でびるでびる

 デビル・マントヒヒの五分の一程を死霊術でゾンビに変えることに成功し、後は可能な限りウィスプにして転移門でムーンの元へ送っておいた。


「さて、これで情報は整ったね」


 何者かの配下だったデビル・マントヒヒを死霊術でアンデッドに変えるということは、当然彼らから元の主の話を聞けるということだ。

 話によると、彼らを使役していた存在はこの森の奥に潜んでいるらしい。


 暫く歩くと、とても巨大な木を見つけた。しかし、その木は何故か萎れており、ほぼ枯れていると言ってもいい。


「……ここ?」


「ウキャ」


 頷くのは、数匹だけこっちに残しておいたデビル・マントヒヒ。彼が指し示すのはその大木の根元だ。僕の胴体程ある巨大な根の辺りを調べると、人一人が通れそうなくらいの穴が見つかった。彼の話していた穴の特徴に一致する。


「如何にもって感じだね……デビル・マントヒヒは全滅させちゃったけど、まだ逃げてないかな?」


「絶対逃げてないです。穴の奥から気配を感じます。分かってはいましたけど、悪魔っぽいですね! ちょっと警戒しながら行きましょう!」


 ……うーん、どうしよう。


「あそこまで力を見せつけたのに逃げてないってことは、何かしら罠があってもおかしくなよね?」


「まぁ、それはそうですけど……」


「取り敢えず、使い魔を送ってみるよ」


 僕はスキルを使って光の玉を生み出すと、それを穴の中へと送り込んだ。暗い穴を光の玉が照らしながら進んでいき……消えた。


「魔力に潰されたね。手の内を見せる気もないってことかな」


 この魔力だけで生み出せる弱い使い魔は、強い魔力を当てるだけで潰すことができる。若しくは、濃密に魔力が満ちている空間なら勝手に潰れる。


「……うん、入るのはやめよう」


 あの量のデビル・マントヒヒを使役できるレベルの悪魔だ。正面からぶつかって負けることはないかも知れないけど、厄介な罠が待っている可能性は高い。そこに態々飛び込んでいく必要もないだろう。


「え、じゃあ……帰るんですか?」


「あはは、帰らないよ。そんな勿体ないことはしないよ。穴の奥に閉じこもってるなら、好きなだけいじめてあげれば良いんだよ」


 デビル・マントヒヒの話では、穴はそこまで深くない。どんな仕掛けがあるかまでは分からなかったらしいが、何かが仕掛けてあることは間違いないらしい。


「『黄金と炎の神の加護ブレス・オブ・アムナルフ覚醒アウェイク』」


 僕は首飾りの力を解放し、穴へと一歩近づく。


「マグナ、初めての共同作業だよ。僕と一緒に、この巣を丸焼きにしよう」


「ぎゃおっ!」


 素直に返事をするマグナに僕は頷き、手を穴の方へ向ける。


「全力でお願い。調整は僕がするから……やっちゃって良いよ」


 マグナは力強く頷くと、穴の奥を睨む。黄金の紋章がマグナの口元を中心に描かれていく。


「すぅぅぅ……ぎゃぉおおおおおおおおおッッッ!!!」


 吐き出されたのは黒紫色の炎。しかし、その中心には黄金の輝きが見える。


「あははっ! 良い火力だね!」


 黒紫色の炎が穴の中へと吸い込まれていき、全てを蝕み溶かしていく。


「さて、僕もサボってちゃダメだね」


 僕は伸ばした手からドロドロと大量に黄金を生み出し、蛇のように細く長くしてスルスルと穴の奥へ伸ばしていく。その途中で植物の根のように横に伸ばしては金の炎を噴き出し、全てを蝕む黒紫色の炎を強めていく。


「おっと、止められた。ここに居るんだね」


 黄金の根が止められた。単に底に辿り着いた訳ではなく、何らかの障壁に防がれている感じだ。だけど、時間の問題だね。


「ぎゃぉおおおおおおおおおッッ!!!」


「……そろそろ、かな」


 マグナの黒紫色の炎が、黄金の炎に助けられて障壁に辿り着く。炎は障壁を容易く蝕み、溶かし、崩していく。


「壊れたね。じゃあ、後は燃やすだけだね」


 穴の最奥と思われる場所に、炎が殺到する。僕の感覚が正しければ、炎は遂にこの穴の全てを埋め尽くし……瞬間、地面が爆発した。


「ふぅッ、ふぅッ、はぁッ、許さないッ!!」


 爆発した地面から現れたのは、女の悪魔だ。背中からは大きな蝙蝠の羽が生えており、その服装は貴族然としている。その羽を羽ばたかせて宙に浮いているところだ。

 さて、今は僕たちへの怒りで冷静さを欠いているが、正気を取り戻して逃げられるのは避けたいね。


「逃げられる前に、誰か捕まえられる?」


 僕の黄金を使っても良いけど、全力使用しすぎたせいでそろそろMPがきつい。途中で解けたら面倒だから、他に任せたいところだ。


「我が主よ、私にお任せください」


「うん、任せるよ」


 ネルクスが影から現れ、僕たちの前に出る。


「クフフフ……久しいですねぇ? パルトネラ」


 ネルクスは女の悪魔をパルトネラと呼び、くつくつと笑う。


「ア、アンタ……ネルクスッ!? ふ、ふざけないでよッ、なんでアンタがここにッ!? そもそも、封印されたんじゃないのッ!!」


 激しく取り乱す女の悪魔。ネルクスは嗤い、一瞬で女の目前まで移動すると、闇の鎖を生み出して女に巻き付けた。


「くッ、これ……最悪ッ」


「えぇ、最悪です。貴方は決して逃れられず、隷属と死の二択を迫られる。但し、隷属の先が最悪かどうかまでは分かりませんよ? 実際、私はそこそこに満喫させて頂いておりますから……クフフ、あの奥底で封印されている苦痛と比べれば、どんな苦境も幸福ですからねぇ。クフフフ」


 ネルクスは女の悪魔を空中から地面へと引きずり下ろした。

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