規格外
♦︎……レヴリス視点
塔の上を赤い竜が飛んでいます。レベルは90超えで、ネクロの配下のようです。
「ドラゴンなんて、聞いてないのです……」
どうしましょう。流石に私でも
「うっへぇ……流石にアレはやばいっしょ。どうすんの? レヴリスちゃん」
「ここは、退くしか……」
あの竜が守る塔に真正面から突っ込むのは愚策としか言えません。一旦大人しく退いて、他と合流してから作戦を立てましょう。
「あ、あの! 無理ですっ!」
と、踵を返そうとしていた私たちをリーノさんが呼び止めました。
「逃げられませんっ! いつの間にか退路が塞がれてますッ! 大量の魔物に囲まれてますッ!」
「え、えぇっ!?」
困りました……いや、本当に困りましたよ、コレ。前門の竜、後門の群れ。どちらを選ぶのが正しいんでしょうか……。
「……気付かれたぞ」
突然、タキンが言いました。
「え、気付かれたって、何がです、か……ぁ」
その視線の先には、こちらを見ている赤竜の姿がありました。その真紅の目で私たちをじーっと見ています。
「クランマスター、どんどんと魔物達は近付いて来ていますよ? 前に進むか後ろに戻るか、どちらか決めなければ挟まれて死ぬだけでは?」
決断を迫ったのはアブリです。確かに、彼の言う通りどちらか決めなければこのまま死ぬだけです。
「……決めました」
私は決断し、皆に向き合った。
「塔に走るのです。塔の中に入りさえすれば、あの竜も手出しは出来ない筈ですから……そこまで、全力で走るのです」
ネクロの支配下にある竜が塔を破壊する勢いで攻撃してくることは無いでしょうから、これが最善のはずです。みんなも頷いてくれました。
「……準備は、いいです?」
コクリ、四人の首が縦に振られました。
「じゃあ、行くのですっ!」
後ろから迫る魔物達から遠ざかる為に、あの塔の内部へと侵入する為に、私たちは全力で走り出しました。
「レヴリスさんっ! 竜がッ、竜がこっちに来てますッ!」
走ってくる私たちを見て、塔の上を旋回していた赤竜がこちらに真っ直ぐ向かって来ます。
「私が撹乱するのですっ! みんなはとにかく走ってくださいっ!」
あんなものに攻撃してもどうせ殺せないのは目に見えているのです。だったら、私の得意な撹乱で逃げ切ってやります。
「
私たちの体がブレて、二つに変化し、またブレては二つに変化し、それを繰り返していきます。遂には、それぞれ十体の幻影が生まれ、散り散りになって行きます。
「出し惜しみなしで、最初から全力です……騙しきってやるのです」
十体の幻影が五人分……本体を合わせれば五十五人の私たちが塔に向かって走っています。が、これだけでは終わりません。
「
五十五人の私たちの中で、本体だけが色を無くし、透明になります。これで、視覚的情報だけでは確実に私たちを見つけることは出来ない筈です。
『ほう、分身か……面白い』
塔の上からこちらに迫る竜が、途中で動きを止めました。
『ならば、我も分身させてもらおうか』
よく分からないことを言いながら、赤竜は鱗を地面に落として行きます。
『クハハハッ! 増えよッ!』
地に落ちた真紅の鱗が蠢き、膨らみ、姿を変えていく。
「ま、まさか……有り得ないの、です……」
鱗が変化すると、私たちの行く手を阻むように十二体の赤竜が現れました。
「げ、幻影に決まっているのです。こんなこと、有り得るわけが無いのです……」
十三体まで増える赤竜。そんなの、存在していい訳が無いのです。許されないのです。
『言っておくが……これで終わりでは無いぞ』
不穏な発言を放つと、竜は大きく息を吸い込みました。
『グォオオオオオオオッッ!!!』
耳を劈く咆哮と共に、竜の姿が大きくなっていきます。その咆哮と巨大化は分身体にも伝播していき、やがて十三体全ての赤竜が三倍ほどの大きさになりました。
「こ、れ……夢、なのです?」
こんな、こんなの、正気の沙汰じゃありません。意味分かんないです。十三体に分身して、巨大化? 私は子供が落書きで作ったようなモンスターでも見てるんでしょうか?
「どうする……どうしよう……やっぱり逃げる……?」
いや、ダメです。どうせ今から逃げたところで追いつかれるだけです。だったらやっぱり、死ぬ覚悟で突撃するしかありません。
もう、赤竜との距離は数十メートルまで迫っています。奥にある城壁を乗り越えてからのことも考えないといけませんが、そんな暇はありません。
「こうなったら……全部、ひっちゃかめっちゃかにしてやるのです」
影も、幻も、嘘も、虚も……全部、全部、ばら撒いてやるのです。
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