ゔぇのむすらいむ
紙を媒体に呪術を使う呪符士であるブルー野は、冷静さを保ちながらも焦っていた。
「……透明化ならば、あれで姿を現すはずだ。実際、一度は姿を現した」
「私も一回は透明化を解いたんですけど……それ以外にもタネがありそうなのです」
それ以外にもタネがある、正解だ。ヴェノムスライムのエノムは、ネクロから透過魔術以外にも擬態や幻術などのスキルを与えられている。
今回は透明化を解除されてしまったが、擬態によってまた姿を消したということだ。
「君たちさァッ! 呑気にお喋りも良いけどさっさとその透明な奴を殺すかこっちを手伝うかしてくれないかなァッ! 結構、限界なんだよねェッ!!」
「そうだァ、マジで早くしやがれッ! ダメージを受けずに対処できてるのが俺らしか居ねぇせいでずっと気ィ張ってんだよッ! そして黒斑野郎もそろそろ手伝やがれッ!」
ブレイズとドレッドが声を荒げ、エノムを取り逃がし、呑気に会話を続ける者たちを呼ぶ。実際、この二人以外は途中で重傷や致命傷を受けて一時的な戦線離脱を繰り返していた。そのお陰で二人は休憩無しで戦い続けている。
また、ズカラとその取り巻き二人は観察するように戦線から少し引いていた。
「ぐッ!? すまんッ!」
「ほらまた一人抜けやがったッ! 誰かッ、代わり入れやァッ!」
レタムの水刃に腕を落とされたプレイヤーが後ろに飛び退き、ポーションやスキルで回復の時間に入る。
「良し分かったッ!!」
「……今行く。透明化は一旦放置して最速でその三匹を片付けよう」
「わ、分かったのですッ!」
エノムに掛り切りだった熱血漢のレッド井、その仲間のブルー野、そしてレヴリスがアスコル達の相手をしに向かう。
「……ん? おい、居たぞッ! そこだッ!」
が、途中でレッド井が何故か姿を現しているエノムを発見した、大声で報告する。
「ほ、本当なのです……いや、あれは」
レッド井の言葉で振り返り、エノムの姿を見つけたレヴリス。しかし、彼女はその様子に違和感を覚え、正体に気付く。
「幻術ですッ! あのスライムは幻なので────」
「────ぐぁああッ!? がッ、ぐはッ、HPがいきなりぃぃぃ……ぁ」
しかし、その気付きは遅かった。レヴリスがそれに気付くと同時に、ついさっき後ろに下がり回復しようとしていた男が血を吐きながら息絶え、粒子と化した。
これで四人目だ。ケイル、タキン、そしてズカラと共に現れた五人パーティの内の二人。
十七人も居た仲間達は十三人に。侵入者達は急速にその数を減らしていた。
「お、遅かったのです……」
「おい、落ち込む時間が無駄だ。その透明は無視しとけや。最優先であの三匹だ、良いな?」
ズカラの言葉に、レヴリスはぎこちなく頷く。
「分かったのです。でも、まだ魔力が回復してないのです」
「あぁ、そうだったな。だったら隠れて見てろ。暇なら透け透け野郎でも探しとくんだな」
ズカラはそう言い放つと、取り巻き二人を伴って後衛の役割を果たしているレタムに向かっていった。
「先ずはテメェからだ」
ズカラは左手に棒を、右手にナイフを持ち、レタムに一直線に向かっていく。
「────キェエエエエエエッッ!!!」
が、それを遮るように襲いかかってくるのがボルドロだ。
「来ると思ってッ!?」
それを予見していたズカラは棒を伸ばして防ごうとするが、何かの力が働いてズカラは重圧にさらされ、膝を突いて棒を取り落す。
「ぐふッ」
動けなくなったズカラに、ボルドロの結晶化した頭部が直撃する。ズカラは勢い良く吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「だ、大丈夫なのです?」
「……クソッタレ、勿体ねえ」
ズカラが呟くと同時に、ズカラの取り巻きの一人が突然に悶え苦しみ、蹲り、泡を吹いて倒れた。もう彼の体に命の灯火は宿っていないように見える。
「え、なんで……まさかッ」
その様子を訝しむように見ていたレヴリス。そして、突然死んだ取り巻きと何故かピンピンしているズカラを見比べて、気付いた。
「仲間を、身代わりにしたんですかッ!?」
「死んだのは……エルピアの方か。よし、弱え方が死んだな」
レヴリスは隣の生物が信じられなかった。
「ふ、ふざけないで欲しいのですッ!
「あ? 何言ってんだお前。スラムのクズが少しでも人の役に立って死ねるんだぜ? これ以上の幸せねえだろ」
「……最低なのです」
「クヒッ、テメェにそれを言う資格はねぇだろ。ハハッ!」
ズカラは笑い、立ち上がると、短剣と棒を握り直した。
「さて、余りの命は残り一つか……慎重に行くしかねえな」
そして、エルピアの死体の前で蹲っているもう一人の取り巻きを叩き起こし、再度レタムに襲いかかろうとしている。
「……信用は、すべきじゃないのです」
レヴリスは小さく呟き、少しだけ回復した魔力でこの状況を打開する策を考え始めた。
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