それは策などではなく
闇が一面を覆い尽くし、無数の分身が四方八方に散り、耐性が無いものは幻に惑わされ、全てが滅茶苦茶になった結果、レヴリス達は外壁を超え、塔に侵入した。
しかし、その報告を聞いたネクロは、何故か満足気に微笑んでいた。
「うんうん、上手くいったね」
嬉しそうに何度も頷くネクロ。だが、それもそのはずである。
「さて……これをあと何回繰り返せるかな? 一階層で大分足止めは出来てるみたいだから、早く塔内で合流してくれると良いんだけど」
レヴリス達が全員無事に竜の妨害を素通りし、外壁の中に溢れる敵に殺されず塔に侵入できたのは、ネクロがそれを望んだからに他ならないからだ。
「地下までっていうのはもう諦めてるけど……せめて頂上までは辿り着いて欲しいね」
そうネクロが呟くと、そこまでぽけーっとしていたエトナがハッと目を覚ましたようにネクロを見た。
「ネクロさん……もしかして、ここまで誰も来れなそうですか?」
「うん。え、今気づいたの? さっきまで結構この話してたと思うんだけど」
「あんまり話聞いてなかったです」
ネクロは残念な子を見るような目でエトナを見た。
「じゃあ、私達がここでずっと待ってた時間……もしかして、無駄ですか?」
「もしかしなくても無駄だね」
まだ来ないと決まった訳じゃないけどね、とネクロは付け足したが、エトナはそれを信じることなく大きなため息を吐いた。
♦︎……
塔の中は意外にもしっかりと内装があしらわれており、高級そうな絨毯に明るく輝くランタンが五人を出迎えた。少なくとも視界内には魔物の類は居ない。
「ふぅ、なんとか逃げ込めましたけど……敵が居ないです?」
それに気付いたレヴリスは怪訝な目で周囲を良く観察し、壁の底あたりに空けられた穴を見つけた。
「む、この穴……槍でも突いてくるのか、近付くと発動する罠なのか……どっちにしても気を付けるべきですね」
「それも気になりますが、クランマスター。一番の謎は塔を囲む壁の内側に居た魔物達がこの塔に入ってこないことです」
アブリが言うと、レヴリスはハッとしたように入り口の方を見た。重厚な門の扉は閉まったままで、開く気配は無い。
「……確かに、謎ですね」
全力で逃げ切った反動か、まるでこの塔が安全地帯であるかのように安心していたレヴリスだったが、ここは敵の本拠地。普通ならば追いかけるようにそこの黒々とした扉から魔物の群れが押し寄せて来るはずなのだ。
「まさか本当にここがセーフティエリアな訳じゃないと思うのですけど……」
考え込むレヴリスだが、ケイルがなんでもないような表情で口を開く。
「普通に入る権利とかが無いんじゃね? あそこの魔物達は外で守るのが仕事で、塔には入っちゃいけないって命令されてるから入れないんっしょ。王様の城だって、城壁を守る兵士が好き勝手に城内に出入りできるって訳じゃねぇっしょ」
あっさりと言ったケイルに、タキンが唸った。流石に城内に賊が入り込めば王城の兵士は城内まで駆け込むだろうが、絶対的な命令を下せるテイマーの従魔に対する例えとしては間違っていないだろう。
「うぅむ……だとすれば、頂上から見ているネクロからすぐさま塔内まで追いかけるように命令が下るはずだが……それが出来ない状況にあるか、敢えてしていないのであれば筋は通るな」
「うーん……それ以上に有り得そうなのは思いつかないのです。ケイルにしては考えましたね。生意気なのです」
「ちょ、レヴリスちゃん! なんか酷くね?」
一旦話は纏まった一行だが、これからのことはまだ決まっていない。騒ぐケイルを無視し、レヴリスは考え込んでいた顔を上げた。
「それで、どうするのです? 進むか、留まるか、どっちかなのです」
レヴリスの問いに最初に答えたのはリーノだった。
「留まるべきだと思います。進んで私たちが死んじゃったら、後続の人も同じようにやられちゃって意味が無いと思います」
はっきりと意見を述べたリーノだったが、それを否定するようにタキンが首を振った。
「進むべきだ。この扉の向こうには沢山の魔物達が居る。いつネクロが突入の命令を下すかも分からない。ここで留まっていると知られれば、それだけで危険だ」
「んー、俺も進みたいっすね。待ってるだけって暇なんで」
雑な理由で賛同したケイルに呆れた目線を向けるレヴリスだが、タキンの言うことには理を感じていた。
「……俺も進むべきだと思います」
最後に、アブリも賛同を示した。
「あそこの天井、恐らくですが罠が仕掛けられています。クランマスターが言っていた穴も罠かも知れません。入り口から見える範囲だけで二つも罠が仕掛けられている塔です。沢山の罠や仕掛けがこの塔にはあると思います」
と、寧ろ進行に反対すべき内容を述べたアブリだが、淡々と言葉を続けていく。
「これは俺の予想でしかないですが、ネクロの狙いはこの塔を試すことだと思います。さっきも言ったように、この塔には沢山の仕掛けがあるでしょうから、それを一度も使わずに終わりたくないのでしょう。だから、塔の中に入った俺たちを追撃しないのでは無いでしょうか。もしかすれば、塔内に入れたのもネクロの意思が関係しているかも知れませんね」
「……それで、何故進むべきだと思うのです?」
ふっと一息吐いたアブリに、レヴリスが尋ねる。
「これは飽くまで予想です。それを念頭に置いて話を聞いて下さい……ネクロは、俺たちに塔を探索させようとしています。だから、今は様子を見ているはずです。しかし、俺たちが入り口から一歩も動かないと見れば容赦なく魔物を突入させるでしょう。そうなると俺たちは塔の奥へ奥へと逃げることになりますが、後ろから魔物が常に迫っている状態で塔を走れば、当然罠を避ける暇も有りません。それに、奥にも魔物が居た場合には挟まれて死にます。……なので、俺たちは進むべきです。結論から言えばタキンと言いたいことは変わりません。入り口から魔物達が押し寄せる前に奥へ進むんです」
なるほどなのです、とレヴリスは呟いた。
「……決めたのです。奥に進みます。二階層に辿り着いた時点で止まります」
最初は塔の近くで待機だったのが、段々と奥に目標が進んでいることに、レヴリスは気付いていないのだった。
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