氷と鎖と霧と
飛来する赤い結晶。大岩と形容できる程に巨大なそれは、炎を纏いながら赤く輝いてレヴリス達の乗る船に迫っている。
「ッ!? ニラヴルッ!」
「あいよッ!」
船に着弾する直前、ニラヴルとカルブデッドがそれを対処すべく飛び上がった。
カルブデッドによって展開された実体を持つ巨大な黒い魔法陣が結晶を受け止め、魔法陣が破壊されると同時にニラヴルの双大剣が勢いを失った結晶を弾き飛ばす。
「っと、危ねぇな。つーか、帝国十傑だとか言う割には咄嗟の対処も出来てなかったみてぇだが」
「やめとけニラヴル。可哀想だから言ってやんなよ」
ギリギリで対処に成功し、何もせず突っ立っていた帝国十傑を煽る二人。それを見てレヴリスは頭を抱えた。
「こ、こいつら……帝国十傑に喧嘩売りやがったのです。クラマスの気も知らずに喧嘩売りやがったのです」
そして、その挑発を受けた彼らだが反応は対照的だった。
「……調子に乗るなよ、軽薄な旅人風情が。そもそも、貴様らが動こうとする素振りが無ければ俺があの程度の攻撃、難なく対処していた」
「まぁまぁ、カチコチ先輩。そのくらいにしときましょうよ。アンタの意地と帝国の任務、どっちが大事っすか?」
剣を抜こうとするディネルフの手を、リジェルラインが抑えた。
「それと、アンタらもあんまり挑発しないで下さいね。この人、キレやすい上に冷酷なんで」
「はッ、先に馬鹿にするようなことを言ってきたのはそっちだがな。ウチは商売上、舐めたままじゃいられねえんだよ。……だがまぁ、お互いに協力するって言うんなら矛は収めるぜ」
意外にも落ち着いているリジェルラインの説得により、その場の雰囲気はなんとか収まった。
「じゃあ、みなさん早速協力して欲しいんですけど……この霧、どうにかしません?」
「おぉ、そうだな。確かに、こいつァ早く対処すべきだぜ」
「賛成だぜ。そっちも、それで良いな?」
その雰囲気に乗じて、レヴリスが提案する。すると、クランメンバーの二人は直ぐに頷いた。
「勿論、良いっすよ。カッチーもそれで良いっすかね?」
「……カッチーと呼ぶな」
乗り気のリジェルラインに冷たい反応を返すディネルフだが、提案を拒否する様子は無い。
「さてと、こうしてる間にも結構やられちまってるが……正直なところ、霧の魔物に関してはアンタ頼みだ。凍獄さんよ」
「知っている。お前らは指を咥えてそこで待っていれば良い」
相変わらずの態度で言い放ったディネルフは、船頭に立ち、目を瞑った。
すると、冷気がディネルフの体から発せられ、この海に広がっていく。
「……そこか」
目を開けたディネルフは、手を海に向かって突き出した。
「お、おぉ!? こりゃ凄ぇな!」
「海が……凄いです」
「へぇ、流石は帝国十傑ってとこだな」
突き出された手を起点に、空気が凍っていくかのように氷が海に伸びていき、その氷は海を凍らせながら、海中までどんどんと伸びていく。
「……この形、クラーケンか。かなり深いところから触手を伸ばしていたようだが、能力か」
一人で呟くディネルフに、カルブデッドが歩み寄る。
「……それで、結局どうなったんだ?」
カルブデッドの問いに、ディネルフは嘲るように鼻を鳴らした。
「フッ、決まっている。完全に体全体を凍らせた。霧の原因だったクラーケンはもう凍死しているだろうな」
すると、ディネルフの言葉を証明するかの如く霧が薄くなり、消えていく。
「……おいおい、マジじゃねぇか。凍獄の名は伊達じゃねぇってことか」
「ともあれ、これで安心ですね……はぁ、最初っからどうなることかと思ったのです」
安心したように息を吐くレヴリス。
そして、難を一つ乗り越えた船団はゆっくりと進んでいく。幻の霧による同士討ちや野生の海の魔物による襲撃でかなりの犠牲を出してしまったが、上陸さえすればこっちのものだ。そう、レヴリスは考えている。
「一応もっかい聞いとくが、クラーケンは死んだんだよな?」
「疑っているのか? 安心しろ。海の魔物というのは、基本的に凍らされれば死ぬ。少なくとも、クラーケンを凍らせて死ななかったことは無い」
凍らされれば死ぬというのはほぼ全ての生き物がそうだろうと思ったが、カルブデッドは突っ込まないでおいた。
「それに、俺の凍結は体内まで凍らせているのだ。呼吸も当然出来なくなる。寒さへの耐性がもしあったとしても、間違いなく死ぬだろうな」
「……なるほどな。そいつは確かに安心だ」
やっと納得したようにカルブデッドは頷いた。
彼らの乗る船の遥か後方で、巨大な影が一つ、氷の封印から解き放たれて浮き上がってきているとも知らずに。
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