禿鷲とスライム
ドレッドが死んだ。前触れなく、大きな戦力の一人が消えてしまった。
「ど、ドレッドさん……ッ!」
「クソッ、よくもドレッドをッ!」
残るメンバーは、レヴリス、アブリ、ブレイズ、ズカラ、取り巻きのエグナ。そして残る魔物は二体。空を飛び、結晶化した頭で突撃するボルドロと、透明化して相手を毒殺するエノム。
「落ち着け。今の問題はどっちから倒すかだ。鳥か、透明か」
取り乱した二人にズカラが声を掛ける。
「透明の方は倒せるあてがある。運にもよるがな」
「……じゃあ、透明は任せても良いのです?」
「あぁ、そっちは鳥を頼む」
ズカラはそう言うと、取り巻きのエグナを連れて後ろに下がった。
「おい、エグナ。これとこれで……」
ズカラはエグナに幾つかの道具を渡し、儀式のように使うよう指示した。
「やり方は分かったな?」
「わ、分かりました……で、ですが、これじゃ隙だらけで透明に狙われるのでは」
エグナの疑問に、ズカラは笑って首を振った。
「それが狙いだからな。お前を狙って近付いたところを俺が殺す。ほら、こいつを持っとけ。それがあれば、透明が近付いた時に探知できる。音が聞こえる」
「……分かりました」
エグナは迷った末に頷き、幾つかの道具を受け取って儀式の準備を始めた。
「先ずは、これで……ここを捻る。そして、ここから奥に、魔力を流す……同時に、こっちの道具を起動して……」
ブツブツと呟きながら儀式を進行するエグナ。ズカラはエグナから少し離れ、鳥と戦おうとしているかのように偽装している。
「あれ、ズカラさん? こっちに来てて大丈夫なんです? 透明は……」
「おう、大丈夫だ。そういう作戦だからな。まぁ、心配しなくて良い。アレを見ろ。準備はしてる」
ズカラがエグナを指差して言うと、レヴリスは少し腑に落ちないような顔をしながらもボルドロに意識を向けた。
「ハハハッ、全く馬鹿だな。知恵もつけない。俺の寝首を掻こうっつー向上心も無い」
ズカラは必死に儀式の準備をするエグナを見て嘲笑した。
「だからな、お前は騙されたまま……死ぬんだよ」
「ぐッ!?」
エグナの体から、毒液が溢れる。体は爛れ、血を吐き、驚いたような顔でズカラを見た。ズカラが話していたような音は鳴らず、透明化の探知はなされなかったからだ。
「────へッ、掛かったな?」
瞬間、取り巻きの体が爆散し、毒液を撒き散らしながら肉片と化した。なんのことは無い。ズカラは最初から、このつもりだったのだ。取り巻きを囮にし、殺される瞬間に爆発させて諸共殺す。最低の作戦だ。
「騙して悪いなぁ……だが、これで始末できたろ? ハハハッ!」
実際には火属性耐性を持つエノムは爆発で死んではいない。だが、二割程度まで削られたHPとステルスの限界が近付くMPを見てネクロが即座に回収していた。
「ズカラ、さん……貴方、最低です」
「ハッ、テメェ一日に何回それを言えば気が済むんだ? それに、これで透明は始末できたろ? あの爆発、至近距離ならオークだって一撃だからな」
「……」
レヴリスは最早何も言わず、ボルドロを見た。
「キェェ……」
ボルドロは困ったように鳴き、空中で周りを見渡した。が、当然仲間はもう居らず、敵は四人残っている。
「……キェ」
四体一。しかも残ったのは比較的強者ばかり。そして、敵はこの後も増援が来ることが確定している。ならば、やれることは一つだ。
「キェェ、キェ」
ボルドロは方針を決定し、ネクロにあることを頼んだ。そして、スピードを出す為に空を旋回し始めた。
「キェェ……キェェ……キェエエエエエエッッ!!!」
三度、四度、大きく旋回してから真っ直ぐにレヴリスの方に突っ込んでいくボルドロ。しかし、相手も流石にそれは読んでいたのか、レヴリスを囲むように他の三人が現れ、それぞれの武器を構える。
ボルドロは、この突撃に置いて一つだけ決めていることがあった。それは、重力魔術でズカラの動きを止めておくことだ。理由は単純で、彼の持つ衝撃を無に帰す棒が厄介すぎるからだ。
「来るよッ!」
「ぐッ、重圧だッ! 動けないッ!」
「俺がやりますッ!」
「アブリさんッ!?」
動きを止められたズカラ。代わりにレヴリスの前に出る二人。アブリとブレイズだ。しかし、より前に出たのはアブリだった。
「キェエエエエエエエエエエエッッ!!!」
「うぉおおおおおおおおおッッ!!!」
お互いに突撃し、ぶつかり合う。ボルドロの頭はアブリの胸に、アブリの剣はボルドロの翼に。それぞれ、直撃した。
「ぐぉぉぉらぁあああああああッッ!!!」
「キェェェッッ!!」
アブリの熱の剣が、ボルドロの翼を刈り取った。代わりに、アブリはそのまま壁に叩きつけられ、衝撃に耐え切れず粒子となった。
「今だッ、翼が無くて飛べない内にッ、殺……せ……?」
地面に墜ちたボルドロ。だが、彼らが襲いかかるまでもなく、ボルドロは墜落と同時に姿を消した。
「……開きました、ね」
そして、全ての魔物が消えた部屋の扉はゆっくりと、独りでに開いた。
「クソ……何なんだ。ここの魔物は」
殺そうにも殺せない魔物達に、ブレイズが毒突く。彼らは知らないのだ。ボルドロはあの突撃が終了すると同時に回収してもらうよう、ネクロに頼んでいたことを。
そもそも、戦闘中でも主と従魔が離れた場所同士でコミュニケーションを取っているという事実すら気付いていない。そして、自分達を監視する使い魔が存在していることにも気付いていない。唯一それに気付いている者は……PKではなく、ネクロに挑戦する一プレイヤーとしてこの塔に入り込んだ、シンという男だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます