突破への道筋

 レタムに襲い掛かるズカラと取り巻き、アスコルに群がるアブリ達に、ボルドロを打ち落とそうとするリーノ達。


「MPは二割弱しかないのです……でも、やれることはあるはずなのです」


 それに、とレヴリスは言い加える。


「このまま行くと、あのエノムとかいう紫のスライムにかき乱されて全滅させられるのです」


 しかし、幸いエノムは慎重に動いている。動きが察知されないよう、ゆっくりゆっくり敵に近づいて、それで静かに体に潜り込むという戦法を取っている。シャレにならない暗殺性能な上に、狭い室内で逃げ場もなく、味方を巻き込んでしまうために大規模な攻撃で見えないまま始末するということもできない。

 この状況において、これほど厄介な敵はそういないだろう。

 だが、エノムが全滅まで導く速度はそう早くない。だから、そうなる前に敵を処理することは適うはずだ。


「あの蠍は固すぎますし、鳥も飛んでるから簡単には処理できないのです……やっぱり、ミミズから倒すべきなのです」


 レタムは四匹の中で最も自衛力が無いが、他の三匹に守られているため、ここまで生き延びられている。しかし、それでもやはりこの中で最も無防備なのはレタムだ。

 そして、レタムは基本的に集団戦において最も最初に潰さなければならないヒーラーとバッファーの役割を持っている。どう考えても狙うべきはレタムだ。


「一度だけ……あと一度だけなら、透明化して一匹は仕留められるはずなのです」


 レヴリスは短剣を構え、その姿を消した。


「……」


 早足で短剣を構えてレタムに近付いていく。視界の端にボルドロの突撃を食らって吹き飛び粒子に変わるプレイヤーが見えたが、無視して進む。


「……」


 結晶の体で鋏を振るうアスコルが、一つの命を刈り取った様子を視界に捉えたが、無視して進む。


「……」


 目の前で毒液を吹き出しながらブルー野が倒れて粒子と化したが、無視して進む。


「……」


 レタムの放った水の刃がズカラの取り巻きの腕を刎ね飛ばしたのが見えたが、無視して────



「────魔刃幻殺ファントム・マギアラ



 幻で象られた魔力の刃が、レタムの体を真っ二つに斬り裂いた。


「……上手く、行ったのです」


 二つに分かれたレタムの体の内、上半身にあたる方が姿を消した。残された下半分は活きの良い魚の様にのたうち回った後、動かなくなった。


「殺せずに消えちゃう理不尽さはありますけど……取り敢えず、これで良いのです」


 後衛は消えた。後は飛び回る鳥を墜とし、硬い蠍を砕き、見えないスライムを潰すだけだ。


「でももう、魔力が無いのです。後は任せたのです」


 魔力が切れて姿を現したレヴリスは、部屋の端っこへと退避した。




 地面から土魔術による鉄の鞭が十本以上生え伸び、瞬きする間に結晶化して侵入者達を襲う。アスコルの仕業だ。


「ぐッ、面倒臭えなマジでッ!」


 ドレッドを襲う三本の結晶の鞭。なんとか回避し、大剣で受け、凌ぐ。しかし、攻勢に出る余裕は無い。


「誰かッ、こいつ倒してくれないかなッ! 僕じゃ無理なんだけどさァッ!」


 ブレイズにも三本の鞭が向かうが、持ち前の俊敏さで何とか避け切れている。


「う、ぬぅぅぅッ!」


「ぐわぁああッ!?」


「ちょッ、やめッ、危なッ、痛えッ!」


 他のプレイヤー達にも鞭が襲いかかり、傷を付けて退けていく。


「これだけの数の鞭を制御しながら動くことは流石に出来ないか。死んでください」


 アブリの灼熱剣が鞭の操作に掛り切りのアスコルを襲うが、一歩も動かないアスコルの結晶化した体に剣は呆気なく弾かれてしまう。


黄蓮強打イェレン・クラッシュアウトッ!」


 黄色いオーラを纏った拳がアスコルに突き刺さり、ビシリと罅を入れるが、お返しにと突き出された尻尾に刺され、体に毒を流し込まれて男は倒れる。


「来やがれッ、来やがれチキンがッ!」


「キェエエエエエエッ!!」


「クソッ、思った以上に速えなッ」


「キェエエエエエエッ!!」


「うるせえぞクソがッ! 風を飛ばすんじゃねえッ!」


 レタムが消えてフリーになったズカラがボルドロに勝負を挑むも、相手にされずに風魔術を返されるだけだった。


「ブルー野を、よくもッ! どこだ透明な卑怯者めッ!」


「おいッ、レッド井! 透明は良いから蠍をさっさとたおッ!? ぼ、ぉげ、ぐぼぇ……ぅ……」


「大丈夫かッ、大丈夫か名も知らぬ仲間ッ!」


「だ、いじょ……な、わけ……ね……だろ……」


 仲間を倒されていきり立つ熱血漢に苦言を呈した男が、口から血を吐いて倒れ、粒子に変わる。エノムの独断。


「……あれ、おかしいのです。状況が好転しないのです。寧ろ、負けそうなのです」


 レヴリスは頭を抱え、魔力の切れたステータスを見ながら溜息を吐いた。

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