魔の海を抜けると、そこは魔の島でした。
んー、まだかなぁ。僕はだらけた態勢で海から続々と上陸してくる
「あ、気付かれたね。まぁ、これで僕がここに居る意味は無くなったかな」
さっき望遠鏡代わりに取得した視覚強化SLv.3でじっくりと観察していると、同じような力を持っているらしいプレイヤーが僕のことを発見した。
ここに居る意味は無くなった、というのはアクテンから気付かれるまでこの塔の上に居てくれと頼まれていたからだ。理由に関してだが、僕がこの塔の頂上で待ち受けていると勘違いさせる為らしい。
「本当はなんかアピールする予定だったんだけど……まぁいっか」
踵を返し、本来の居所である塔の地下に帰ろうとしたその瞬間。
「ネクロさんッ!」
「……危ないなぁ」
塔の頂上に巨大な氷の槍が飛来した。が、塔全体に張られたシールドによってそれは拒まれた。
「うわ、もう罅入ってるじゃん。十分は余裕で凌げるとか言ってたけど嘘じゃない?」
「大丈夫ですよ、シールドが壊れても私が守りますからねっ!」
「うん、そうだね。それは信じてるよ。でも、もう降りるからね」
エトナが意気込んでくれたところ悪いが、もう僕がここにいる理由はない。さっさと地下に引きこもるのみだ。
♦︎……
極大の氷の槍が、塔の頂で弾け散った。その巨大な槍にも、それを防いだ塔にも、どちらに対してもどよめきが起こる。
「……チッ、流石に対策していたか」
「当たり前っすよ。じゃないと、あんな無防備に外眺めらんないっす」
本当に対策されていないと外を眺めていなかったかは不明だが、二人は仕方無しと諦めた。
「しかし……あそこまで歩いて行くのは流石に骨が折れるな。どうせ道など無いのだろう」
「じゃあ、転移が使える奴を探して直行できるように頼むっすか?」
リジェルラインの提案に、ディネルフは首を振った。
「いや、歩いて行く。流石に敵の庭を少人数で歩き回り孤立するにはマズイだろう」
「おー、珍しいっすね。いつものカッチーなら相手を舐め腐って塔まで一人で突撃してたとこっすけど」
「……カッチーはやめろと言っただろう」
真顔でリジェルラインを睨みつけるディネルフ。
「その俺がまるで馬鹿のような物言いには異を呈したいが、まぁいい。今回慎重に動くのは敵の戦力が未知数であることと、上の警戒度が異常だからだ。普通、十傑を二人も同じ任務に動員することなど少ない。あったとしても、規模が大きい任務で一人だと手が足りない場合くらいだ。だが、今回は俺とリジェルラインの二人を差し向けた」
ディネルフは溜息を吐き、塔の頂上を見た。
「……それに、そもそも今回の発端は我が愚弟が敗北したことだ。つまり、奴は帝国十傑を一人ならば打倒できる実力があるということだ」
忌々しげに言ったディネルフを、リジェルラインはどこか温かい目で見た。
「いや〜、カチコチ先輩も成長したっすね。最初はありとあらゆる相手を舐めてたっすのに」
「……黙れ」
と、二人が話している間に周りの準備は整ったようだ。
「皆さん、行きますよーっ!」
レヴリスの合図を拍子に、集団はどんどんと動き出して行った。
島の中心へ、森の奥へと進んでいく集団。その中には、PKクランのメンバーは勿論、興味本位のプレイヤーや、金目的のごろつき、更には帝国の最大戦力である帝国十傑も含まれていた。
「……不気味なくらい静かですね」
集団の中央を歩くレヴリスが呟いた。彼女の言葉通り、森の中は異常なまでに静かで、何も居ない。
「────マズイっす」
何も起きない敵地の森、魔物が一体も姿を表さない中、集団の緊張感が薄れてきた瞬間。リジェルラインがそう口にした。
「マズイって、何がマズいんですか?」
レヴリスが聞くと、焦った様子でリジェルラインは口を開く。
「囲まれてるんすよ、完全に。多分、敵には範囲内の気配を消せるスキルを持ってる奴が沢山居るっす。じゃないと、こんなに包囲されてるのに斥候職すら気付かないなんて、ありえないっす」
「い、いや、気配を消されても普通、一人くらいは気付きますよ? 完全に全員の気配を消すなんて無理だと思うのです。ていうか、だったら何でリジェルさんは気付けたんですか?」
リジェルラインは、ゆっくりと首を振る。
「普通なら、そうっす。でも、それは距離が近い時だけっす。今、俺たちと敵の距離は結構離れてるっす。だから、誰も気付けなかったっす。あと、俺が気付けたのは気配を探る能力とかじゃなくて、ただ単純に物理的な接触で気付いただけっす」
「物理的な接触って、なんです?」
「仕掛けといた鎖に触れた奴がいるってだけっすよ」
一定の距離を置いて自分たちを包囲している者たちが居る、その事実をリジェルラインは噛み砕いて伝えた。また、気付けた理由については深く説明する気はないようだ。
「……多分っすけど、敵は俺たちが完全に森に入り切るまで待ってたっす。森の中から、逃がさない気っすよ、これ」
リジェルラインの言葉通り、彼らはもう完全に森の中へと入ってしまっている。船で待機しているもの以外は一人足りとも、森の外に居ない。
「……ォオオオオ」
「……ァアアア」
「……ァオオオオ」
瞬間、それが響いた。自分たちを囲むように、ありとあらゆる方向から、化け物の叫びとしか形容できない、それが響いた。
「……始まるっすよ」
つい先程まで静寂が満たしていた森の中、一気に緊張が走った。
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