黒の塔、一階。

 一先ず二階層まで進み、そこで他メンバーと連絡を取り合いながら到着を待つことにしたレヴリス達は、様々な罠の洗礼を受けながらも少しずつ慎重に歩を進めていた。


「はぁ……思ってたよりも長いのです」


 溜息を吐いたのはレヴリス。自由自在に幻を見せ、影を操り、相手を惑わせるのが彼女の戦い方だ。有名なPKクランのクランマスターというだけあってその実力は相当に高く、特殊な状況でない限りクラン内では最強と言ってもいいだろう。


「そうですね。中々苦しいところがあります」


 賛同したのはアブリだ。焼灼剣士という珍しいジョブに就いており、熱の剣で相手を焼き斬ることに特化している。火属性耐性を持つ相手には滅法弱い上に、遠距離攻撃の手段をほぼ持たず、他のジョブと比べてもずば抜けて強い訳では無いことからあまり使われていないジョブだ。


 とはいえ、別に弱いわけでは無い。寧ろ、近距離戦で斬撃も火属性も軽減されない相手であれば魔剣士や双剣士並みの強さを発揮する。プレイスタイルが合っているなら、このジョブを選ぶことも間違いでは無いだろう。


「……しかし、さっきの話で言えば全員が到着するのはいつになることか。そもそも、合流自体叶うのか」


 いつも通りの険しい表情で言ったのは破剣士のタキンだ。パーティの中で最も体格の良い彼は、破剣士の能力により相手の武器や防具を壊すことに特化している。破剣士であるタキンの大剣と打ち合えば、並みの剣は直ぐに折られてしまうだろう。


「大丈夫だと思います。チャットを確認したところ、確かに魔物は殆ど塔周辺に集まっているようですから」


 答えたのはリーノ、闇隠れヤミガクレの女だ。闇に隠れ忍び、暗殺者のように命を刈り取るのが得意な彼女だが、今回は斥候としての役割を持たされている。


「まぁ、心配したってしゃあないっしょ? 確かに不安かもしんねーけど、待ってたってどうせ暇なだけだし。みんな忘れてるかも知んねぇけど、これゲームだから。楽しまないとやる意味ねぇよ」


 いつも通りの態度で言ってのけたケイルは、PKとしては珍しい聖職者系のジョブである|高位僧兵『ハイ・モンクソルジャー》に就いている。回復からバフ、そして自身の耐久力を上昇させる能力を複数所持している。攻撃系スキルはそこまで多くないのであまりPKに向いていないようだが、それ故に寧ろ相手を騙しやすいらしい。

 ただ、金髪でピアスを開けている若者が僧兵だと一目で見抜けるものは誰も居ないだろう。


「でも、考え自体は正しいはずなのです。今この塔の周りに殆どの魔物が集まっている以上、森にいる人たちは合流しやすいはずなのです。それで、全員で塔に向かえば……絶対、一部は通れるのです」


 そう、二階層で待機する上で、レヴリスは一つの作戦を立てていた。それは、塔周辺に沢山の魔物が集まっている現状を利用し、塔から少し離れた場所で全員が合流して塔に突撃するというものだ。

 さっきまでは包囲された為に散らばるしかなく、その後も森を徘徊する魔物の所為で集合は許されなかったが、今は事情が違う。塔に殆どの魔物が集まり、合流が容易になった今……ある程度纏まった戦力で塔を攻めることが出来る。

 その内の何割が塔に入れるかは分からないが、各個撃破されるよりはマシだろう。


「ま、俺には良く分かんねーけど、さっさと進もうぜ。てか、そろそろボスとか出ても良い頃っしょ」


 気楽そうに言いながらケイルが一歩先行し……リーノに肩を掴まれた。


「そこ罠です」


「危ねっ!?」


 ケイルの足元は何の変哲も無い床だったが、リーノ曰く罠らしい。


「こ、これ罠?」


「はい。恐らく踏むと……アレです。多分なんか落ちてきます」


 リーノが天井を指差すと、僅かに四方に線が入っている部分があった。ざっくりとしたリーノの説明だったが、その予想は外れていない。この罠を踏むと上から毒が降り注ぐ。


「……ふむ、扉が有りますね。気配もします」


 罠を越えた先、黒い重厚な扉がレヴリス達を待ち構えていた。


「ん? 多分この扉の向こう……ボスなのです」


 索敵が得意な訳ではないレヴリスにもハッキリと感じられる気配、それが目の前の重厚な扉の向こう側からしていた。


「……確かに、雑魚の気配ではない」


「んじゃ、開けて良いっすか?」


 警戒するレヴリス達の中、率先して開けたがるケイル。という訳で、扉を開ける名誉はケイルに譲られることになった。


「行きまーす。オープンザドア!」


 黒く分厚い扉が、開かれた。

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