一階層の主

 扉が開かれた先、そこに居たのは一匹のスライムだった。その大きさはバランスボール程だが、感じられる雰囲気は普通のスライムとは違う。


「ボスっぽい部屋っすけど……グリーンスライム? 舐められてる訳じゃないっすよね」


「確かに、解析スキャンだとグリーンスライムと出ています。ですが、レベルがかなり高い上に色味が少し変です」


 リーノの言う通り、ここに居るグリーンスライム……ミュウは通常のグリーンスライムよりも透き通って綺麗な緑色をしている。その見た目はまるで生きるエメラルドのようだ。


「なんにしても、どうせ倒すしかないのです! 油断せずに本気で行くのですよ!」


「……了解した」


 武器を構え、油断無くジリジリと距離を詰める五人を見たミュウは、先ず隙を狙って一人を速攻で殺すという作戦を放棄した。


「散開なのですっ!」


 ある程度の距離まで近付くと、レヴリスが大声で指示を出した。五人は散開し、ミュウを包囲する。


「……今なのですっ!」


 五人の距離がそれぞれ1メートル以内に入った瞬間、レヴリスが叫んだ。


「熱剣ッ! 焼灼斬撃スコーチングスラッシュッ!」


 熱を帯びた剣が、更に煮え滾る焼灼の力を持って振り下ろされる。


闇隠ヤミカクレ……闇隠之剣アンオンノツルギ


 リーノの姿が闇に紛れて消え、代わりに影のような黒く半透明な剣が振り下ろされる。


「聖杖打ッ!」


 身の丈程ある金属製の杖が聖なる光を放ちながら振り下ろされる。


「大破剣ッ!」


 圧倒的な質量を持つ大剣が、凶悪な黒いオーラを纏って振り下ろされる。


幻魔剣ファントムブレード


 ピンク色の煙を薄く漂わせる紫色の透き通った刃が五本も生成され、同時に放たれる。



「……ピキィ?」



 至近距離から放たれた五つの攻撃。全てを回避することは極めて難しいそれを……ミュウは全て受けた。避けることなく、受け切った。

 表面に赤く溶けた傷や、様々な切り傷、小さな穴が幾つも空いたとしても、ミュウは確かに受け切ったのだ。


「なッ……グリーンスライムは火にも斬撃にも弱い筈ですッ! 死んでいないなど有り得ませんッ!」


 目の前の光景が信じきれずに叫ぶアブリだが、ミュウは確かに耐え切った。元々は弱点であった火属性と斬撃を、植え付けられた耐性と持ち前の耐久力で耐え切ったのだ。

 また、アブリが斬った痕である赤熱して溶けた傷は最早完治している。


「それどころか、誰もまともなダメージを与えられていませんね……これを倒し切るのはかなり厳しいかと」


 苦々しげな表情をしながらも冷静に言ったリーノに、レヴリスは頷いた。


「そうですね……ダメージは食らってるみたいなのですが、回復されちゃうのです。明らかに瞬間火力が足りていないのです」


 だが、他の三人は首を振った。


「瞬間火力を出すだけっすよね? じゃあまだ、可能性あるっしょ」


「……今のは小手調べだ。次は、本気で斬る」


「俺も小手調べです。手抜きでは有りませんが、本気の一撃を撃てる状況じゃなかったのは確かです」


 未だ戦意を見せる三人に、レヴリスは仕方無しと頷いた。


「……しょうがないのです。どのみち、逃げるつもりなんて無いですし」


 この程度か、と首を傾げるミュウに五人は一斉に襲いかかった。






 ♦︎……ネクロ視点




 ミュウが……いや、ミュウのが完全に五人を抑え込めている。流石の耐久力だ。スライムってやっぱり強いよね。色んなゲームをやってきたけど、スライムの育成に関してはどのゲームでも奥が深い気がするよ。可能性が多いって言ってもいいね。


「ミュウ、あんまり殺さないようにね。彼らにはもうちょっと先まで行って欲しいからさ」


 さて……一階層は殺されたところで深い痛手の無いミュウの分体だ。話によると、ミュウの三分の一を消費したらしい。


「お、いいね。第二陣も少しずつ近付いてるじゃん。罠と野生生物で死にすぎてるのは良くないけど、マシな方のプレイヤーは全然残ってるね」


 代わりに、金で雇われた荒くれ者達は結構な量が犠牲になってしまっているようだが。


「さて……お手並み拝見と行こうか」


 言って見たかったんだよね、このセリフ。

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