三階層の洗礼
三階層、ボス部屋の前。そこには沢山のプレイヤー達が並んでいた。
「よし……連絡が取れたプレイヤーはこれで全員揃いましたね」
クリア時にはレヴリスとブレイズとズカラしか残っていなかったはずのメンバーだが、レヴリスは漸く一つの作戦に思い当たったのだ。
「全員合わせて二十九人……ちょっと流石に狭そうですけど、これで絶対勝てるはずなのです」
ここまでの流れで塔の入り口から逆に攻めてくることは無いと判断したレヴリスは、この三階層のボス部屋前で連絡の付いた塔内の仲間を全員集めることにしたのだ。
結果、集まった人数は二十九。そして残るは三階層、四階層、五階層(屋上)の三エリアだけだ。レヴリスは揃った仲間を見て安堵の息を吐く。
「流石にこれで一安心なのです……でも、油断はしないのです」
意気込むレヴリス。しかし、ここに至るまでのフロアボス達を知らないプレイヤー達は、痺れを切らし始めている。
「ねぇ、レヴリスちゃん。私、そろそろ退屈すぎて暴れちゃいそうだわぁ。全員集まったなら、早く行きましょう?」
「そうだ。一つの空間に仕切られ、自由を奪われた魔物程度この人数でかかれば一瞬だ。早く行くぞ」
「俺もヨォ〜、そろそろ我慢のリミットが迫っちゃってんで〜? はようしてくれんとぶった切っちまいたくなるんだよネェ〜? 幾らクランマスターでもサァ〜」
ある女は鞭を振り回し始め、ある男は刀を握ってガタガタと震え始める。
「え、えっと……こっから、全員の自己紹介と作戦会議をしようかなって思ってたのです、けど……」
レヴリスが恐る恐る言ってみるが、鞭の回転は速度を増し、刀はより一層震え始める。
「勝手にする分には別に良いんだがよ、俺は我慢できねえから先に行かしてもらうぜ?」
「あぁ、俺もだ。好きなだけ語ってりゃ良い」
「私も〜っ! ビビリは扉の前で震えてれば良いよ〜っ!」
そして、遂には勝手な行動に出る者まで現れた。
「あっ、ちょっと、待つのですっ!」
先頭の男が扉を開けて、横に男が並ぶ。その後ろから女が一人付いて来る。
「あァ?
証明代わりに青い炎が灯る部屋の奥にズラリと並ぶゴブリン達と、一匹のオーク。部屋の奥には頭蓋骨で飾られた悪趣味な玉座があり、数体の鎧を着たホブゴブリンはその玉座に座るゴブリンを守るように立っている。また、彼らの殆どはアンデッド化しており、虚ろな目で部屋に踏み入ろうとする彼らを見ている。
「ったく、雑魚しかいねえし、楽しょ────」
二人の男が、同時に部屋に踏み入った。瞬間、二人の体に無数の矢と骨が突き刺さった。
「ぐ、ぅ……は……」
「し、ぬ……?」
「ひッ、ひぃッ!?」
先に部屋に踏み入った二人の男は矢や骨に串刺しにされたまま倒れて粒子と化し、それを至近距離で見た女は腰を抜かして悲鳴をあげた。
「な、なんだ、これ……いきなり、死んだぞ」
「し、死角だ……入ってから直ぐ、部屋の外からは死角になってる左右の角から撃たれたんだ……」
「矢は分かるが、骨って何だッ!? 何のスキルだよッ!」
取り乱す一同に、ブレイズが思わず笑う。
「ははっ、あんなにイキリ散らしてたのに、ダッサイなぁ! こんなに簡単に二人も死んじゃうなら、戦力としては数えられないなぁ、特にそこで腰を抜かしてる君とかさァ」
「ちょ、ちょっと、ブレイズさん。やめるのです。ここで仲間割れしてたらまた苦戦しちゃうだけなのですよっ!」
同じような失敗をした自分を棚に上げ、周囲を煽るブレイズ。レヴリスが宥めるが、直接指を差された腰を抜かしている女は、顔を真っ赤にしてブレイズを睨みつけた。
「な、なんなのっ! 私は腰抜かしてないしっ! ビビって入ろうともしなかったお前には言われたくないからっ!」
「あははっ、先ず立ってから言いなよ。てかさ、良かったね? このゲームに尿意ってシステムが無くてさ。じゃないと、漏らしてたんじゃないの君? あははっ!」
「ッッッ!!!!」
キッと殺意だけで人を殺せそうな程に睨みつける女だが、未だに立ち上がることは出来ない。
「ブレイズさんッ! そのくらいにしてくださいっ! 本当に、こっからは連携も大事なのですっ! この塔の異常さは貴方も分かってるはずなのですっ!」
「あー、はいはい。分かったよ。このくらいにしとくよ。でも、人を見下して煽っちゃうのはもう僕のサガだからさ、しょうがないんだよ」
一ミリもしょうがなくないが、レヴリスはスルーしていつの間にか閉じていた門を見た。
「作戦会議をするのです。そして一瞬で終わらせてやるのです。異論がある人、居るのです?」
答えは沈黙。誰一人として、手をあげるものは居なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます