迫り来る第二陣

 化け物が跋扈する魔の島。訪れた人の群れはとにかく固まり、数の力で強力な敵を退けながら進んでいた。


「ルマイキー、大丈夫か?」


「平気だよ、リーサカ」


 彼らはある程度力を持ったゴロツキの集まりであるチェフクレン・ファミリーの一員、ルマイキーとリーサカだ。次元の旅人ではなく、生まれた時から一緒だった二人はその深い絆を武器に今日まで生き抜いてきた。

 そして、今回の戦いに参加したのは自分たちを拾ってくれたチェフクレンへの恩返しの意味もある。チェフクレン・ファミリーであっても今回の危険極まりない作戦は拒否することが許されていた。

 しかし、前方でファミリーを指揮しているチェフクレンに、少しでも報いようとこの恐ろしい魔の島にやってきたのだ。


「思ったよりも過酷で辛いね。罠も多いし、野生の魔物だけでも手に負えないのばっかりだ。僕は正直、みんなが居ればどうにかなるって思ってた」


 ルマイキーは温厚で心優しい人間だ。しかし、その手で犯してきた罪の数は数え切れない程でもある。その性格通り温和な雰囲気を醸し出す彼は、弱い人間の懐に入り込むのが得意だった。それを利用して何度も人を騙してきたが、ルマイキーにとってはその人の不幸よりもリーサカの幸せの方が大事なことだった。


「確かに危険で過酷な仕事だ。だが、今回の報酬にはそれだけの価値がある。これが終われば、十年は働かなくても生きていける。それだけ時間があれば、きっとまともな仕事だって見つかるさ」


 リーサカは厳格で強い心の持ち主だ。しかし、その手で犯してきた罪の数は数え切れない程でもある。頑丈な体を持ち、日々訓練に明け暮れる彼は、ファミリーに敵対する同業者を何人も地に伏せさせてきた。その中で命を奪った経験も当然あるが、リーサカにとっては自身の感じている罪悪感などよりもルマイキーの安寧の方が大事なことだった。


「そうだね……きっと、そうだよっ! ねぇ、リーサカ。僕ら、冒険者になろうよ! 僕たちなら、きっとなれるからっ!」


「はははっ、ルマイキー。まともな仕事と言っただろうが。冒険者はまともな仕事じゃないぞ。……だがまぁ、それも悪く無いな」


 幻想を語り、夢を見る二人。そんな彼らの視界には、大きな黒い塔が入っていた。


「あ……そろそろ、だね」


「流石に緊張するな。罠は後ろの方にいる俺たちには当たらんし、野生の魔物も不意を打たれることはないが……敵の本拠地が近くとなると、そろそろ警戒すべきか」


 ルマイキーとリーサカは体を僅かに震わせながらも、その手に武器を持って集団の先頭辺りを観察した。



「……あれ、なんか聞こえる?」



 塔の方から、何かが聞こえた。ルマイキーが思わずリーサカを見ると、リーサカも聞こえていたようで頷いた。


「これは……咆哮?」


 少しずつ大きくなってくるそれは……そう。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』


 紛うことなき、竜の咆哮だった。


「りゅ、竜だッ!」


「赤竜だッ!!」


「ドラゴンだぁッ! ドラゴンが出たぞッ!!」


「狼狽えるなァッ! 遠距離攻撃出来る奴は準備しろォッ!」


 塔の頂上からひっそりと顔を出した赤竜の姿に混乱する現場で、二人は目を見合わせるも、直ぐに武器を構えて塔に向き直った。


「例え竜が現れたとしてもッ!」


「俺たちは希望ある明日の為に退かないッ!」


 決意に満ちた表情で塔の頂上を睨みつける二人。その心からは、熱い感情が溢れ出ていた。


『『『ガァアアアアアアッ!!』』』


 それを否定するような咆哮。何故かダブったようなその音と共に塔を飛び立ったのは……十三体の赤い竜だった。


「お、おい……なんだよアレッ!?」


「や、ヤベェッ! あんなの勝てねぇッ!」


「竜が……十三体ッ!?」


 驚く人間たちを嘲笑うように赤竜は口角を歪ませ、更なる力を見せることにした。


『『『ガァアアアアアアッッ!!!』』』


 十三体の竜の姿が、一瞬にして三倍の大きさになった。一体だけではなく、全員がである。


「……は、はははは、ははっ」


「に、逃げろ……勝てねぇ、勝てるわけがなかったんだ」


「ま、待てテメェらッ! 今逃げても金は手に入んねぇぞ! おいッ、待てッ!!」


 正に規格外と言える化け物を目撃し、正気度を失ってしまった彼らを必死に呼び止めるチェフクレンだが、統率力を失った集団は蜘蛛の子を散らすように四方八方に逃げていってしまう。


「……リーサカ」

「……ルマイキー」


 そして、そんな光景を目撃してしまった二人は逡巡の末に思わず互いの名を呼んだ。


「「帰ろう」」


 同時に発せられた言葉は奇しくも同じもので、常にお互いのことを第一に考える二人は即座に岸で待つ船へと帰ることにしたのだった。

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