氷魔
氷の花が咲き、一つの命が散った。だが、彼らは止まらない。
「
レイピアを炎の渦が覆い、尖った先端がクレスの肩に直撃し、爆炎を発しながら肩甲骨辺りを砕いた。
「カタッ!」
炎に包まれ、青い体に煤をつけながらもクレスは杖を掲げた。
「ん、何だ? まぁいい関係ねえッ!」
何も起こらない。それを見たプレイヤーの男は疑問を覚えながらも大剣を振り下ろした。
「カタ」
大剣がクレスの頭蓋に触れる。瞬間、クレスの体は青白く光り輝いた。
「なッ────」
青白い光はそのまま周囲のプレイヤー達を巻き込んだ。
「……おい……おいおい……冗談キツイぞ……ッ!」
クレスを囲んでいた数人のプレイヤーが、綺麗な青色の氷に分厚く包まれていた。その氷は徐々に徐々に内部の人間に侵食していき、体をそのまま氷像へと変え始めている。
「今の、自爆か? だったら何で扉が開かないんだッ!?」
「馬鹿ッ、入れ替わりだッ! 忘れたのかッ!? 分身を出して入れ替わったんだろう……ほら、よく見ろ。あそこだ」
男の指差した先には、氷の魔物達に紛れて片腕が欠けたクレスの姿があった。クレスは片腕で杖を持ち、俯いて何かを唱えている。遠目からでも魔力が揺れ動いているのが分かる程だ。
「
その二人の間を、黒衣の男が凄まじい速度で駆け抜ける。シンだ。
「『開闢の斬撃、軌跡も亀裂も見えず。天衣無縫』」
シンの黒い剣が蒸気のような白いオーラを纏い、流れるような動作で斬撃を繰り出していく。その動きは移動を妨げることなく、力の流れを止めず留めず動き続ける。
「カタッ、カタカタッ! カタッ! カタカタカタカタッッ!!!」
「
遂にクレスの目の前まで迫ったシン。振り上げられる剣と、解放される魔力。しかし、その刃がクレスに届くよりも僅かに魔術が完成するのが先だった。
杖から魔力が放たれ、それからシンの刃が残っていた右腕を切り落とした。
「ッ!? これは……ッ!」
急激に部屋の中に溢れる冷気。その正体は、青白い光を放ちながら次々に爆発していく氷の魔物達だ。その爆発が巻き起こすのは熱でも破壊でもない。寧ろ、一瞬で水分が凍る程の冷気が溢れ、次々に氷像が作り出されていく。
「くッ、
両腕を欠損したクレス。トドメを刺そうとその頭蓋に剣を振り下ろすシン。しかし、クレスは後ろに倒れることでその斬撃を避ける。
「カタ、カタカタ」
地面に倒れたクレスはニタニタと笑い、今度こそと剣を振り下ろすシンを眺め……その刃が直撃する直前で偽物の体と入れ替わった。
「……逃げられたか」
代わりに砕かれる偽の体。しかし、流石に両腕を欠損した状態で戦闘を続ける気は無いらしく、この部屋からその姿は消えていた。
「……さて、大変なことになったな」
部屋を見渡すと、そこには幾つもの氷像。既に命を失っている者も多く、まだ生きている者を救うにしても氷を溶かすには時間がかかる。
「……どうすればいい」
シンは氷に包まれていないプレイヤーが数人しかいないのを見て溜息を吐いた。
♢
無事だった数人による救助作業の結果、屋上の前まで辿り着いたのはたった八人だけだった。残った八人はレヴリス、ブレイズ、ズカラ、蛮蛮漬け、クロキリ、シン、ふよよん、ヴェルベズ。
「ふぅ……ここを登れば、もう屋上なのです。ネクロが、ラスボスが待ってるはずなのです」
「だね。さっさと終わらせよう。正直言って……疲れたし」
「あぁ、早く終わらせることには賛成だァ。俺も金を持ってさっさとトンズラしてえしな」
「よし、盾役は任せろっ!!」
「……後衛が居れば俺が狙う」
「適当に合わせる。お前らも適当に合わせてくれ」
「バフはかけ終わってますよー!」
「我を守っておけ。そうすれば敵は全員破壊してやる」
準備は終わっている。後は、登るだけだ。
「じゃあ、行くのです……!」
レヴリスの分身を先頭に階段を上っていく。一段、一段……そして、遂に空が見えた。
「もう少しなのです。隙を見せないように一斉に登るのですっ!」
レヴリスの合図でPK達が一斉に階段を駆け上る。全員が屋上に登り切り、漸く塔の頂上。最後の敵が、ネクロが、そこに……
「────よぉ、PK共。そんなに焦らなくてもいきなり斬ったりしねえよ」
居なかった。代わりに居たのは、チープ。そしてアクテンとオデュロッドだ。
「テメェがネクロか……? ちっと想像と違えなぁ」
「いや、違う。あいつは……ネクロじゃない」
ズカラが首を傾げ、クロキリが否定する。
「……じゃぁ、アイツは誰だよ?」
「ハハッ、誰だろうな? 誰か知ってるか?」
ズカラの問いに、敵であるチープが答える。
「……知ってるのですよ。蒼月の蒼い剣」
「おーおー、天下のPK様に知られてるとは光栄だわ。こりゃ夜道には気を付けねえとな?」
不敵に笑うチープ。シンは眉を顰め、クロキリは懐の短剣に手を伸ばす。
「何故、お前がここに居る? 蒼剣、チープ。ネクロはどこだ?」
「何故? 何故って言えば、ダチのよしみって奴だな。んで、ネクロだが……地下だ」
地下。予想もしていなかった言葉に全員の表情が歪む。
「地下だと?」
「あぁ、地下だ。つっても、安心しろ。掘って探す必要はねぇ、俺らを倒せば転移陣が開く」
それが本当だという証拠などどこにもなかったが、これまでのこの塔の傾向から、恐らくそれは真実なのだろうとレヴリスは判断した。
「分かったのです。それに、それが本当にしても嘘にしても殺すだけなので関係無いのです」
「そうか。じゃ、さっさとやろうぜ。こっちも退屈してんだ」
チープが鞘から蒼い双剣を引き抜いた。
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