レヴリス、死す。
至近距離。振り上げられた大斧。
「や、やめ────ッ」
高速で振り下ろされる斧。この距離で正面。回避は間に合わず、術や道具を使う暇も無い。必殺必中のその攻撃は……
「退け」
────レヴリスを押し退けたタキンに直撃した。
プレイヤーの中では強靭な部類に入る肉体を持つタキンだが、全力で振り下ろされたロアの大斧を受け切れる程の力は無かった。
「ぐふッ、ぐッ……」
右半身が吹き飛び、膝を突き、倒れるタキン。そんな状態でありながらもHPは僅かに残っていたが、体が半身しか残っていないので急速にHPは減っていく。
「……勝、て」
「た、タキンさんッ!」
粒子に変わるタキン。この一瞬で、二人も死んでしまった。
「……もう、分かったのです」
このままでは負ける。レヴリスにはその確信があった。そして、それはレヴリスを庇った仲間の死を無駄にすることと同義だ。
「……お前たち、ぶっちゃけ怖いです。知ってるものと違うって、怖いです。なんか、無駄に迫力あるし、変な能力持ってるし、プレイヤーでも構わず食べちゃうし、怖いです。普通の魔物だって怖いのに、お前たちは普通の魔物より怖いのです」
レヴリスはインベントリを操作し、両手に一本ずつナイフを握る。
「お前に負けて食べられると考えると、ゾッとします。お前に斬られて体が真っ二つになるって考えると、震えます。ゲームだと分かってても、無駄にリアルなこの世界じゃ、ビビるのには十分……なのです」
ロアは語り始めたレヴリスの言葉を聞いている。一応最近は少しずつ人の言葉を学び始めたロアは、少しでも相手の情報を得ようと考えているのだ。
「……でも、もうビビるのはやめるのです」
グルルとロアは唸った。相手の真意がイマイチ掴めない。本当に翻訳出来ているのか疑っている。
「そもそも、私がPKになった最初の理由はモンスターが怖かったからなのです。違うゲームですけど、私がまだ小ちゃい時……フィールドに出てモンスターと戦うのが怖かったから、街の中で無防備なプレイヤーを襲うことにしたのです」
だが、この時間ももう終わりだ。ロアは情報収集に飽き始めている。頭を使うよりも斧を振るうことを優先しようとしている。
「私は昔から恐ろしい見た目の敵が怖かったのです。今では普通に魔物も倒せるし、もうその恐怖を克服したと思ってたのです。でも、違ったのです。私がまともに戦えるのは自分より弱い魔物だけなのです。戦力を温存しようとか、アイテムを温存しようとか、魔力を温存しようとか、言い訳ばっかりで他の人に任せてばっかりだったのです。もしかしたら、今回ネクロさんを標的に選んだのもその苦手意識を克服するためだったのかも知れません」
ロアはまたグルルと唸った。だがこれは考え込む唸りではない、我慢の唸りだ。血を求めて震える斧を握り締め、耐える唸りだ。
「……魔物なのに聞いててくれるなんて不思議なのです。感謝しますけど、もうこっからは全力でぶっ潰すのですッ!」
だが遂に、ロアの忍耐は終わった。
「グォ……グォオオオオオオオッ!!」
「こっちから行くのですッ!」
腰を落とし、咆哮を上げて自身にバフをかけ直すロアに、自分から飛びかかるレヴリス。
「グォォッ!!」
「ッ、危ないのですッ!」
横薙ぎに振られる斧を
「解除。
そして、ロアの傍を通り抜けると同時に
「グォオオオオオオオッ!!!」
斬られた腹には目もくれず、通り抜けようとするレヴリス目掛けて勢い良く斧を斜めに振り下ろすロア。
「グォォ……」
その斧を確かにレヴリスを捉え、命中したかのように思えたが、それはレヴリスではなく、偽物。レヴリスの幻影だった。
「
「グォォォォ……ッ!」
突然背後から現れ、襲いかかるレヴリスに振り返りながら斧をぶち当てるが、それも幻影。流石に苛立つロアは、面倒なレヴリスを後回しにして先に他から倒そうかと考え始めていた。
「
だが、その気配を察知したレヴリスは即座に今度は十体の幻影を作り出し、全方位から襲いかからせた。
「グォオオオオオオオッ!!!」
斧を滅茶苦茶に振り回し、次々とレヴリスも幻影を消していくロア。しかし、幻影のレヴリス達もただで消えた訳では無い。
「グォォ……?」
ロアの体には、紫色のオーラを放つ闇の刃が無数に突き刺さっていた。
「起動」
爆発。紫色の爆発がロアを包み込み、刃が刺さっていた場所が黒紫色に染まっている。ほぼ全身に現れたその染みこそが、レヴリスが作り上げた即席の弱点だ。
「脆弱化させれば、いくらタフでも怖く無いのですっ!」
透明化しているレヴリスは両腕を振り上げ、スキルを使用し、両手のナイフに闇を纏わせた。
「
魔力ポーションをがぶ飲みするレヴリスだが、短期間で連続使用すれば効果は少しずつ薄まってしまう。そろそろ魔力の回復も限界が近付いている。
「これで最後……決めてやるのですッ!」
新たに現れた十体の幻影。そして、全てのレヴリスが片腕を掲げる。
「
それぞれのレヴリスにつき三つずつの幻魔の刃が浮き上がり、ガトリングのように連続で発射される。
「ッ、行くのですッ!!!」
躊躇いを超え、幻影達と共に突撃するレヴリス。その姿は透明だが、滅茶苦茶に斧を振り回すロアにはあまり関係ない。
「壊しても無駄なのですッ!」
「グォオオオオオオオッ!?」
次々と体に深く紫の剣が突き刺さり、飛び込んでくるレヴリス達を斧で叩くも、崩壊の瞬間に爆発し、ロアの体を少しずつ削っていく。
「グ、グォォ……グォオオォォォ……」
HPが半分を切り、三割に近付き、膝を突きそうになるも堪えるロア。しかし、幻影の爆発によって生じた紫の煙で視界は覆われている。
「
魔力が限界を迎え、透明化が自動で解けたレヴリスが、煙の中から現れ、ロアの腰から肩を斬り裂いた。
「グ……グォ……」
肩から腹辺りまでがパックリと斬り裂かれ、HPが一割を切ったロアは遂に膝を突き……
「トドメ、ですッッ!!!」
「グ────」
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