心狼狩り

 合図と同時に飛び出したのはロアだ。ロアは跳躍で人狼の前まで飛び出すと、その大斧を振り下ろした。


「グォオオオオオッ!!」


「ガァッ!! クソ重てえんだよッ、テメェの攻撃はッ!!」


 両手の鉤爪をクロスして受け止め、弾き返した人狼。しかし、その背後から今度はエトナが黒い刃と化した腕を突き出してくる。


暗影斬ダークシャドウスラッシュ


「ッ!? 危ねぇなァ。気配を消しやがって、氷の粒を撒いとかなきゃ気付けなかったぜ」


 完全に不意を突いた一撃だったが、人狼はギリギリで回避した。どうやら、人狼の周りでキラキラと漂っている細かな氷の粒がエトナの存在を感知したらしい。


「キュウウウウウウウウッ!」


「うぉ、ッと。休む暇も、無ェってかッ!?」


 と、人狼が一息つこうとした瞬間に人狼の真上から大岩が落下してきた。それを回避した人狼だが、避けた先にはドス黒い拳が突き出されていた。


覇王拳ハオウケン


「ぐはァッ!? くッ、痛ェなァッ! テメェ、見た目と力が違いすぎんだろうがッ!!」


 見事に鍾鋼の腕輪グラウィス・ドゥラムの効果も乗った拳が人狼に直撃し、数十メートル先まで吹き飛ばされた。

 そして、地面に転がった人狼の周りにウィスプ達が群がっていく。


「あー、マジで痛ェ……あ? なんだ? 今度は幽霊どもかよ。舐めんじゃねェッ!!」


 立ち上がり、滅茶苦茶に鉤爪を振るう人狼。


「あァ? なんだ、テメェら。擦り抜けんのか? だったら、燃えカスになりやがれッ!」


 物理無効のウィスプに鉤爪は当たらない。更に、噴き上がった炎がウィスプ達を包むが……効かない。


「……これも効かねェのか。まァ、見た目が火の玉だかんな。そんな気はしてたけどよォ。だったら、こいつをッ!?」


 人狼が次の手を打とうとした瞬間だった。人狼の周囲に漂うウィスプ達全員、つまり全方位から数え切れないほど多種多様な魔術が放たれ始めた。


「ぐッ、ぐァッ、ぐふゥッ!? ガァァッ、やめッ、やッ、ぐはッ! テメッ!」


 火、水、風、土、光、闇……色とりどりの魔術の雨の中、人狼はもがき苦しみ、なんとか抵抗しようと鉤爪を振るうが、当然意味は無い。


「痛ッ、テメェッ!! クソッ、腕がッ!?」


 時魔術が人狼の動きを妨げ、空間魔術の防御を無視する刃が人狼の腕を切り落とした。


「ガァァアアアアッッ!!!」


 ボロボロの体から放たれる凄まじい咆哮。魂を震え上がらせるようなそれは、全てのウィスプを一瞬だけ停止させた。


「オレはッ、死なねェッ!!!」


 人狼の三つある心臓の一つが輝くと、人狼の体はほんの一瞬で再生し、完全に回復した。間違いない、あと二回の回復を使ったのだ。


「ハァ、ハァ……ついでに、凍っとけッ!!!」


 再生した人狼の体から吐かれた息さえ凍らせるような冷気が放たれると、近くにいたウィスプ達は段々と火の勢いが弱々しくなり、逃げ切れなかった数体は熱を失い消えてしまった。


「人狼さん、残機はあと一個ってところだけど、調子はどう?」


 僕の挑発的な問いに、人狼は凶悪な笑みを見せた。


「ハハッ、ハハハハッ! 当然ッ、絶好調だッ!!!」


 人狼は跳躍し、ウィスプの包囲網を抜け出すと、僕に向かって飛び込んできた。


「死にさらせやァッ!!」


「ブモ(させん)」


 燃え盛る氷の鉤爪が振り下ろされる。が、そこに割って入ったダークオークのドゥールが棍棒で鉤爪を受け止めた。


「このオレをッ、止められるとでも思ってんのかッ!!」


 しかし、人狼はもう片方の手を突き出し、鉤爪をドゥールの腹に突き刺した。


「ブモッ、ブモォオオオオオッ!!!」


「なッ!? タフってレベルじゃねェだろッ、テメェッ!!」


 突き刺されたまま体内で燃え盛る鉤爪。しかし、それに動じることなくドゥールは棍棒で受け止めていた方の鉤爪を弾いた。


「ブモォッ!!」


「ぐォッ!?」


 一閃。重たい棍棒が人狼の顔面に直撃し、人狼は吹き飛ばされた。


「グギャッ、グギャギャギャッ!!」


「グギャッ、グギャッ!」


「グギャギャッ、グギャッギャッ!」


 そして、今度はそこに腐臭を漂わせるゴブリン達が群がっていく。ゴブリンとゴブリンゾンビの集合軍だ。ただのゴブリンに関しては直接的な僕の支配下には無いが、禿山のゴブリンキングとマザーウィスプのムーンには感覚を繋げてあるので、指示は彼らが間接的に出してくれる。


「クソッ、なんだよテメェらッ!! ゴブリンでゾンビって最悪だなァッ! 臭すぎんだよッ!」


 人狼が嫌そうに顔を歪ませて叫ぶ。確かに、人狼の嗅覚って鋭そうだからゴブリンゾンビは厄介かもね。可哀想に。


「オラッ!」


「グギャッ!」


「死ねやッ!」


「グギャッ!!」


「臭えんだよッ!」


「グギャギャッ!?」


 鉤爪を一振りするごとに数個のゴブリンの首が飛び、舞い散る火炎で更に数匹が燃やされる。


「クソッ、斬っても斬ってもキリがねぇッ! あとコイツら死んでもクセェッ!!」


 言いながら、人狼がドンと大地を踏みつける。すると、そこを起点に地面が凍っていき、近くにいたゴブリン達の足も凍りついた。地面と足が凍ってくっつき、離れなくなっている。


「グギャッ!」


「グッ、グギャグギャッ!?」


「グギャァッ! グギャァッ!」


 火魔術を持つゴブリンはさっさと地面を溶かしているが、それ以外は必死に武器を地面に叩きつけている。


「オラッ、オラッ! 随分狩るのが楽になったなァ? 冷えてるとちったァ臭いもマシになった気がするぜッ!!」


 動けないゴブリン相手に、好き放題鉤爪を食らわせていく人狼。


「地面を凍らされるのは、困るなぁ」


 作戦に支障が出る。僕は加護の力を使い、黄金の炎で凍った地面を溶かし尽くした。途中で何匹かゴブリンも溶けかけたが、ギリギリセーフと言ったところだ。


「さて、地面も溶けたし……今だ」


 僕が合図を出す。すると、突然地面から大量の骨がズバズバと飛び出し、骨の嵐となって人狼に襲いかかった。

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