三階層を突破せよ

 意外にも真面目に行われた作戦会議の末、お互いの能力と情報が共有され、ある程度の戦法は編み出された。


「じゃあ、おさらいするのです。先ず、クーリャ〜さんとヴェルベズさんのバリアで相手の矢を防ぎながら部屋に突入して、アサシン組は直ぐに敵の後衛を処理。ファイター組は厄介そうな前衛を抑えて、メイジ組が敵陣の中央に魔術連打で雑魚を処理。そして、明らかに強そうだった玉座のゴブリンと一匹だけ居るオークはそれぞれブレイズさんとシンさんが抑えるって感じなのです。分かったのです?」


 それぞれの特性と長所から、レヴリスはメンバーを三つの組に分けた。一つは比較的体が強いファイター組。一つは俊敏で暗殺が得意なアサシン組、一つは魔術をメインで扱うメイジ組。

 それらを説明し終えたレヴリスの問いに、明らかに粗暴そうな見た目をした男が答える。


「あー、あんま分かんねえけど、自分の役割だけ覚えときゃ良いんだよな? 俺は前衛を抑えれば良いって感じで」


「あ、はい。まぁ、そうなのです。それで大丈夫です」


 下手に詰め込んでパニックになられても困るので、レヴリスは頷いた。実際、任せられている仕事をこなしてさえくれれば問題は無いはずだ。


「一つ聞きたい。アサシン組は後衛の処理後はどう動けば良い?」


 黒い外套で体を覆い、フードを目深く被った男が問いかけた。彼は言葉から察せられる通り、アサシン組に組み分けされた内の一人だ。


「基本的には戦局を見て苦戦しているところをカバーして欲しいのです。でも、迷ったら前衛処理の手伝いで良いのです」


「分かった」


 アサシンの男は頷き、僅かに見えた瞳をまたフードの内側に隠した。


「じゃあ……三十秒後に行くのですよ。その間にバフをかけておくのです」


 レヴリスの言葉を聞き、全員がバフやアイテムを使用し始める。そして三十秒が経ち、レヴリスの指示に従った陣形が整えられた。


「扉を開けるのはゲンドさんに任せるのです……三、二、一、突入っ!」


 ゲンドというファイター組の男が扉を開き、一番に部屋に押し入る。


「グギャッ!」


「グギャギャッ!」


「グギャグギャッ!」


 現れた侵入者達にゴブリン達は喚き声にも聞こえる声で意思の疎通を取り、一斉に矢や魔術で侵入者達を攻撃した。


「バリア、耐久度限界ッ!」


 しかし、雨のように降る攻撃を半透明なバリアが防ぎ、全員を無傷で部屋の中に入り込ませた。


「バリア崩壊ッ!」


「行くぞおおおおおおおッ!!」


「おらッ、進め進めッ!」


「メイジ組は下がっとけよッ!」


「うるせえファイターさっさと前出ろッ!」


 バリアの崩壊と同時に怒号が鳴り響き、侵入者達は一斉に散開する。


「先ずはお前達だ」


「グギャァッ!?」


 部屋の手前側の左右の隅に居た弓持ちのゴブリン達を、アサシン組が一瞬で狩っていく。


「うぉおおおおおおおッッ!!!」


「グッ、グギャァッ! グギャギャッ!」


 部屋の中心に展開している前衛のゴブリン達にファイター組がぶつかっていき、激しい戦闘が巻き起こる。


「『色褪せた火が招くは青褪めた相貌。古より続く灯火はいつしか風に吹かれて消え去り、その熱だけを残した。それは色彩無き火にして熱の顕現。疾く溶けよ、褪せ火あ び』」


「『君もお前も運んでやろう。僕はウィンディ、風の導き手なり。故にそこまで運んでやろう。この風に乗せて、雲の向こうまで。風の手運びウィンディ・キャリー』」


 色を無くした無色の火が、熱というそれそのものが、風の手によって運ばれていく。見えない脅威がファイター組の間をするりと抜けて、敵陣のど真ん中まで辿り着き、そこを灼熱の地獄に変えた。


「グッ、グギャアアアッ!? グギャギャァッ! グギャギャギャギャギャギャッ!」


 混乱し、熱された床から離れようと飛んだり、熱い空気を退かそうと扇いだりするが、風の手によって操られたその熱から逃れることは出来ない。ただその熱が世界に溶けて失せるまで、耐えることしか許されないのだ。


「邪魔だッ、邪魔だッ、邪魔だッ! ていうか、幾ら僕が熱に耐性あるって言ってもやり過ぎじゃないかなぁッ! 普通にダメージ受けてるんだけどさァッ!」


「耐えろ。俺だって耐えてる。暑いのには慣れてるんだ」


 ブレイズのレイピアが空間に満ちた熱よりも熱い炎でゴブリンを溶かして貫き、シンの魔力を纏った刃が次々にゴブリンの首を切り落としていく。


「いやさッ、慣れるも何もダメージは受けるからねェッ! ていうか、暑いって何? まさかそこら辺の感覚制限してないの?」


「あぁ。暑さも寒さも痛みも、別ゲーで慣れた」


「はははっ、それがマジなら君、イカれちゃってるねェッ!」


「逝かれてはいない。感覚は残っている。ただ、慣れてるだけだ」


 それがイカれてるって言ってるんだけど、とブレイズは言いながら更に奥へと進んでいく。その隣には、無表情で灼熱を耐えるシンの姿があった。

 この二人はどちらも熱への耐性があり、単独でもかなり強いことから相手の精鋭を討伐する役割を任された。故に、この灼熱の中を突っ切っているのだ。


「さて、どっちがキングでどっちがオークだったっけ?」


「どっちでも良い。近い方だ。俺は王を狙う」


「じゃ、僕がオークだねッ!」


 既に部屋の奥へと辿り着いた二人は、それぞれ玉座に座ったゴブリンと棍棒を持って聳え立つオークに向かって走っていく。


「……よし、順調です。全部狙い通りに行ってるのです」


 戦局を俯瞰するレヴリス。最初に突っ込んで死んだ二人には悪いが、情報を得られたのは助かったとレヴリスは思い返した。


「そういえば、最初にあの二人に刺さってた骨ってなんなんでしょう? 魔術なのですかね?」


 矢と同時に二人に刺さっていた骨を思い出し、一瞬考え込むレヴリス。しかしそんなことはどうでも良いと、その思考を放棄しようとした瞬間。


「ぐッ、なんだァ!? 骨ッ、刺さってッ、ぐぼぇッ」


「やッ、やめッ、誰かッ! ぐッ、がはッ!? 避けれ、ねぇ……ぅ」


 骨だ。先が尖った、鋭利な骨だ。それが、前衛を務めていたファイター組の体をグサグサと貫いている。その骨はまるで意思があるかのようにヒュンヒュンと自由自在に飛び回り、その鋭利さによって侵入者の体を破壊していく。


「なッ、骨……ッ!? こんな魔術、聞いたこと無いのですッ!?」


 だったら、そういう魔物なのか。レヴリスはすかさず骨に解析スキャンをかけた。



「────ゴブリン・スケルトン……?」



 私の知っているスケルトンじゃない、とレヴリスは思わず呟いた。


「これも、またヘンテコな能力があるってことなのですか」


 やはり一筋縄ではいかないとレヴリスは気合を入れ直し、ふんすと鼻を鳴らして上を向いた。


「青い、炎……?」


 この部屋に点在し、灯の役割を果たしている青い炎。しかし、ここまでは普通の灯りで、青い炎などでは無かった。なのに、何故ここだけ青い炎なのか?


「……解析スキャン


 レヴリスはもう一度同じスキルを使用し、その青い灯火を解析した。


「……ッ! みんなっ、上に注意なのですっ! 青い炎もッ、敵なのですっ!!」


 現れた表示ディスプレイには、ただ短くウィスプと書き記されていた。

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