三体目の竜

 というわけで、コシュ剣山からは離れて近くの森に来たよ。コシュの森っていう名前以外は知らないけど、見た感じモンスターの平均レベルは高めだね。因みに、コシュ剣山は縦に鋭く尖った岩山が幾つも連なってる場所で、植物も動物も殆ど居ないよ。ただ、地形的に危険度は高いね。意外と脆いから簡単に崩落するし。


「よし、マグナ。やっちゃって」


 そして、この森に来てる理由だけど、マグナの力を見る為だ。森の奥から狂ったように走ってくるデビル・マントヒヒ(蝙蝠のような翼が生えた大きめのマントヒヒ)を実験台に、僕は指示を出した。


「ぎゃおっ!」


 可愛らしい声を上げてマグナは迫り来るデビル・マントヒヒに逆に飛びかかり、その鋭い爪で毛むくじゃらの首を斬り落とした。


「おぉ、一発だね。凄いよ」


「ぎゃおぅ」


 本当は特殊なスキルとかを見たかったけど、一旦褒めておこう。それに、MPを消費せずに敵を倒す選択を取れたのは褒めて然るべきだろう。


「でも、変ですね」


「ん、何が?」


 エトナが不思議そうな顔で首の落ちたデビル・マントヒヒを見る。


「デビル・マントヒヒって、結構賢い方な魔物だし、賢くなくっても本能で察して竜に襲いかかったりはしないはずなんですけど……」


「同意です。私の記録と照合してもデビル・マントヒヒが竜に襲いかかるとは思えません」


 確かに、幼竜ならともかくワイバーンくらいの大きさにはなってる若竜のマグナに襲いかかるのは基本的には自殺行為だ。実際、ここに来るまで魔物との戦闘は一切無かった。あの個体が特別頭が悪くて勘が鈍い奴だった可能性もあるけど……いや、違うみたいだね。


「マグナ、また来たよ。今度は爪と牙以外でお願い」


「ぎゃおっ!」


 さっきの繰り返しのように走ってくる別個体のデビル・マントヒヒ、マグナはそれに向かって口を大きく開いた。


「ぎゃぉおおおおっ!!!」


 大きく開かれた口から放たれるのは、黒紫色の炎だ。禍々しいそのブレスは一瞬にしてデビル・マントヒヒを消し飛ばし、周囲に穢れた火をまき散らした。


「ぎゃぉ……ふんっ!」


 マグナが鼻を鳴らすと、周囲を蝕んでいた黒紫色の禍々しい火は消え去った。


「おぉ、良いね。僕、こういうのが見たかったんだよね。火力も高そうだし、それだけじゃ無さそうな雰囲気もあるね……と、また来たね。今度は三匹同時だけど、やれる?」


「ぎゃおっ!」


 もちろん、と元気に返事を返したマグナは、狂ったように突っ込んでくる三匹のデビル・マントヒヒに体を向けて前足を大きく上げると、黄金色の紋章が前足に絡み付いていき……たしっ、と前足を地面に叩きつけた。


「ヌウ、ウキャッ、ヌウゥッ!?」


「ウキャァァァッ!?」


「ウ、ウキキャ、ヌウゥッ!」


 すると、前足が叩きつけられた地面から黄金が波のように溢れ、デビル・マントヒヒを呑み込み……波から噴き出した黄金色の炎が全てを焼き尽くした。


「へぇ……首飾りの力も使えるみたいだね」


 だいぶ力技だったけど、確かに僕の首飾りと同じ力を使えていた。黄金と、黄金色の炎を操る力だ。繊細さには欠ける使い方ではあったけど、間違いない。


「おっと」


「ぎゃおっ!」


 ぼんやりと観察していた僕に高い木の上から飛びかかったデビル・マントヒヒ。しかし、突然僕の頭上に現れたマグナがそのデビル・マントヒヒを噛み砕いた。


「これ、転移? 空間魔術は持ってなかったから、特殊スキルの方かな……っと、ありがとね。マグナ」


「ぎゃおぅ!」


 忘れず感謝の言葉を伝えておくと同時に、僕はそろそろこの森の異常に気付き始めていた。


「……エトナ、メト」


「分かってますよ。もう完全に囲まれてます。多分、森の奥まで入り込むのを待ってたんじゃないですかね?」


「誘い込まれた可能性が高いかと。加えて、襲いかかっていたデビル・マントヒヒ達の精神状態が総じて普通ではなく、異常なまでの興奮状態にありました」


 と、なると……操られてるのか、何かに当てられたのか、別の理由か。分からないけど、こうして一気に攻勢に出てきたってことは、どうせ真相は近そうだね。もう、異常さや殺意を隠す気もないみたいだし。


「じゃあ、さっさと片付けようか。あ、でも噛まれないようにだけ気を付けてね。僕の護衛はネルクスだけで十分だから……好きなだけ暴れて良いよ」


 僕の言葉を聞いて、マグナは空に飛び上がり、エトナは一瞬にして姿を消し、メトは腕輪の力を発揮する為に周囲を金属に変えて吸収し始めた。


「さて、狙いは……分からないね。殲滅が速すぎて」


 一応、誰を狙った襲撃なのかを確かめようと思って目を凝らすが、よく分からない。


「そうですねぇ……まぁ、悍ましい化け物が三体も集まればこうなるのは当然ですがねぇ」


「それ、君が言えたことじゃないでしょ」


 勝手に出てきた悍ましい化け物筆頭の悪魔執事は、優雅に佇み……愉快そうに森の奥を見た。


「それと、この襲撃……私の同類のようですねぇ。力は遠く及びませんが」


「ふーん、悪魔ってこと?」


 ネルクスはニヤリと笑い、頷いた。それに対抗するように僕もニヤリと笑う。


「デビル・マントヒヒを使う悪魔デビルって、ことだね?」


「……何を言いたいのか分かりませんが、普通にアレは悪魔の配下として作られた種族ですからねぇ。何もおかしなことはありませんよ?」


 あ、そうなんだ。デビルがデビル・マントヒヒを使うって、ちょっと面白くない? と、思ったんだけど全然普通だったらしい。


「因みに、ネルクスはアレに噛まれたらどうなるの?」


 デビル・マントヒヒに噛まれると色々と体に異常をきたすことになる。具体的には、体が麻痺したり、噛まれた部分の血が硬化したり、視界がぐちゃぐちゃになったりだ。

 そんな、厄介な魔物として知られるデビル・マントヒヒだが……


「当然、効きませんねぇ」


 予想通り、ネルクスはドヤ顔で答えを返した。

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