戦力削り

 ♦︎……ネクロ視点




 強制召還フォースドリコールの効果で満身創痍のロアが目の前に現れる。しかし、その眼に宿った闘志は衰えておらず、僕を一振りで殺せそうな大斧は異常な力で握られ、ギシギシと音を立てている。


「グォォ……」


 怨嗟の声を上げ、突いていた膝を持ち上げるロア。僕はそれを黙って、ゆっくりと見守る。


「……グォォ、グォ」


「ダメだよ、ロア。君はもう死んだんだ。少なくとも、あの場ではね」


 少しずつ修復されていく肉体。一割を切っていたHPは既に三割に到達し、斬り裂かれてしまった肩から腹にかけても半分ほどは塞がっている。


「……グォ」


 重々しく頷くロア。僕は顎に手を添えた。


「気にし過ぎちゃ駄目だよ。君が負けたのは僕の責任だからね。僕は君の主だ。そもそも、前にステータスを見た時から結構レベルも上がってるはずだし、戦闘の前にSPを振っておくべきだった。今回に関しては僕がすべて悪いよ」


 僕は従魔を支配しているけど、代わりに彼らの行いも全て僕の物だ。そして、SPを振ってないとかは普通に論外だった。この戦いが終わったらボルドロとかも含めてSPを振ろう。ネルクスのスキルもいじってみたいけど、見れないのが残念だ。


「グ、グォォ」


「大丈夫。そもそも、彼らに勝利は有り得ないよ。もし彼らが頂上まで到達して、全てを踏破しこの部屋に辿り着いたとしても、ここに居るのは最高戦力だ。エトナにメト、ネルクス。僕っていう弱点はあるけど、囮くらいにはなってみせるつもりだよ」


 エトナもメトもネルクスも、全員今の所無敗だ。いや、一応メトはエトナに負けてるってくらいかな? 思えば、メトも最初は敵だったね。ていうか、メトを創ったあいつらはなんだったんだろうね。こんなに強いメトを創れるくらいには技術があるのに、普通の研究者ってことはないだろう。確実にどこかの国や組織に所属してるはずだ。


 ……いや、今は考えなくて良いことだね。取り敢えず、目前の敵だ。


「じゃ、ロア。僕の中で少し休んでて」


「グォ」


 従魔空間テイムドハウスにロアが吸い込まれ、消えていく。






 ♦︎……死闇の銀血シルバーブラッド視点




 ロアの姿が消え、敵の戦力が大幅に低下した。


「おぉ、やるじゃねえかァ、同族殺し」


「同族殺しは、余計なのです……それと、もう魔力が足りないのです……」


 言いながら皆の後ろに下がっていくレヴリス。


「ナイスですレヴリスさんっ! 下がっていてくださいッ!」


「うぉっ、あのクソオーガ倒したのかよ。マジナイスだぜおい!」


「良くやりました。後は私たちに任せておきなさい」


 そして、そのレヴリスをフォローする仲間たち。安全に部屋の隅に後退するレヴリス。しかし、ここでレヴリスは一つの重要事項を思い出した。


「ッ、そうですっ! 皆さんっ、透明な敵が居ますッ! 気をつけてくだ、さ……」


 言葉を失っていくレヴリス。その理由は、目の前でもがきだし、身体中から紫色の液体を噴出した仲間だ。


「ぐッ、ガ……どく、だ。気を付け、ろ……」


 粒子に変わり消えていく仲間。彼はズカラと共に合流した五人パーティの一人だ。全員が揃って上品な高級装備を身に付けていたが、透明なままで口から体内に潜り込んだエノムには無意味なものだった。


「クソッ、仲間がどんどんやられていく……ブルー野ッ!」


「……分かってる。レッド井」


 熱血漢が叫ぶと、その仲間が周りに札を撒き散らす。すると、その内の一枚が光り輝き、粒子となって消失し、代わりに紫色の粘体生物の姿を現した。


「ようやった。見えたぜ。テメェか、厄介なのは」


 それを見たズカラが直ぐにエノムに向かっていく。が、一瞬でエノムの姿はまた消えてしまった。


「……どうなってやがる」


 後ろも見ずに聞くズカラ。しかし、ブルー野は首を振る。


「分からない。謎だ。この術は一定時間透明化を無効化し続ける筈だ」


 その様子を、擬態の能力で地面と同化したエノムは眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る