- 海上のSilverBlood -

 ♦︎……レヴリス視点




 さてさて……今日は待ちに待った襲撃の日です。整えるべき準備は整えました。後は、圧倒的な力で滅ぼすだけです。


「……流石に島に籠られたって聞いた時は焦りましたけど」


 しかも、その場所は魔の島と呼ばれるクランナバァル島……島に危険な魔物が居るだけならまだ良かったんですけど、その周辺の海にも強い魔物がうじゃうじゃいるということで、本当に最悪です……。


「あ? なんか言ったか、クラマス?」


「いや、何も言ってないですよ? きのせーです」


 無駄に良い耳で私の独り言を微かに拾った粗暴な口調の男はニラヴルです。上裸で素行も悪く行儀も悪い男ですけど、それでも腕は立ちますし……何より、うちのクランメンバーは殆どがこんなのですから。


「ふふふ……我ながらよくここまで戦力を集められましたね」


 私達が居るのは海岸……というか、船の上。辺りを見渡すと、数十隻から成る船団が海岸沿いにぷかぷかと浮かんでいます。自前で用意していない分も結構あるので分かりませんけど、もしかしたら百隻はあるかも知れません。


「せんちょー! そろそろ出発しても良いんじゃないですか!」


 と、後ろから声をかけてきたのはニャラランノさん。猫獣人の女プレイヤーです。職業は盗賊系だった筈です。スリとか窃盗とか、盗みを中心にこのゲームを楽しんでる人ですねー。社交的で頭も良い方なので結構重宝してます。


「ふふっ、ニャラランノさん! 私は別に船長じゃないですよ?」


 でも、確かに準備は終わってますし……うん、良いでしょう!


「そうですねっ! オッケーです! じゃあ、全体チャットに合図出しちゃうのですっ! 細かいところはよろしくなのですっ!」


「もーっ、せんちょー! 面倒臭いことを全部私に任せるのやめて下さいよーっ! ブラック企業だー! 訴えてやるー!」


「ふふふっ、闇クランに労働基準法なんて無いのですっ!」


 なのです口調も板についてきて、無意識に出ちゃうレベルなんですけど……そろそろ現実でも言っちゃいそうで怖いです。


「よしよし、録画も開始できてますし……早速、行きましょー!」


 掛け声と同時に、全ての船に私の出した合図が伝わり、海岸に並べられている中でも、真ん中から順番に船が動き出した。


 暫く経つと、全ての船が水平線の向こうへと進み始める。


「おぉッ、こいつァ中々壮観だなァ! なぁ? レヴリスちゃん!」


「そうですね……VRMMOって本当に凄いです。どんな仕組みでこんなことが出来るんでしょうか」


「……なんか、声色変わってるぞクラマス」


「な、なのですっ!」


 ニラヴルの言う通り壮観な光景に思わず半分素が出てしまいましたが、必殺のなのですで何とかキャラを戻せました。多分。でも、動画では絶対に使わないのです。なのです。


「……いや、別に良いけどよ」


「それよりニラヴルさん! この景色のスクショとか撮っとかなくて良いんですかっ!? 今の内ですよっ!」


「ん? あー、いや、俺ァどうせこういうの撮っても見返さねえからなぁ……まぁ、この眼球に押し付けとくわ」


「……目に焼き付ける、ですよ」


 眼球に押し付けるって、凄い痛そうなんですけど……いや、目に焼き付けるの方が痛そうですね。ていうか、ニラヴルさんって偶にこういうおバカさんなことを言うんですけど、現実でもこんな感じなんですかね……最初はそういうキャラだと思ってたんですけど、最近は本物な気がしてきました。


「あー、そうだったな。まぁ、伝わんなら変わらねえだろ」


 雑すぎませんか、この人?


「せんちょー、やっと終わりましたよ〜」


「ニャラランノさん、お疲れ様なのですっ!」


 ぴしっと敬礼を決めて笑顔を作ると、ニャラランノさんは恨みがましそうに私を睨みつけました。


「……ボーナスを要求」


「しょうがないですね……じゃあ、この襲撃が上手くいったらこの前ニャラランノさんが言ってた腕輪を買ってあげちゃうのです」


 そう言うと、ニャラランノさんはピシッと固まった。


「ほ、ホントですか!? アレですよ!? あの、百万は余裕でするのですよ?!」


「知ってますよ? ふふふ、闇クランのマスターは懐が暖かいのです」


 その分、今回みたいに払う時は大きく払いますけどね。まぁ、お金を払う必要があるNPCがどれだけ残るか分かりませんけど……どうせ全員ゴロツキなので、多少減っても私の良心は痛みません。


「それはそれは……ありがとうございます?」


「いやいや、感謝の言葉は買った時で良いですよ? それか、勝った時でも良いです」


 勝利時に購入が確定する腕輪にかけてちょっと言ってみると、船のギリギリのところに立って海を眺めていたニラヴルが凄い勢いでこっちを向きやがりました。恥ずかしいからやめて欲しいです。


「おぉッ、ダジャレか?」


「そのクソうざい反応、やめるのですッ」


 やっぱり、コイツは本物です。人の心というものを分かってないのです。


「何はともあれ、これだけプレイヤーとNPCがいれば負けは無いですね。せんちょー」


「そうですねっ! 勝利確定なのですっ! ……あと、せんちょーではないのです」


 私は二度目の突っ込みを入れてから、視線を海の方に戻した。

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