心狼 vs 凍獄【4】
氷柱、氷剣、氷杭、氷槍。息を吐く暇も無く繰り出されるディネルフの攻撃だが、エクスはそれを回避し、弾き、受け流していく。また……、
「っと、痛えなァ」
「……もう治ったか。キリがないな」
攻撃を受けたとしても、元々高い再生力に加えてスキルでの高速再生を持っているエクスには何の効果も与えられないだろう。
「そりゃァ、こっちのセリフだぜ。こんな風に、ただ鉤爪で殴るだけじゃァ、幾ら燃やしてもキリがねェからなァ」
「当たり前だ。燃え続ければ死ぬからな。この俺であろうとも」
一々鼻につく言い方をするディネルフだが、真実だ。何度エクスが炎の鉤爪を食らわせても、その部分を分離されて終わりだ。
「しかし、どちらにしても俺たちの戦いにキリがないのは事実だ……ならば、もう一つ技を見せてやろう」
「ほォ? 見せてみろよ」
楽しげに言うエクスにディネルフは眉を顰めつつも、他に選択肢は無いので決断を曲げることはしなかった。
「『
もうこの流れで襲ってくることはないと判断したディネルフは、エクスから少し距離を取るだけで詠唱を始めた。
「『重なる雪も、凍てつく氷も』」
ディネルフの周囲から、氷や雪がつむじ風のように現れる。
「『ただ我が為だけにあり』」
次第に大きくなっていく氷雪の風は、少しずつディネルフを包み込んでいく。
「『求めるは無限の抱擁、求めるは永劫の安寧』」
いよいよ竜巻とまで言える程に大きくなったそれの中心に、薄っすらと浮き上がっていくディネルフの姿が見えた。
「『
氷雪の竜巻が、晴れた。
「おォ……こいつァ、やべェな」
風が消えた後、そこに残されていたのは巨大な氷像だった。透き通ったその巨像の心臓部には、ディネルフが居るのがはっきりと見えている。
また、余りにも大きなそれはその材質の殆どが
「どうした、人狼。この圧倒的な力を前に絶望したか? 教えてみろ、今の心境を……あぁ、安心しろ。この距離でもしっかりとお前の声は聞こえるからな。ほら、俺の声も聞こえるだろう? ククククッ」
凄まじく硬い氷の巨像に隠れたディネルフはその優位を盾に、挑発するように言い放った。さっきまでとは打って変わって気分が良さそうに見える。
「────しゃあねェ。さっさと潰すか」
しかし、その圧倒的な力を前に……人狼はあっさりと、ただ切り替えるようにそう言った。
「フッ、その虚勢がいつまで続くか見ものだな」
態度の変わらない人狼の言葉を、ディネルフは虚勢と見たらしい。確かに、エクスは本気の力を出している。これ以上は無いと考えたのだろう。
「んじゃ、行くぜ」
しかし、一つだけディネルフの考えには間違いがある。
「もう、近くの奴らは全員避難したらしいからな。全力で燃やしてやるよ」
飽くまでエクスは全ての力を解放しただけであって……全力の攻勢は、今まで一度も見せていない。
「ふゥ、はァァ…………溶けろォッ!!!」
一つ深呼吸を挟み、エクスは全力で大地を蹴った。と同時に、エクスの周囲から発生した炎の波が氷の巨人に押し寄せ、一時的にその視界を炎で埋め尽くす。
「ッ!? 速いッ! それに、視界がッ!」
「砕け散りやがれェッ!!!」
エクスは一瞬で氷像の胸の前辺り……つまり、ディネルフの前まで迫り、その燃え盛る右腕を思い切り振りあげた。
「行くぜェ、必殺ッ!!」
そして、見るもの全てが感覚だけで理解する、凶悪な一撃を……振り下ろした。
「『────
燃え盛る氷の鉤爪。しかし、その鉤爪は普段よりも凶悪で大きく、纏う炎は豪快で強く、更にその体からは赤黒い特有のオーラが放たれている……そう、
「なァッ!? ま、不味いッ!?」
その拳は、鉤爪は……たった一撃で、破壊不可能と言われた
また、その一撃が影響を齎らしたのは氷像だけに過ぎず、衝撃波のように広がった攻撃の余波が大地を抉り、木々を燃やし、全てを凍てつかせていく。
「ぐッ、修復は不可能か……クソッ、熱いッ、逃れなければッ!」
更に、神呪の炎を纏った一撃は氷像にも燃え移る。その炎は、氷像を巣食うヒビに入り込み、じわりじわりと氷像を溶かし、燃やし、崩壊させていく。
当然、それに気付いたディネルフは氷像が燃え尽きる前に一気に安全地帯では無くなった氷像から脱出しようとする。
「くッ、ハァ……熱い、熱いぞ……だが、逃れることは、出来た」
言いながら、
「本当に、このまま帰っていいのか……?」
しかし、なんの成果も得られずに逃げ帰っては帝国十傑として最大の恥。このまま帰ってもいいのか、ディネルフは一瞬悩んだ。
「んなもん、ダメに決まってんだろ」
その一瞬が、命取りだった。
「……燃え、た。
「おう、燃やしたからなァ。ところで、お前……もう、終わりだぜ?」
エクスの言葉を聞き、周囲を見ると、自分たちを囲むように直径十メートル程の氷の球体が出来上がっており、その内壁は轟々と神呪の炎で燃え盛っている。
「この氷はテメェのより硬えし、この炎はテメェの氷でも溶かせる……もう逃がさねェ。殺してやるよ」
ディネルフ・アーキュラスは、そのとき人生で最大の絶望を感じた。
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