影より出でる者

 二本の大剣を構えたニラヴル。その奥でも、他のメンバーが弓や杖に短剣など、それぞれの武器を構えているのが見える。

 そして、最も僕に近いのはニラヴルだが、ここが室内である以上、当然振るうことができる力は制限される。


短距離転移ショートテレポーテーション


 よって、大剣が振るわれるよりも先に建物の外に転移で脱出することに成功した。なんとか危機を脱したので、フッと息を吐いて踵を返し、帰ることにした。


「待てやッ、オラッ!」


「うわッ」


 背後から聞こえた声に振り向くと、大剣が一本奥の方から飛んで来ていた。眼前に迫る危機に、間抜けな声が僕の口から漏れる。


「ふふふっ! 謎の剣士、仮面のエトナっ! 参上です!」


「いや、名前言っちゃってるけど」


 自ら謎要素を消しながら謎の名乗りを名乗りを上げたのは勿論エトナだ。


「クフフフ……どうやら、私が出る必要も無かったようですねぇ?」


「いやいや、攻撃を防いだのはネルクスだからね。必要だよ」


 エトナの前に立つ執事服の男。悪魔のネルクスだ。その手には投げ付けられた大剣が握られており、相当な重量を誇る大剣をその体勢のまま片手で持っている。


「おやおや、そうですか? それは重畳。サービスとして、こちらの大剣を投げ返しておきましょうか。クフフフ」


 そしてネルクスはその手に持った大剣を、片手で投げた。その先に居るのは、大剣の所持者であるニラヴルだ。


「っと、危ねえだろうがよッ!!」


 自分も大剣を投げ付けた事実を棚に上げ、怒鳴り散らすニラヴル。しかし、もうここまで距離が離れてしまえば彼は僕をどうすることも出来ないだろう。


「どけッ、ニラヴルッ! 必殺ッ、特製毒ナイフッ!」


「死ね。弓鷲死黒きゅうしゅうしこく


「ラピカス舐めんなって。鉄槍アイアンランス


 しかし、彼らは違ったようだ。ニラヴルを押し退けて前に出ると、その手に持った得物からそれぞれの技を繰り出した。


 一つは、明らかに危険そうな毒を刃から滴らせているナイフの投擲。

 一つは、黒紫色のオーラを放つ漆黒の鷲を纏っている高速の矢。

 一つは、空中に浮かんだ十数個の魔法陣から連続で放たれる鉄の槍。


 どれも僕の命を奪うのに十分な威力を持っていると思うが、この程度の攻撃で僕が動揺する必要は全く無い。

 それは、この攻撃以上に恐ろしく頼もしい僕の仲間達が居るからだ。


「ふふふっ! 私相手に投げナイフとは良い度胸ですね! ちょっとは工夫しているようですけど、甘いですねっ! この私がナイフの極意を教えてあげましょう!」


 飛来したナイフの前に立つエトナ。当然、ナイフはエトナの胸に突き刺さるが……ナイフはそこで霞のように消えた。その現象に一切の気を向けないエトナは、面倒臭そうに自分のナイフを虚空に振るう。

 すると、金属がぶつかり合うような音が聞こえ、地面に毒が塗られたナイフが弾かれて落ちた。


 つまり、最初の見えていたナイフは幻で、本当は毒ナイフを透明化させて投げていたということだ。結構エグいね。それに気付いて簡単に対処するエトナもエトナだけど。


「クフフフ……無駄ですねぇ。えぇ、無駄無駄」


 そして、間髪入れずに連続で飛来する十数本の鉄槍を、ネルクスは凄まじいスピードの拳のラッシュで破壊していた。空中で次々に鉄の塊が弾けていくのは気持ち良い光景だが、その無駄無駄って言うのはやめて欲しい。


「クフフフ……ですから、無駄なんですよ」


 また、その後ろから飛び掛かる鷲を纏った矢は、まるで本当に鷲が飛んでいるかのように軌道を変えると、ネルクスの上を通り過ぎようとした。

 が、そのような小細工は通じないとばかりに鷲に向けてネルクスが手を握ると、黒い鷲は弾け飛び、その中に宿っていた矢は呆気なく折れた。


従魔空間テイムド・ハウス。メト、アイツら埋めといて」


「了解致しました、マスター」


 虚空から現れたメトが、全ての攻撃を無効化されて呆気にとられている男たちに手を向けると、メトの近くの地面が次々と裏返り、浮き上がっていく。


「お、おいッ! ちょっと待ちやが────」


「────問答無用です。マスターからの命令なので」


 物理法則を無視して浮き上がった地面は、硬い金属の塊となって彼らに飛来し、その圧倒的な質量をぶつけた後はドロドロに液状化して彼らを包み込み、元の地面に戻って彼らを生き埋めにした。

 一応、察して逃げようとはしていたようだが、僕とネルクスとエトナの三人がかりの闇腕ダークアームで拘束されたのでそれも叶わなかった。


「んー、まぁ……多分生きてるし、良いよね」


 ニラヴル以外は金属塊が直撃した時点でお亡くなりになっていたような気がしたが、まぁ大丈夫だろう。きっと、メッセージは伝わってくれる。

 僕はそう自分に言い聞かせると、目的の島に向かうべくマップを開いた。

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