アルジャバ・グナプーニャ
僕の答えにアルジャバは沈黙し、黒い修道服の中から一丁の拳銃を取り出した。純白の本体に黄金の装飾を施されたそれは、明らかに普通の銃では無さそうだった。
「悪いが、今度は脅しだぜ……どうする?」
その銃口は僕に向いている。銃という武器の性質上、彼女が指一本動かすだけで僕は貫かれる。
「────また今度、誘ってよ」
彼女は目を細め、溜息を吐いた。
「……そうかよ。死にたがりが」
僕の視界に白銀の何かが映る。それを知覚した頃には、既にエトナが僕の前に立っていた。僅かに遅れて響くのはシャランという鈴にも似た奇妙な銃声。
「させません」
「ッ! コイツの銃弾より速えのかよ。バケモンめ」
アルジャバは銃を右手に構えたまま後退りする。
「それと、アージャさん……飽くまでも連れて帰る気らしいですね?」
「チッ、流石に分かるか……」
その言葉で僕は漸くある事実に気付いた。僕を銃弾から庇ったらしいエトナの右腕が白銀の鎖に雁字搦めにされている。その右腕はダラリと下がり、自由に動かせないように見える。
「なるほどね。飽くまでも拘束用の攻撃だったって訳だ」
「……クソったれ」
拘束が失敗し、思惑が露呈したアルジャバは苦い表情を浮かべる。
「一応言っとくとよ、どうしても着いてこない場合は殺しの許可も出てんだぜ……?」
「ていうことは、付いていっても別に殺される可能性はあるってことだよね?」
着いてこないなら殺していい……そんな考えで招待してくるなんて、絶対に感謝と謝罪が目的じゃないよね。それに、場合によっては殺されるってことは碌な目的じゃないね。
「悪いけど、もう絶対着いて行く訳にはいかなくなったよ」
「あぁ、クソ……次元の旅人は全員ノータリンの阿呆じゃねえのかよ」
アルジャバは溜息を吐き、ガンガンと銃を持っていない方の手を頭に叩きつける。
「頼むから、来てくんねぇか……?」
「ごめんね」
「お前の命は私が全力で守ってやる。だから、頼む」
「悪いけど、行く理由が無いんだよね」
アルジャバは諦めたように俯く。
「……やっぱ、ダメか」
アルジャバの目が、据わった。
「じゃあ、期待するしかねえな。お前が悪党だってことに」
「残念だけど、僕は極めて一般的で善良な市民だよ」
現実ではね。
「はッ、嘘つきが。悪党ポイント追加だ」
「理不尽だなぁ」
僕が笑うと同時に、アルジャバは純白の拳銃の引き金を引いた。
「させません」
「みたいだな。だが、どうする? 両手が塞がってるぜ?」
今度は左手で銃弾を防いだエトナ。しかし、それによって両腕は白銀の鎖で覆われている。
「別に……どうってこと無いですよ」
事もなげに言うエトナの肩辺りが黒く染まっていき……ボトリ、と両腕が地面に落ちた。黒く染まって消えていく落ちた両腕、それにより絡み付いていた鎖も消えた。
「なッ、お前……自分の腕をッ!?」
「だから、どうってこと無いですって」
自切されたエトナの両腕。しかし、平気そうなエトナの肩から黒い何かが蠢き、生えていくと……それは腕の形になり、色が黒から変わると、完全な両腕が戻っていた。
「自切と再生……蜥蜴か、お前」
「リザードマンじゃ無いですよ」
未だ余裕を感じさせるエトナに、アルジャバは苦虫を噛んだような顔をする。
「そうかよ……だったら、本気だ」
アルジャバが拳銃を天に掲げると、拳銃に施された黄金の装飾が輝き始めた。
「『湧き上がる憎悪、煮え滾る憤怒』」
ペトラの時を思い出す黄金の波動。しかし、それは銃のみに満ちている。
「『齎されるは何れも偽りの正義、即ち邪悪』」
エトナが阻止しようと動き、刃と化した右腕を振り下ろすが、寸前で展開された結界に防がれる。
「『故に裁くは真なる正義、神が齎らす絶対の審判』」
叩きつけられる刃、メトも加わり、結界はひび割れていく。
「『汝、汝が罪を数えよ』」
遂に破壊される結界。それと同時に、結界の内側に閉じ込められていた黄金の波動が解き放たれ、二人が軽く吹き飛ばされる。
「『我が銘は、
詠唱が完了した瞬間、拳銃の形が細長いライフルのように変化した。
「へぇ、ペトラって子とは随分違うね」
「あぁ、私は強化されねえからな。その分、こいつに力が凝縮されてる」
その銃からは、途轍もないオーラが感じられる。多分、あれに撃たれれば僕はワンパンでいかれるだろう。
「ていうかさ、君。あのペトラって子みたいに名乗りとかしないの?」
なんか、ペトラは金閃がどうとか言ってた気がするけど。
「ん? あぁ、忘れてたな……」
アルジャバは咳を挟むと、ニヤリと口角を上げてライフルを肩にかけた。
「────ティグヌス教会、救済執行官『業祓』のアルジャバ・グナプーニャ。救済を開始する」
帝国十傑に並ぶ組織と言われる、救済執行官との戦闘が始まった。
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