幼き竜

 あれから数日、諸々の後処理が終わり、僕らは魔の島を離れ、コシュ剣山まで来ていた。


「やぁ、メフィラさん。迎えに来たよ」


「よく人の身でここまで来れたな。この子は私が送ってやろうかと思っていたのだが」


 穴の奥からメフィラが現れ、腕を組んだ。


「一人で来た訳じゃないからね。と言っても、余裕の道って訳じゃなかったけど」


「私が居ますからねっ!」


 自己主張の激しい弟子にふふっとメフィラは笑う。


「そうだったな。流石は私の弟子だ」


 そう呟くメフィラの後ろからやけに立派になったマグナがとことこと歩いてきた。フェニックスに似た翼を二対、鱗は黒く、翼は紫と赤、爪と牙も赤く、瞳は黄金色に染まっている。どちらかと言えば邪竜と言った様相だが、メフィラのように瘴気を放ってはいない。その大きさは卵から出てきた頃の十倍は優に超えており、もう胸で抱くことなど出来そうにはない。


「やぁ、久しぶりだねマグナ。ところで、凄まじい成長スピードってレベルで済ませられないくらい大きくなってるんだけど……」


「竜の成長過程は他の生き物のそれとは違う。竜とはそういうものだ」


 ん、そういえばそんな話聞いたことあるかも知れない。


「そっか、種族名自体変わるんだもんね」


 生まれたばかりのマグナは『幼竜パピードラゴン金蝕アムナフィス』だったが、今のマグナは『若竜ヤングドラゴン金蝕アムナフィス』になっている。


「そうだ。我ら竜族は進化により成長する。幼竜、若竜、成竜、老竜、という風にな。故に、適切な教育を施すことで一瞬にして竜というものは進化し、成長することができる」


「ふーん、因みに君は?」


「……女に歳を聞くとは良い度胸だな。まぁ、どちらにしろ私にはその表記は無いから答えようがない。成竜は竜としか現れず、老竜は現れるものと現れないものがいるからな」


 つまり、成竜以上は確定ね。まぁ、察してはいたけど。


「さて、約束は果たした。残念だが出せる茶はない。早速だが、連れて帰ると良い」


「うん、分かったよ。ありがとね。また遊びに来るよ」


「……あまり頻繁には来るなよ。一応、ここは私の隠れ家だからな」


 そうだったね。まぁ、バレたところで大抵の人間じゃどうにも出来ないだろうけど。


「じゃあ、帰る前にじっくりとステータスだけ見ておこうかな」


「ぎゃう」


 僕は目の前で佇む若竜に解析スキャンをかけた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 Race:若竜ヤングドラゴン金蝕アムナフィス Lv.38

 Job:──

 Name:マグナ

 HP:320

 MP:570

 STR:310

 VIT:280

 INT:378

 MND:270

 AGI:250

 SP:370


 ■スキル

 □パッシブ

【HP自動回復:SLv.6】

【MP自動回復:SLv.6】

【炎属性耐性:SLv.5】

【闇属性耐性:SLv.5】

【高速再生:SLv.4】

【光属性耐性:SLv.3】

【水属性耐性:SLv.3】

【風属性耐性:SLv.2】

【打撃耐性:SLv.1】

【斬撃耐性:SLv.1】

 ……etc


 □アクティブ

【爪術:SLv.4】

【闇魔術:SLv.3】

【咆哮:SLv.3】

吐息ブレス:SLv.2】

【火魔術:SLv.2】

【体術:SLv.2】

【突撃:SLv.1】


 □特殊スキル

若竜ヤングドラゴン

暗蝕テネブリシオン

歪曲する金色の空アウラウム


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うわ、滅茶苦茶育ってるね。これは預けたのは正解だったかな。特にレベルなんて異常だ。どうやって一週間ちょっとで38レベルまで上げたのかな。火吹きも吐息ブレスに進化してるし、耐性もかなり獲得してる。


「頑張ったね、マグナ」


「ぎゃぅ……」


 スリスリと頭を僕の胸に擦り付けるマグナ。予想した通り、本気でキツい修行だったのだろう。殺した魔物の数は百では済まないだろうし、この耐性の数から察するに数え切れないほどの傷を負ったことだろう。しかも、生まれた側からこれだ。マグナには可哀想なことをしちゃったね。


「ほら、ご褒美だよ」


「むっ」


 僕はインベントリから一本の酒瓶を取り出し、マグナの前に置いた。メフィラが声を上げる。


金山華河きんざんかっか、良いお酒らしいよ」


 ラベルも何もない黒い瓶に入った黄金色の液体をとくとくと器に注ぐ。


「はい、どうぞ」


「ぎゃおっ!」


 笑顔が咲き、嬉しそうにマグナは器に入った液体を飲んでいく。


「ぎゃおぉ〜っ!」


「ぐ、むぅ……」


 歓喜の声をあげると、メフィラは苦悶の声をあげる。


「メフィラさん、どうしたの?」


「い、いや、なんでも……」


「もしかして、喉乾いちゃった?」


「そ、そうだ。喉が渇いてな……マグナ、ちょっと師匠に分けないか?」


「ぎゃるるぅ……」


 メフィラが近付くと、マグナは警戒するように声を上げる。メフィラはとぼとぼと離れていった。


「メフィラさん」


「なんだ貴様」


 何故か口が荒くなっているメフィラにインベントリからもう一本の金山華河を取り出す。


「……なんだ、貴方様」


 それで良いのか、師匠。


「あげるよ。どうせ僕は未成年だから飲めないし」


「む、良いのか? ならば頂こう」


 パシッと僕の手の酒瓶がひったくられる。驚異の速度だった。


「美味いッ! 美味いぞ、ネクロッ! ふははッ!!」


「うんうん……それは良かったよ。ところで、ドラゴンってさ……ん?」


 ゴクゴクと一気に飲み干していくメフィラの動きが止まり、カラカラと空の酒瓶が転がっていく。


「……ぃ……すぴぃ……」


 ……スサノオの気持ちが分かるね。

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