青旗

 あれから仮の拠点を作り、ある程度地形を整備した後、僕はログアウトした。


「おはよう、チープ。早かったね」


「まぁな。久し振りにこんなに早起きしたかもな」


 そして今日、時刻は朝八時過ぎ。僕が起きるより早くチープ達はこの島にやってきていたようだった。予め、青い旗の船が来ることは伝えてあったので特に混乱は無かったらしい。

 海辺には、青旗の船が一台浮かんでいる。


「取り敢えず、拠点を作るっつってたから、そういうのが出来そうな奴らを連れてきたぞ」


 そう言ったチープの後ろには二人のプレイヤーが立っていた。片方は緑が混じった黒髪の男、片方は少し長い白髪の女だ。

 男は眼鏡をかけており、女は帽子を被っている。なんとなく特徴的な二人だ。


「どうも。緑祭司ドルイドのオデュロッドです。植物を操ったりできます。拠点設営は得意です」


「うん、よろしくね。魔物使いのネクロだよ」


 丁寧な口調だが、その言葉からは自分への自信が滲んでいる。


「どうもー、アクテンですー」


「うん、よろしく」


 簡潔すぎる自己紹介を適当に済ませると、アクテンと名乗った女は直ぐに去っていった。僕が自己紹介をする前に去っていったので、ちょっと微妙な空気になっている。


「あー、すまん。あいつは自分がやってることを済ませるまで他のことはしたくない主義らしくてな。今作ってる拠点が完成するまではずっとあんな感じだろうな」


「それはいいけど、ジョブは?」


 最低でも、何が出来る人なのかは知っておくべきだろう。


「土魔術士。オデュロッドは実際に組み立てたり、細部に仕掛けを施すのが得意なんだが、アクテンはデザインを考えるのが得意って感じだな」


「へぇ、良いんじゃない?」


 土魔術士なら、ある程度は自分で組み立てが出来るはずだ。と、言っている間にオデュロッドも作業をしに行ってしまった。


「あぁ……ただ、オデュロッドがお前のクソデカい蛇と植物を介して話せるみたいでな? それで、オデュロッドと蛇経由で勝手に従魔と協力して拠点を作り始めたんだよ」


 あぁ、グラもオデュロッドも同じ緑祭司ドルイドだからね。


「いや、別に良いけど……普通にエトナかメトと話せば良いのに」


 態々意思疎通のしにくいグラと話す必要は無いと思うんだけど。


「俺だってそうしたかったんだが……どっちも、好き勝手にこの危険な島を歩き回ってるせいでついて行けねぇんだよ」


「……あぁ、うん。ごめんね」


 あの二人、一体何をやってるんだろう。まぁでも、それならグラと話すのが良いか。


「ネクロさんー……でしたっけ? 言い忘れてたことがありましてー」


 と、そこで慌てた様子でアクテンがやってきた。


「うん、どうしたの? 因みに僕は魔物使いのネクロだよ」


 さっきできなかった自己紹介もついでに済ませておいた。


「頂上に入っちゃいけないって言われてる穴があるんですけど、邪魔なんで埋め立てちゃって良いですかねー? 良いですよねー」


 頂上の、穴……いやいや、絶対ダメだけど!?


「ダメだよ? 絶対にダメだよ?」


「え、絶対に……あ、フリですかー」


 安心したように息を吐くアクテン。いや、フリじゃないから。


「ううん、フリじゃないよ。ガチでマジで本気でダメだよ。あそこには竜が住んでるからね」


「あはは、またまたー」


 またまたー、じゃねえよ。


「えっと、本当に居るんだよ? 多分、今は穴の底に引っ込んでるのかも知れないけど」


「ネクロさん……? って、面白い人ですねー!」


 えっと、まさかまだ冗談だと思ってますか? ていうか、まだ僕の名前うろ覚えですか? さっき一回自己紹介致しましたけど?


「あのね。あそこに入ると、レッドドラゴンがブチギレるんだよ?」


「れっ、レッドドラゴン……ぶふっ!」


 吹き出してんじゃねえよ!? ……やばい、僕のキャラが変わるレベルでやばい人だ。


「……もう良いや。実物を見せた方が早いよね」


 赤竜に主従伝心テイマーズ・テレパシーを繋ぎ、僕のもとに来るように伝えた。ついでに、完全に君のことを舐めてる子がいるよ、とも伝えておいた。


「お、見せてくれるんですか? レッドドラゴン……ぷぷぷっ」


 赤竜のこと、他の子は教えてあげなかったのかな。ていうか、ツボに入ってんじゃねえぶっ飛ばすぞ。


「じゃあ、あそこ見といてよ」


「はいはい、見ときますねー」


 呆れたような表情で頂上を見るアクテン。


「あのー、全然出てきませんけ、ど……」


 赤き竜が、魔の島の頂上から現れた。そのまま竜は空を舞うと、火を吹きながらこちらに飛んできた。


『グゥウウウオオオオオオオオオオオッッ!!!』


 着陸すると同時に、竜は全力の咆哮をアクテンに放った。もしかしなくても、完全に舐められてるよ、と僕が報告したせいだろう。


「…………ぁ」


 バタリ、いつかの闘技場のように白髪の女は気を失った。

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