拠点設営

 気絶から回復したアクテンも加わり、拠点設営は順調に進んだ。現在の時刻は16:30だが、見た感じ拠点はほぼ完成というところまできている。


「いやぁ、本当に凄いね。まさかここまで立派なのが出来るとは思ってなかったよ」


 僕の眼前には、僕の予想とは全く異なる拠点が聳え立っている。正直、急拵えで作った拠点なので必要最低限のほぼテントレベルの代物を予想していたが、そこに出来上がっていたものは全く違うものだった。


「俺もまさかここまでとは思わなかったわ。砦だもんな、これ」


「うん、しかもこのスピードでやれるのは凄いよ」


 それは、正に砦。若しくは要塞といったところだろうか。城壁のような壁と内側の塔でこの施設は構成されている。

 アイテムボックスから取り出したであろう謎の金属や石材で作られたその建造物は、頂上の殆どの面積を食いつぶして聳え立っていた。


「おう、うちのメンバーは凄いだろ? ……って言いたいところだけどな、作業が速攻で進んだのはそっちの従魔の力が大きいな」


「あはは、まぁね。でも、これだけの素材と技術はそっちのものだからね。あとで素材代は請求しても良いよ」


「お、マジか? 幾らになるか知らねえぞ?」


「良いよ良いよ。僕は結構、リッチなんだ」


 闘技大会で優勝したからね。お金はかなり溜まっている。それに、一応ちょこちょこ魔物の素材は取っているので金欠になったらそれを纏めて売り払えば良い。


「頂上より下も結構出来てるね」


「そうだな。土台や柱が完成してからはオデュロッドが自由になったから、大蛇を連れて下の方を好き勝手に改造してるらしい」


「うん。もう、僕らでも正規の道以外を歩けなくなったね」


 頂上に繋がる道は舗装されているもの以外も含めると幾つかあるが、僕らが舗装した道以外の経路はオデュロッドとグラ、そして従魔のゴブリン達が仕掛けた罠で溢れているので、僕らも迂闊に島を歩けなくなっている。


「ネクロさんー、ほぼ出来上がったので見ていきますかー?」


「うん。途中だけど良いの?」


「良いですよー、だって後は完成後の最終チェックだけなのでー」


 そっか、なら良いね。


「じゃあ、早速案内して貰えるかな?」


「こっちですどうぞー」


 間延びした声に少し脱力しながらも、僕はアクテンの後ろをついていった。すると、頂上にそびえ立つ外壁が僕たちを出迎える。


「えっと、この砦は城みたいな構造になってましてー、先ず外壁ですけど、マロックっていう石を良い感じに加工して良い感じに壁にしました」


 うん……なんか、良い感じってことしか分かんないんだけど。


「なので、爆破でも打撃でも基本壊れないですねー」


 分かんないけど、多分凄いんだろうね?


「次に、内側ですねー」


 石の外壁を、門を通って中に入ると、そこには少し広めの空間とその中心にそびえ立つ大きな塔が待っており、空いた空間にはゴブリンや何体かの魔物が詰められていた。彼らはお互いにグギャグギャと話しているように見える。


「あー、壁の内側にいる魔物達はある程度立場が上の子だけらしいですよー?」


 立場が上の子……ここから命令を出したりするってことなのかな?


「この外壁の上から攻撃するんですけど、まぁ色々細かい仕掛けがありましてー……まぁ、ネクロさんは多分使わないんで関係ないですねー!」


「あぁ、うん……まぁ、そうかもね?」


 確かに僕は壁の上から魔法を撃ったりとか、そう言うことはしないだろう。多分、そこにある塔の王でどっしりと構えておけば良いのだろう。


「次にこっちの塔なんですけど、クロミラル鋼っていうミスリルとか色々混ぜられてる金属で作ってます。硬いです」


 黒っぽい素材で作られた太めの塔は、艶やかな光沢を放っている。確かに、如何にも硬そうではある。


「多分、こっちは何やっても壊れないですかねー。向こうの石壁は魔術に対してはあんまり硬くないんですけど、こっちは耐性面もバッチリなのでー」


「それは凄いね」


 それが本当なら結構なことだけど。


「まぁ、加工の難しさとかそもそも量が足りてないとかで、外壁には使えなかったんですけどねー」


「なるほどね」


 納得には値する理由だ。


「そもそも、最初はこっちの塔だけの予定だったんですけど、思ってた数倍早く作業が進んじゃったので、調子に乗って外壁も拵えちゃいました。それでもまだ時間が余ってるので、どうしましょうかねー」


 悩ましそうに、しかし楽しそうに考えるアクテン。


「じゃあ、塔の中に入っちゃって良いですよー」


「うん」


 黒い塔の中に入ると、意外にもしっかりとした内装が僕を出迎えた。絨毯は高級そうなもので、明かりも高そうだ。


「正直ここまで敵に入られる予定は無いですけど、防衛用の設備は十分付けてます」


「へぇ、例えばどんなの?」


 思わず訪ねた僕に、アクテンは壁の下側を指差した。


「そこ、ちょっと穴が空いてるんですよ。なので、そこから槍を突いたり魔法を放ったり、どうせ壁は壊れないので好き放題出来ますねー」


「あー、城とかによくある奴だね」


「はい。この塔の中には通路と裏通路があるんですよー」


 裏通路を通って有利に攻撃できる場所に移動するってノリだろう。


「後は、罠とかも色々仕掛けてますけどそっちは大体オデュロッドが主体で作ってますし、ネクロさんは罠にかかることもかけることも無いのでスルーしますねー」


「え、かかることも無いっていうのは?」


 僕の当然の疑問に、アクテンはまた指をさした。今度は上だ。


「例えば、ここの天井には炎が噴射される罠が仕掛けられてますけど、発動は手動なのでネクロさんが引っかかる心配は無いですねー」


 あー、つまり敵を視認してから誰かがスイッチを押す形式だから僕が襲われることは無いんだね。


「まぁ、こんな感じの仕掛けが塔の頂上まで続いてるって感じですねー」


「それで、僕は頂上で待っておけば良いのかな?」


 ほぼ確信を持って問いかけたが、アクテンは首を振った。


「いや、頂上はフェイクですねー。上にはチープさんに居てもらいます。ネクロさんは隠し通路を通って地下の奥底で待機ですかねー」


「あぁ、うん……そっか」


 塔の頂上で待ち構えるボス的なポジション、ちょっとやってみたかったんだけどなぁ。

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