戦後処理

 ♦︎……ネクロ視点




 想定以上に大規模になった戦いは遂に終わりを告げ、僕は戦後の処理に追われていた。


「取り敢えず魔の島の管理はムーンに任せるとして……一番の問題は、コレだね」


 コレ、とは僕の目の前にある超巨大な氷山だ。その中心部にはディネルフが埋まっている。彼自身を封印し、コールドスリープ状態にする『永久氷塊封印』という技によって作り出されたこの物体は、取り敢えず試した限りのあらゆる方法で破壊することが出来なかった。


「魔の島で管理……面倒だし、ディアンが嫌がりそうだね。万が一帝国軍が来た時に女神イトラの居所がバレるとマズいし」


 忘れかけていたが、ここもクレスの守っている氷山と同じように女神の隠れ家があるのだ。多分、バレると面倒になる。


「じゃあ、穏便に帝国に送り返す……無いかなぁ。そもそもこうなってる時点で穏便にはいかないだろうし、碌なことにならなそうだし」


 これでディネルフも復活して、帝国十傑が徒党を組んで襲ってきたら流石にストラのように死んでしまう。死なないけど。


「…………どうしようかなぁ」


 手を出せないようにどっかの火山の火口にでも落とそうかな……いや、帝国なら流石に回収できるだろうし、何かの間違いで溶けて出てきたら困る。最深部のマグマ溜まりまで行けば回収は厳しいだろうが、ちょっと懸念点が多過ぎるね。


「ネクロさん、これをどうするかで困ってるんですか?」


「うん、どうやっても微妙になる気がするんだよね」


 エトナの師匠のところに置いとくのも考えたけど、流石に拒否られそうだ。


「んー、海に捨てればよくないですか?」


「は、海?」


 この馬鹿め。取り敢えず適当に言うには最も適している場所だが、海なんかに捨てたところで……いや。


「…………それで、いっか」


 海は広い。そして深い。とてもとても深い。更に、深海に住む魔物は基本的に化け物ばかりだ。地上の魔物、オークなんかは大抵が一口で殺されるレベルだろう。

 大体五キロくらいの深さまでこの氷山を投棄すれば、後は深海の魔物達が自然に守ってくれるはずだ。


「遠隔転移なんてされたらお手上げだけど……それがあるなら、もうされててもおかしくないよね」


 良し、海に不法投棄しよう。因みに、この方法を選んだ一番の理由は楽だからだ。考えることもなく、特に苦労もしない。ディアンに運んでもらって捨てるだけだ。後は一応ウルカに微調整して貰えば簡単に海の奥底まで届かせることが出来るだろう。


「……うん、もしもし。ディアン? ちょっと頼みがあるんだけどさ。うん、そう。帝国十傑の氷漬け、後で海に捨てといて欲しいんだよね。ちゃんと深海に届く位置でね。うん。大丈夫、分かってるよ。君のイトラ様に迷惑がかからないようにっていう考えもあるんだし。うん、よろしくね。じゃ」


 よし、これで片方はどうにかなった。今後もウルカにちょくちょくチェックしてもらえば無問題だろう。


「後は、リジェルラインだね」


 泉の向こう側、だいぶ離れた場所まで飛ばされたらしいリジェルラインは、もうそのまま泉の精に任せてもいいような気がしているが、念の為ムーンにも相談して、協力して事に当たってもらおう。


「ムーンに任せると、殺しても生き返り続ける都合の良い実験台にされそうだね……ま、いっか」


 倫理観ゼロ、というか人間の倫理に付き合う気がそもそも無いマザーウィスプのムーンに好き放題にされる彼の身を考えるともはや哀れみしか浮かばない。が、知ったことではない。


「うん、もしもしムーン? あれ、もう知ってたの。流石だね。そうそう……あ、そっちじゃなくて魂牢のほうなんだけど、うん。あ、正にそうだよ。君に任せたいなって思ってさ……うん、お願いね。もちろん、好きにして良いよ。あ、出来れば色々有用な情報は聞いておいて欲しいな。うん、じゃあ、よろしくね」


 プツリと通話を切る。いやぁ、これが出来るテイマーってやっぱり最高だね。仕事を適当に振り分けて椅子に踏ん反り返ってるだけでどうにかなるのは魔物使いだけだろう。


「ふぅ……これが落ち着いたら、そうだね」


 時は十分満ちている。もう、覚悟を決める必要があるだろう。長らく達成できていないどころか、一ミリも進んでいなかった……最初のクエスト。



「そろそろ、会いに行こうかな……ラヴ」



 僕は息を吐き、星が散っている漆黒の空を見上げた。

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