マノシマンディ上陸作戦

 ♦︎……ネクロ視点




 やぁ、どうもこんにちはネクロだよ。という訳で、現在は塔の上からボーッと海を眺める役職に就いてます。


「向こうの被害は三割、こっちはゼロかな」


 正直、海での防衛は手を抜いていた。理由は単純に出番が無く終わってしまう子が多くなりすぎるからだ。海上の船団にドラゴンを差し向ければ一瞬で終わらせることも出来ただろうけど、それをすると折角建ててくれた塔も、頑張って仕込んだ罠も、意味が無くなってしまう。


 まぁ、手を抜いていた割に向こうの被害は多いけどね。三割も削れるとは思ってなかったよ。でも、大抵の人は幻覚に耐性を持ってないからしょうがない。


「ただ、ちょっと話が変わってきたね」


 まぁ、負けることは無いと思ってた今回の戦いだけど……帝国十傑が二人も紛れてるとはね。『凍獄』と『魂牢』、凍獄はともかく魂牢に関しては殆ど情報がない。十傑の中でも古参だってことくらいしか分かっていない。


「これは……悪いけど、ちょっと本気を出す必要があるかもね」


 他の有象無象はどうでも良いけど、帝国十傑はここで必ず仕留める。

 話を聞く限り僕の命を狙ってるらしいしね。僕をどうやって殺す気か知らないけど、放置しておけば僕の従魔達が被害を受けるのは免れないだろう。


「それにしても、僕は幸運だね。僕たちを狙う刺客が態々消されに来てくれるなんて。……ねぇ、エトナ?」


「んー? そうですね〜」


 返ってきた余りにも適当な返事によって、僕の心にあった僅かな緊張感は打ち砕かれてしまった。






 ♦︎……死闇の銀血シルバーブラッド視点




 船に揺られる旅は遂に終わり、彼らは陸に到着した。前の方の船から続々と人が降りているが、特に襲撃されている様子は無い。


「漸く着いたか。それにしても、俺たちは運が良いな」


「そうっすか? 面倒臭いってくらいの感想しか無いっすけど」


 リジェルラインの不真面目な物言いに、ディネルフは溜息を吐いた。


「……リジェル、これは正式な帝国の任務だぞ。面倒などと口にするな」


「あー、はいはい。分かったっすよ。それで、何が幸運なんすか?」


 明らかに分かった様子のないリジェルに白い目を向けるディネルフだが、諦めて言葉を続けることにした。


「目標がこの島に籠っていることだ。痕跡を消すことも、姿を隠すことも必要無い。ただ殺して帰るだけだぞ? 隠蔽の必要が無いのだ。しかも、逃げ道も無いと来ている。こんなに簡単なことはないだろう」


「……まぁ、言いたいことは分かるっすけどね。でも、逃げ道が無いからって逃げられないとは限らないっすよ。こんだけ大きい島だと、転移の類を無効にするのも難しいっすから」


「何を言っている。帰還石リコールストーンや転移を使われる前にお前がお得意の力で捕まえてしまえばいいだろう」


「いやいや、無茶言わないで欲しいっす。対面した瞬間に逃げられたら流石に間に合わないっすよ。ていうか、もう逃げられてる可能性だってあるんすから」


 確かにそうだな、とディネルフは呟いた。


「目標の手の者が既に俺たちのことを報告していたなら高確率で逃げているだろうな」


 ため息を吐くディネルフ。しかし、その直ぐ横で首を振る男が一人。


「いいや、それはねぇな」


 赤黒の男、カルブデッドだ。


「何故そうだと言える?」


「俺たちが次元の旅人だからだよ。死んでも死なねぇ俺らには恐怖がねぇ。負けるから、殺されるから、そんな理由で相手を恐れる理由がねぇんだよ。寧ろ、そういう化け物と相対した時に考えることは、その化け物を倒した後のことだ」


 負けた時のことなんてどうだって良いからな、とカルブデッドは続けた。


「さぁ、そろそろ俺たちも降りる番らしいぜ」


「……分かった」


 腑に落ちない表情で頷くディネルフは、素直に船から降りた。


「そういえば、船を見ておく者は必要無いのか?」


「居るには居るが、殆ど現地人だけだろうな。ここまで来といてお留守番したいってプレイヤーは中々いねぇよ。……あぁ、プレイヤーってのは次元の旅人のことな」


 カルブデッドの言葉通り、留守を守っているプレイヤーは付与術士や結界士などの金で雇われている者だけだった。主力のメンバーは全員が島攻めに参加している。


「にしても、不気味だな。上陸したのに魔物一匹も寄ってこないとはよ」


「そうですねー、もしかして戦力を温存してるんですかね?」


 話し合うカルブデッドとレヴリスの一歩前に出たニラヴルは、呆然とした様子で島の中央にある山、その天辺を見た。


「いや、それよりも……ありゃ、なんだ?」


 それは、塔だ。どう見ても塔だった。黒く染まったその塔は、明らかにダークサイドな見た目をしていた。


「塔、だな。しかもよく見りゃ、下の方にも色々あるな」


 木々で隠れて見え難いが、塔の足元にも建造物が見えた。


「……あ、あのっ! マスター! 居ますっ!」


「ニャラランノさん、どうしたんですか?」


 幽霊でも見たかのような反応に、レヴリスは困惑しながらも返した。


「塔の上っ! ネクロがこっち見てますっ!」


「……え、ホントなのです?」


 特殊なスキルを持つニャラランノには、塔の上から暇そうにこっちを見ているネクロの姿が見えていた。

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