迫り来る殺人者達

 ♦︎……レヴリス視点




 進み出した船は順調に航路を行き、遂に魔の島の海域に辿り着きました。


「みんな、そろそろ気を付けてくださいね! もうすぐ、あの島の海域なのですっ!」


「おぉッ、遂に来たかッ! てこたァ、強え魔物どもがやっと襲ってきやがんだな?」


 嬉しそうに吠えるニラヴルですが、正直ちょっと意外です。


「あれ、ニラヴルさんって魔物と戦うの好きでしたっけ?」


「いや、確かに魔物よりもプレイヤー相手の方が好きだがよォ、それでもこの船旅は暇すぎんぜマジで。船の数が多いからか知らねえけどよ、全然誰も襲ってこねえじゃねえか」


 退屈なんだよ、と悪態を吐くニラヴルの背後から一人の男が現れました。


「へへへ、気が立ってんなぁ? ニラヴル。でも、しょうがねぇよ。百三隻も船が浮いてりゃ、襲おうとする魔物は殆どいねえよ。居たとしても頭の悪い雑魚魔物だけだな」


 赤と黒の混じり合った髪に、赤と黒のオッドアイを持つその男の名は、我らが闇クランのサブマスター。ウチでもトップクラスの実力を持つカルブデッドです。


「つーか、クラマス。そろそろマジで気を付けた方が良いぜ? 俺も結構調べたんだが、ここは相当やばいらしい」


「ふふふ、分かってますよ。じゃあ、そろそろ……ニャラランノさんっ!」


「分かりましたーっ! あれですねーっ!」


 マストに登っていた猫獣人の可愛らしい少女が元気に返事を返すと、懐から笛を取り出して吹き始めました。


「テメェらッ! 合図がかかったぞッ! 準備しろッ!」


「先頭の船は速度落とせッ! 後ろのやつらは速くしろッ!」


「こっからじゃ聞こえねえよバカッ! チャットで言ってやれッ!」


 すると、共鳴するかのように他の船からも笛の音が次々に鳴り響き、百隻以上並ぶ船達がゆっくりと足並みを揃え始めた。


「良いぞッ! その調子だッ!間違えても船を傷付けんじゃねえぞ!」


「分かってらァ! つか、テメェ誰だよッ! 船長でもねえくせに指示ばっか出してんじゃねえよッ! テメェも働けやッ!!」


 私の乗っている船を中心に、ゆっくりと船が一箇所に集まっていく。やがて、まるで一つの生き物のように固まった船達は、お互いを軽く特殊な鎖で金具に繋ぎ合わせていく。

 これが、私達が魔の島の海域を攻略する為に編み出した答えだ。


「じゃあ、エンチャンターの方! よろしくお願いしますっ!」


 方々から雇ったプレイヤーやNPC達が、次々に私の船の中心に置かれている鎖に繋がれた銀色の球体に集まり、そこに魔力と術を込めていきます。

 彼らは支援を専門とする人たちで、中には結界術士などの珍しいジョブもいます。


 すると、球体に込められた術が鎖を伝って全ての船に広がっていき、船団全体を強力な結界とエンチャントが覆った。


「ふふふ……なんとか上手くいきましたねっ!」


 全ての船を淡い魔力の光が包み、船団を覆うように結界が張られているのを見て、私は満足げに頷きます。


「おー、こいつは凄えな。魔の島の海域だかなんだか知らねえが、無傷で乗り越えられんじゃねえか?」


「確かになァ……はぁ、結局戦闘無しになんのかよ?」


 詰まらなそうな顔をするニラヴルに、私は首を振ります。


「安心して下さい。向こうだって、そこまで甘くないと思いますよ?」


 私たちが準備をしている間に、向こうも準備をしているはずですからね。流石に私達ほど戦力を集められているとは思えませんけど、予想外が一つくらいあってもおかしくないです。


「ッ!! おいッ、揺れてんぞッ! テメェら落ちんなよッ!!」


「攻撃されてるッ! 結界がッ、結界が攻撃されてんぞッ!」


 下からドンドンと響く衝撃。間違いなく、襲撃でしょう。


「ほら、暫くすればどうせ破られますよ? 結界術士はそう多くなかったと思うので、魔の島の海域を耐え抜けるほどの耐久は無いはずです」


 ですが、船には何十人分ものシールドが張られているのでそう簡単に沈むことは無いと思います。まぁ、結界は時間稼ぎ用ですね。五分稼げれば上々って感じです。


「そいつァ良かった。このままじゃ船に揺られて寝るところだったぜ」


「おいニラヴル、下らねぇ冗談言ってる場合じゃねえぞ。結界、そろそろ割れるぞ」


 え、まだ一分も経ってないんですけど。流石に結界を張る範囲が広すぎましたかね?


「みんな、戦闘準備ですっ!」


 さて、そろそろ心の準備をしておきましょうか。


「わぁーってるッ! おいテメェらッ、聞いたなッ!? 戦闘準備だッ!」


「おう分かったッ! だけど、テメェそろそろ船長面やめろやッ!」


 バリン、結界が割れる音と共に、結界の外から凄まじい濃さの霧が流れてきた。

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