もし何の役に立たないとしても?」
「えぇ、勿論。ですが、何の役にも立たないことはないでしょう。これまでも何度も私達の力をお貸ししましたから。ふふ、光栄なことです」
「……そう」
パルトネラは短く相槌を打ち、息を吸い込んだ。
「……帝国を滅ぼす気は、無いの?」
「さっきも言いましたが、今のところは無いですよ。ですが、偉大なる我が主から話は聞いています。バリウス帝国に恨みがあるのですよね?」
パルトネラは無言で頷く。
「滅ぼす気はありません。ですが……あの帝国は完全にネクロ様を敵対視しています。煉獄、凍獄、魂牢。三人もの最高戦力を送ってきました。流石にこのままで放っておく訳にもいきません。ですから……」
表情が存在しないムーンが、フッと微笑む気配がした。
「帝国十傑を全滅させるということのお手伝いならしても構いませんよ?」
「ッ! それが出来れば十分よ! あの化け物どもさえ居なければ、あんな国どうとでもしてやるわ……ッ!」
パルトネラは拳を握り締め、ムーンを見る。
「ですが、当然対価は必要です。悪魔である貴女なら良く分かっていますよね?」
「……ええ」
パルトネラは覚悟したような顔で頷く。
「貴女には、その魅了の能力を使って私の元で働いてもらいます。魅了の力、中途半端なモノではないそれは、とても便利そうだと昔から思っていましたが……ふふ、やれることが大きく増えましたね。それでは、今後ともよろしくお願いします」
「……えぇ、よろしく」
魅了の悪魔、パルトネラはまるで悪魔に魂を売ったかのような錯覚に陥った。
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