亡霊剣士
黒い布切れを纏った、黒い霧の体を持つ亡霊剣士。その不明瞭な手に握られた鈍い銀色の剣は単なる道具ではなく、彼の体の一部だ。
「取り敢えず、アサシン運用をするに当たって気配遮断はSLv.7まで上げて、魔力隠蔽もSLv.3まで上げたんだ」
彼はLv.62の結構な強者だった。ただ、僕の仲間を含めた強者との戦闘を条件に仲間になってくれた。
一応、この島にも強い奴らは一杯居るけど、泉の精はそもそも戦おうとしないし、竜は強者ではあるけど戦っても相手にならないし、他の魔物は既に倒したことがあるか、直ぐに逃げていくかのどっちかだから、戦闘への渇望を全く満たせていないらしく、それが理由で僕の仲間に加わったのだ。
ただ、そんな彼をアサシンとして運用するのは大丈夫かって話だけど、それは別に問題ないらしい。彼が求めるのはただ闘争のみであって、相手が毒や呪いを使おうと、数の暴力で襲ってこようと、勿論その逆で自分がそういう手を使おうと、その闘争においてお互いが本気ならば問題無いらしい。
「それで、エトナの助言に従って暗殺術をSLv.4まで上げて、相手に存在がバレても位置を常に変えられるように転移魔術も取得させたし、敵を殺す度にステータスが戦闘終了か一定時間が経過するまで増加する【
ただし、上昇量は殺した相手のステータスに依存するのでただの虫や植物を殺しても特に意味は無い。それに、相手が一体しかいなかったりとか、複数対一の状況でそもそも誰も殺せなかったりとか、かなり状況を選ぶスキルなので態々50SPも払って取得するプレイヤーは多くない。
因みに、余ったSPは光属性耐性を取得させておいた。彼は日光で焼けることは無いらしいけど、アンデッドである以上、光属性に弱いのは確かなので耐性は取っておくべきだろう。
「まぁ、今後は分からないけど敵が複数居ることが確定してる今回は結構役に立つスキル構成だと思うよ」
気配遮断がSLv.9のエトナ曰く、本気で隠れて気付かれたことは特殊な道具を使われた時以外には無いらしく、SLv.7でも十分に気配を消せるそうだ。
それに、元々気配が希薄な
「……それだけ強いなら、別に今回以外も役に立つんじゃないですかね」
「そうだね。そもそも、黒い霧の体は物理も闇も無効だし、布の部分も破れたり斬られたりしたところで大きいダメージも無いし直ぐに再生するし、剣の部分は言わずもがな凄く硬いから、元から結構厄介な魔物なんだよね。それに転移とかが付いたら、まぁ厄介だよね」
オデュロッドは呆れたような目で僕を見ている。
「もはやこれ、僕が色々罠とか仕掛けた意味無いんじゃないですか?」
「あはは、そんなことないよ。だって、敵の戦力は未知数なんだ。備えあれば憂いなし、だよ」
僕はオデュロッドから視線をズラし、亡霊剣士を見た。
「イシャシャ。取り敢えず、敵が攻めてきたら気配を消して森に潜伏してね。それで敵が近くに来たら不意打ちで一人か二人殺して、そしたら
例え敵の集団の殲滅に失敗しても、イシャシャの不意打ちによる恐怖を植え付ければ警戒に多くのリソースを割かなければいけなくなるから、マイナスにはならないはずだ。いや、寧ろプラスだろうね。
『……了解した』
地獄の底から響くような、くぐもった低い声でイシャシャは応えた。
「え、いや、人の言葉喋れるんですか? この、アンデッド?」
困惑したように僕とイシャシャに視線を往復させるオデュロッド。
「当たり前だよ。なんてったって、元は人だからね」
「いや、明らかに発声器官が無いと思うんですけど」
何かおかしなことを言っているので、僕はオデュロッドの肩に手を置いて微笑んだ。
「オデュロッド、ここはファンタジーの世界だよ?」
僕は背後に聳え立つ山を振り向き、言葉を続ける。
「人と同じ発声器官を持っているとは到底思えない竜も人語を喋るし、明らかに全身が液体の泉の精霊も人語を喋る。だったら、どう見ても霧と布と剣しかないアンデッドが人語を喋ったって何もおかしいことは無いよ」
「……確かにそうかも知れませんね」
オデュロッドは溜息を吐くと、眼鏡をクイッと上げた。
「ですけど、その竜も精霊もアンデッドも支配下に置いてる貴方は明らかに異常ですよね?」
「あはは、失礼しちゃうね。僕は支配なんてしてないよ。ただ、僕たちは魂まで繋がった仲間で、深い協力関係にあるだけだよ」
実際、泉の精霊に関しては本当に契約も何もしてないしね!
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