氷雪の影で

 ♦︎……死闇の銀血シルバーブラッド視点




 爛々と輝く黄金の瞳が、この森を凍てつかせた張本人であるディネルフを睨みつけた。


「帝国十傑だったか? 人間の中だと最強クラスだって聞いてたんだがよォ、残念だぜ」


「……舐めるなよ、獣風情が」


 しかし、ディネルフもまた人狼を睨みつける。


「そもそも、本気で凍らせたというのは飽くまでこの状態での話だ……」


 ディネルフはフッと笑うと、僅かに口角を上げたままエクスを見た。


「暫く見せていなかったがな……許可は降りている。望み通り、本当の本気を出してやろう」


 勿体ぶって言うディネルフを、エクスは白けたような目で見た。


「言っとくけどよォ、本気を出すだとか、全力でやるだとか、そういうのを何回も言う奴は負けるんだぜ? オレがそうだったみてぇになァ」


 しみじみと敗北の記憶を思い出しながら語るエクスに、ディネルフはただ怪訝そうな目を向けた。


「ふん、知ったことか。お前が負けたのは、ただお前が弱かったからというだけの話だ。だが、オレは違う」


「へッ、それなら良いんだがなァ? まぁ、いいからさっさと見せやがれよ……テメェの、本気って奴をよォ」


 腕を組んでジッと待っている人狼を、ディネルフは呆れたような目で見た。


「……まさか、止めようともしないとはな。この俺に本気を出させたこと、後悔するなよ」


「いいから、さっさと来やがれ」


 苛立ったように言う人狼に、ディネルフは仕方無しという様子で息を吐き、目を閉じた。



「────解放リリース



 瞬間、ディネルフの髪が真っ白に、目が青銀色に染まると、この森をもう一度冷気が支配した。






 ♦︎……カルブデッド視点




 俺は死闇の銀血シルバーブラッドのサブマスター、カルブデッドだ。クラマスのレヴリスとはCOOで知り合って、PKやPvP関連のところでよく関わるようになり、今じゃクラマスとサブマスの関係だ。


「……こりゃあ、どうしたもんかな」


 凄まじい冷気が凍獄の奴から放たれたあと、あの人狼と凍獄の凄まじい戦闘が始まってしまった。


「今のうちに、この森を脱出するのです。幸い、あの化け物二人の戦いで場はグッチャグチャになってますから、十分に逃げる隙はあるのです」


「んで、さっさと塔を目指すってことか」


 コクリ、とレヴリスは頷いた。


「多分ですけど、あの感じから見て流石に最高戦力はあの人狼だと思うのです。だから、アレがここに居るうちに逃げるのです」


 結局、さっきまでの作戦と同じになるって訳か。


「じゃあ、纏まって逃げるのか? 今なら全員で固まって脱出とかも出来そうだけどよ」


「いや、きっと無理なのです。あそこにいる、骸骨が見えますか?」


 そう言ってレヴリスが指差したのは、あの人狼から少し離れた場所に居る二メートルは超えているでろう巨躯のスケルトンだ。

 水晶のように青く透き通った体を持つ骸骨は、凍てついた杖と外套を装備している。名は凍てつく骸骨の王フロストスケルトン・キング、俺の記憶が確かならアデント雪原の三体もいるエリアボスの内の一体だったはずだ。

 その元エリアボスは、下位種族と見られるフロストスケルトンや、氷で出来た魔物達、そして自分そっくりの分身など、数多くの取り巻きを作り出して戦っている。勿論、本体にも戦闘能力はあるようで、氷を操って何人もの敵を屠っている。


「あれ、凄く厄介なのです。多分、固まったらアレに足止めされて、また包囲されるのです」


「……なるほどな」


 確かに、氷属性っていうのは足止めには凄く向いてる力だ。それに、取り巻きも召喚できるっていうのなら、これ以上足止めに向いた敵は居ないだろう。


「という訳で、早速行きます……みんなっ、今のうちに散らばって逃げるのですっ! 誰でもいいので近くの人と五人一組くらいになって逃げるのですっ!」


 なるほど、流石に一人一人で逃げれば助かりづらいが、五人一組ならある程度逃げられるだろう。それに、逃げた後に塔を攻略できる確率も上がる。


「これで、何グループ生き残ってくれるかが問題だな」


 二十グループも生き残って、帝国十傑の二人も生き残れば流石に塔は攻略出来るだろう。


「んじゃ、俺らもさっさと逃げちまうか」


「そうするのです。でも、私とカルブデッドは別のグループで動いた方が良いのです」


 ん? ……あぁ。


「そうだな」


「はい。私とカルブデッドが別れたら、確実に二組は生存できるのです。だから、別れるのです」


「おう、塔でまた会おうな」


 レヴリスに一旦の別れを告げ、それぞれ反対の方向に向いて走り出した。

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