二体目の悪魔

 不貞腐れた顔で僕らの後方を低空飛行しているのは魅了の悪魔、パルトネラだ。既に契約テイムは終わっており、彼女が僕を襲うことはもう無い。


「そういえば、君は何をしようとしてたの? あんなところに拠点を拵えて、配下を集めてさ」


「……色々よ」


 言葉を濁すパルトネラに僕は足を止めて向き合った。


「その色々を聞きたいんだよね。答えてくれるかな?」


「……ここに拠点を作った理由は人が全然来ない辺境だったからよ。戦力集めをここでしてたの。魔物の血や骨があればどれだけ下等でも取り敢えずの間に合わせは作れるから」


 拒否権が無いことを理解したパルトネラは、しょうがなしと話しだした。


「じゃあ、その戦力を集めてた理由は?」


「……バリウス帝国を滅ぼす為よ」


 バリウス帝国、聞いたことがある名前だね。あの帝国十傑を配下に置く軍事力最強と名高い国だ。


「おやおや、まだ諦めていなかったのですか? 昔にも同じことを口にしていましたよねぇ」


「……そうよ。諦められる訳無いでしょ」


 ネルクスが目を丸くして言うと、パルトネラは鬱陶しげに言い切った。


「滅ぼしたいって言う理由を聞いても良いかな?」


「……個人的な恨みがあるの。簡単に言うと、仲間を殺されたのよ」


 それ以上は言う気が無いとばかりにパルトネラは目線を外した。ネルクスを見ると直ぐに頷いた。どうやら嘘では無いらしい。


「そっか、ありがとね。それで、君はどんなことが出来るのかな?」


「どんなこと? 私は魅了の悪魔、パルトネラよ。魅了に決まってるじゃない」


 魅了、ね。


「それ、僕にかけたらどうなるの?」


「私のことが好きになるわよ?」


 なんというか、そのまんまだね。


「ふふ……試してみる?」


「あはは、やめとくよ」


 態々危険を冒す意味も無いのでやめておこう。だけど、そういう系の仲間は今まで居なかった気がする。一応、そういうスキルもSPで普通に取得できた筈だが、こっちは固有スキルだ。その性能は格上と見ていいだろう。


「因みに、あのデビル・マントヒヒはそれで使役したの?」


「まぁ、そうね。隷属はそうしたわ。便利よ?」


 便利そうだね。


「因みにそれって雌にも効くの?」


「一応効くけど男よりは効きづらいわね。あの猿程度ならオスでもメスでも関係なく魅了できるけど、強い人間の女なら厳しいわ」


 なるほどね。うん、有用そうだ。


「良いね。因みに、解析スキャンが阻害されてるんだけど解除して貰っていいかな?」


「……無理よ。これを解除してアンタに解析スキャンさせると率先して危害を加えようとしたことになるわ」


 あー、ネルクスと同じパターンかな。


「それってもしかして、君のステータスを見たら僕は狂っちゃうみたいなやつ?」


「そ。契約って厄介ね。これが無かったらアンタは狂って死んでたのに、直接的な攻撃以外も封じられるなんて面倒だわ」


 反抗心◎だね。当然、忠誠心は×だ。


「まぁ、良いや。取り敢えず君は一旦ムーンに任せようかな。帝国を滅ぼしたいんだったよね。僕もちょっと因縁があるし、出来る限り協力してもらえるように言っとくよ」


 帝国十傑。煉獄、凍獄、魂牢。後は、あんまり関係ないけど元帝国十傑のストラ。それと、レミックとかいうのも居たね。なんやかんや、あれが一番厄介だった気がする。本気で僕が居なかったらどうなってたんだろう。一応、レミックの拠点にあった研究資料とかメトを作った奴らのアジトにあった研究資料とか、見つかったら速攻逮捕確定の情報を持ってるんだけど、燃やした方が良いのかな。


「……よく分からないけど、分かったわ。ていうか、怒んないのねアンタ」


「ん、何が?」


「私、アンタを殺そうとしたって言ってるんだけど」


「そんなの最初の猿を送ってきた時だってそうでしょ。無理やり支配下に置いただけでその殺意が消えないのは自然なことだと思ってるけど」


 寧ろ、殺意は増しているだろう。向こうから仕掛けてきた以上、お互い様だとは思わないけどね。


「……そう」


 パルトネラは短く返すと、直ぐに視線を逸らした。

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