来訪、敵組織のアジト!
そこは、スラム一歩手前レベルに治安の悪い場所。サーディアの南側、城壁沿いの地区だ。
「ネクロさん。一応聞いておきますけど、お金持ち歩いてませんよね?」
「ん? あぁ、もちろん。流石にここら辺でスリを恐れないほど僕も馬鹿じゃないよ」
僕には大会優勝時の高額な賞金があるのだ。あれを丸ごとスられたら流石に萎える。
「あ、そうだ。そういえばヘルメールに一割あげるって言ってたの忘れてた」
「ん、何の話ですか?」
トラウマを想起させて気絶させたお詫びに、優勝したら賞金の一割を渡すという約束をしていたはずだ。向こうも忘れているかも知れないが、約束は約束なので今度送っておこう。
「いや、こっちの話だよ。……と、ここら辺って話じゃなかった?」
エトナの言っていた黒く煤で汚れた赤い屋根を見つけた。話が本当ならば、ここら辺にPKer達の拠点があるはずだ。
「あ、はい。そうです! えっと、こっちです。ほら、あそこにある若干酒場に見えなくもない場所です」
言われて指差された場所を見ると、そこには確かに酒場らしい看板がかかり、窓が多く付いている建物があった。しかし、その扉は固く閉ざされており、窓にも数カ所を除いて木の板が貼り付けられて中が見えないようになっている。
とてもでは無いが、来客を歓迎しているようには見えない。
「取り敢えず、僕だけで行くから……エトナは影の中に隠れといて。メトは
「えぇ……大丈夫ですか?」
「危険です。私が代わりに向かいます」
あんまり大人数で行くと、警戒されて話も聞いて貰えないかも知れない。なので、一人で行くことにする。まぁ、僕の中にはネルクスも居るし大丈夫だろう。ついでに、エトナの言っていた合言葉を利用しよう。
「あはは、大丈夫大丈夫。じゃあ、行こうか。
メトを強制的に仕舞い込み、エトナを影に沈める。そして、例の建物へと向かう。
「んー、人の家を訪ねる時ってちょっと緊張するよね」
と、そうだ。顔だけでネクロってバレたら面白くないからね。結構前に露店で買った仮面でも付けておこう。
顔の上半分を覆い隠すような黒い仮面だ。
「やぁ、入っても良いかな?」
扉をノックすると、向こう側でシャンシャンと鈴が鳴った。ちょっとの衝撃でこっちに聞こえるレベルの音が鳴るって、もしかして魔道具かな。
「……合言葉を言え」
奥から僅かにドタドタと歩いてくる音が響き、ドアの隙間から声が聞こえた。その声色からは明らかな面倒臭さが滲み出ている。
「鉄の骨」
エトナから聞いていた合言葉を告げると、あっさりと扉は開いた。
「……あ? 誰だお前? こんな奴居たっけな?」
「あはは、まぁいいや、お邪魔するよ」
「ちょ、おい! 待てやコラッ!」
奥から顔を出してきたのは、いつぞやの変態上裸剣士ことニラヴルだった。しかし、その手にはトランプのカードが握られている。
「うわ、それババじゃん」
「テメッ、言うんじゃねえよッ! バレんだろうがッ!」
何枚か握られたカードの中には、明らかにジョーカーと書いてあるものが混じっていた。というか、こっちにもトランプってあるんだね。いや、それともプレイヤーが作ったのかな?
「……ッ!? テメェ、変な仮面付けてやがったが、ネクロじゃねぇかッ!!」
「うん、そうだよ?」
否定する必要も無いので、頷いておく。
「ハァッ!? 何の用で来やがったッ! つーか、ウチをどうやって特定しやがったッ!」
「用は伝えたいことがあって来たんだけど、特定方法は知らないよ。僕がやったんじゃないし」
僕の言葉に、目を剥くニラヴル。
「おい、ニラヴル! 折角一人で目標が来て頂いてるんだ……さっさとやっちまうぞ」
「ヘッシーラの言う通りだ。つー訳で、前衛頼んだ」
「今は四人しか居ねぇのがアレだけど、ソロのテイマーくらい普通にやれるんじゃね?」
とっくにトランプを机に伏せていた男達は、代わりに得物をその手に持っている。
「まぁまぁ、落ち着いてよ。やるにしても、話くらい聞いて欲しいんだけど」
僕の言葉に、玄関に集合してきた男達は動きを止める。
「はい、これ。明日僕が居る場所ね。島に行くから、船用意した方が良いと思って先に言いに来たよ。当日に船を用意するって、難しいでしょ?」
場所を記した地図をニラヴルに押し付けて、僕は微笑んだ。
「じゃ、そういうことで」
踵を返そうとする僕の肩を、ニラヴルが掴んだ。
「……おい。まさか、ただで帰れると思ってねぇだろうな?」
完全にセリフを決めたニラヴルに、僕も良い感じにセリフを返すことにした。
「あはは……そのまさか、さ」
ニラヴルは無言でインベントリから大剣を引き抜いた。
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