長き戦いの終わり
ネクロは武器を構えることもせず、玉座に身を預けたまま戦闘を見守っていた。そして今、その余裕が揺るがされることはたった一度も無いまま戦闘が終了した。
「言い残すこと……もはや、あんまりないのです。でも、強いて言うなら……動画はあなたがあげるのです。勝った方が動画を出す方が自然ですし……正直言って、惨敗した映像を編集できるほどの気力は残ってないのです」
「んー、まぁ、良いけど……」
ネクロは内心で面倒臭いなぁ、と思いつつも曖昧に頷いた。因みに動画をあげる気は一ミリも無い。
「一応、こっち視点の映像もあげるので、頑張るのです」
「……うん」
ネクロはこいつもうどうでも良くなってるなぁ、と思いつつも小さく頷いた。
「俺は自分の戦闘の様子が公開されるのは嬉しくないが……まぁ、好きにしろ。勝者の権利というやつだ」
「そうだね……」
クロキリもやり切ったような表情で起き上がる気配も無い。ネルクスとの圧倒的な実力差を感じて諦めたのだろう。
「ていうか、その執事はなんなのです? ありえんつよいのです」
「うん、ありえん強いよ」
おうむ返しに答えるネクロだが、肝心の部分は明かさない。
「恐らくだが……少なくとも、人間ではないだろう。というか、どうせあの二人も人間じゃないだろう。冷静に考えれば最終階層に居る敵が魔物じゃない訳が無い。位の高い魔物は人化出来るものも多いと言うしな」
「あはは、どうだろうね? ま、最後の言葉はこんなところで良いかな?」
ネクロはフッと立ち上がり、血のように赤い刃の短剣を
「折角だから
赤い刃が先ずはレヴリスに向けられる。
「それは良いのですけど、動画は出すのです。これだけ大規模な戦いをやっておいて当事者しか知らずに終わりとかめちゃくちゃ勿体ないのです」
「……君のその動画投稿者としてのメンタルはなんなの」
ネクロは呆れたような、疲れたような表情をして息を吐く。
「もしかして、PKって動画の為にやってる?」
「んー……半分くらいはそうかも知れないのです。イかれた芸術家みたいなことを言いますけど、私にとってPKは一つの作品なのです。その一部始終を誰かに見て欲しいというのは当然なのです。今回の場合は寧ろPKに成功したのはそっち側なのでそっちに動画をあげてもらう方が綺麗かなって思うのです」
レヴリスのPKは実際映像としての完成度が高く、スキルを巧みに使いCOOを知らない人でも興味を持つ程だ。
「……まぁ、死ぬまでにはあげるよ」
「いや、さっさとあげるのです」
「……今年中にはあげるよ」
「いや、さっさとあげるのです」
「……可及的速やかにあげるよ」
「政治家みたいなこと言わなくていいのです」
中々最後の時が訪れないレヴリス。思わずネクロの脳内に無視してこのまま短剣を突き刺すという考えが浮かぶ。
「
「いや、そういう系はやってないね」
「じゃあ、フレンド登録するのです。ゲーム内のメールで全部動画とか送るのです」
「……うーん」
現れた申請画面にネクロは嗚咽混じりの声を漏らし、拒否反応を示す手でそれを受理した。
「それじゃ、はやく殺してさっさと動画をあげるのです」
「……なんか、微妙な気分なんだけど」
ネクロは溜息を吐き、寝そべるレヴリスに赤い刃を走らせた。
♦︎
その日、COO界を震撼させる衝撃の映像が公開された。内容はPKの集団である
その映像の中では巨大すぎる何匹もの赤竜が自由に空を飛び回り、帝国十傑二人の戦闘風景が完全に公開され、最終層に辿り着いた精鋭の五人が一瞬で叩きのめされていた。
しかし、それを見たあるPKクランのマスターは溜息を吐き、こう呟いたという。
「無編集で全公開は有り得ないのです。しかもタイトルが『魔の島の戦い』って雑過ぎるのです。それだけならまだしも、視点別でタイトル変えないのは酷過ぎるのです。全部魔の島の戦いなのです。クソなのです。あとサムネイルの設定くらいするのです。全部謎の場面でよく分からんなのです。クソなのです」
ネクロの公開した動画は、一切の編集が為されていない剥き出しの映像だった。使い魔によるあらゆる視点からの映像を集めると、その動画時間は合計して百時間以上に及ぶというが、それでもこの映像はあっという間に拡散されて世界中に広まったらしい。
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