氷骨砕いて生き残れ
透明化したまま一人のプレイヤーを葬ったクレス。その姿を捉えようと、レヴリスが術を行使する。
「透過魔術の対策なら……既に、出来てるのです」
透明なクレスに近付き、手の平を向けるレヴリス。
「掌握。
手の平から魔法陣が開き、紫の粒子が溢れて透明なクレスを包み込む。そして、その粒子が晴れた所にはローブを纏った青い骸骨の姿があった。
「これで見えるのですっ! 皆、総攻撃なのですっ!」
レヴリスが意気揚々と叫び、皆が一斉に攻撃を食らわせる。魔術、投擲、矢、様々な攻撃が骸骨の体に直撃し、砕けていく。
「た、倒せたのです……?」
攻撃の雨が止んだ後には青い砕けた骨の欠片のみが残っている。余りにも呆気ない幕切れに困惑したような声を漏らすレヴリス。
「いーやまだだァッ! 今のはニセモンだッ!」
声を荒げるズカラ、焦り始めるプレイヤー達を
「……カタ」
「ッ!?」
部屋の隅、空っぽな骨の音が響いた。
「に、逃げ────ッ」
その音に最も近い場所に居た男の肩に何かの手が触れ、一瞬にしてその体は凍りついた。
「な、何でッ!? もう一体いるってことなのです!?」
混乱するレヴリスにシンは首を振る。
「……違う、入れ替わりだ。あいつは分身と入れ替われる。さっきは透明化を解除される直前に入れ替わったんだろう」
「い、入れ替わり……」
ただ言葉を反芻するしかないレヴリスは呆けたように凍りついた男を見た。
「そ、そうだっ! まだ粒子化してないってことは死んでないのです! 誰か、溶かしてあげて欲しいのです!」
「溶かして欲しい? だったら僕の役目だね」
ブレイズが凍った男に近付いていき、それに追従するようにレヴリスが歩く。
「ほら、溶けなよ」
ブレイズのレイピアから炎が巻き上がり、男を覆う分厚い氷を溶かしていく。
「……カタ」
瞬間、それを待っていたように音が鳴り、凍てついた透明な手がブレイズの肩に触れようとする。
「────掌握。
だが、それを予見していたレヴリスは冷気が強まるその瞬間にスキルを行使した。紫の粒子がブレイズの左奥に集まっていき、クレスの姿を遂に露わにした。
「カタ……ッ!」
焦ったように氷の壁を作り出し、吹雪の勢いを強めるクレス。
「くっ、風が強いのです……!」
「壁が邪魔だねッ! 溶かすのに三秒はかかるかなァッ!」
壁と吹雪に阻まれた二人、その隙にクレスは距離を取り、他の面々に襲われる前に杖を地面に突き立て、声にならない声で何かを叫んだ。
「カタ、カタカタッ! カタッ!」
杖の先端が青く光ると、氷雪の積もる地面に次々に魔法陣が浮かんでいく。そして、その魔法陣から氷の騎士達が顔を出し……
「やらせん」
「カタッ!?」
黒い霧がクレスの目の前に溢れ、そこから黒衣の暗殺者が飛び出した。クロキリが振るう短剣の赤黒い刃がクレスの首筋に触れる瞬間、クレスの外套の内側から氷の蛇が飛び出してクロキリの手首に噛み付いた。
「ぐッ、だがまだ────ッ!?」
氷の蛇を一瞬で破壊し、直ぐに短剣を振り上げたクロキリだが、その両腕を後ろから捕まれ、阻止される。彼を拘束したのは氷の騎士。クレスが魔術で生み出した傀儡だ。
「がッ、クソッ、やめ、ろ……?」
彼に近付くもう一人の氷の騎士が振り上げた氷の長剣を見て死を予感するクロキリだったが、その未来は訪れなかった。
「お前は貴重な戦力だと判断した。まだ失う訳にはいかない」
シンの黒い直剣が剣を振り上げた氷の騎士とクロキリを拘束する氷の騎士の二体を同時に葬り去っていた。
「……はッ、ハハッ……そいつは光栄なことだ。恩に着る」
「あぁ、そうしてくれ。そして、その恩で次は俺を助けてくれ」
シンはそう言うと、いつの間にか反対側の隅まで移動していたクレスに向かっていった。
「……敵が、増えたな」
短く呟くクロキリ。彼の言葉通り、この部屋には氷の騎士だけではなく動物を模した様々な氷の魔物や氷で作られた骸骨達が溢れている。
そして、それを為したのはあのクレスというアンデッドただ一体だ。
「くッ、誰か殲滅しろよッ!」
「もう敵の方が多いんじゃねえのかァッ!」
「おい、広範囲攻撃出来る奴居ねえのかッ!」
「アンデッドばっかだぞッ、プリースト! プリースト呼んで来いッ!」
「居る訳ねえだろ馬鹿がッ!」
文句を言いながらも氷の魔物達と向き合う侵入者達。しかし、当然ながらいくら雑魚を倒したところで発生源であるクレスを倒さなければ意味がない。
「うぉおおおおおおおおおッ!!! 任せろおおおおおおおおおッ!!!」
「うわうっせッ、てか強えッ!?」
大声を出しながら雑兵を凄まじい勢いで殲滅していくのは
「道が空いたぞッ!」
「今だッ、行けええええッ!!」
「壁をぶっ壊せええええッ!!!」
開いた一筋の道に押し寄せるプレイヤー達。
「溶かすッ!!!」
「壊すッ!!!」
部屋の隅を覆う分厚い氷の壁にブレイズのレイピアが突き立てられ、そこを中心に壁の温度が上がり溶けていき、柔らかくなった壁に巨大な戦鎚が叩き付けられ、三メートル以上もあった分厚い氷の壁は一瞬にして破壊された。
「死ねえええええやぁあああああああッッ!!!」
「カタッ!」
戦鎚を持つ男が一番に乗り込んでいき、戦鎚を振り上げる。が、その戦鎚が振り下ろされるよりも先にクレスの指先から放たれた氷の結晶が男の胸に突き刺さり、それは直撃と同時に花開くように成長し、男の体を体内から滅茶苦茶に食い破った。
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